こうした中で、なかなか船長室から出てこない船長に焦るポーラ、酒浸りになっているらしい船長、「働き過ぎでかわいそう」だから乗務員全員を泳がせろと命ずるベラと、仕方なく言われるまま仕事から離れて泳ぐスタッフやクルー達など、不穏を通り越して狂った空気が全体を侵食していく描写が秀逸だ。ベラの命令のあたりからロシア国歌が流れるのも皮肉が効いている。
時化のため傾いたクルーザーの大揺れに揺れる食堂で、次々と供される高級ディナーの皿、”船酔い”で吐きまくる乗客、逆流した汚物に塗れパニックのるつぼに落ちていく船内。それまで王侯貴族のように振る舞っていた者たちの、身も蓋も無い醜態と惨状のドタバタ劇が、悪趣味なまでの徹底ぶりで展開される。

2023年8月4日発売『逆転のトライアングル』 Blu-ray:¥5390(税込) DVD:¥4290(税込) 発売・販売元:ギャガ(c)2022 – Plattform Produktion AB, Film i Väst AB, Sveriges Television AB, Essential Filmproduktion GmbH, Coproduction Office Ltd., Société Parisienne de Production SARL, Coproduction Office Aps., British Broadcasting Corporation, The British Film Institute
元々はマルキストで金持ち相手の仕事に嫌気がさしている船長と、資本主義の権化で悪ノリ上等のディミトリの、古今の格言を流用した珍妙な応酬も興味深い。あたかも、目前の危機をよそに言語ゲームに終始する能天気な知識人を皮肉っているかのようだ。船長が世界の権力者への糾弾演説を繰り広げたところで、船はボートで近づいてきた海賊に爆破される。世界をそのまま体現した一つの社会の崩壊が、このマンガのような一幕に凝縮されている。
パート3の舞台は、とある無人島。流れ着いたのは、カール、ヤヤ、大富豪のディミトリとヤルモ、脚が悪く言語障害のある女性テレサ、チーフのポーラに機関士のネルソン、そして食糧や水の入ったタンク型救命ボートで運ばれたクルーのアビゲイル(ドリー・デ・レオン)。ここで唯一、サバイバル能力と生活技術のあるアビゲイルが圧倒的な存在感を示し、人々はキャプテンを自認する彼女の決めたルールに従うほかなくなる。


