「しびれる問い」が生む効果
ただし、ここで注意が必要です。「関係性をつくる」と言っても、単に候補者との接点を増やせばよい、という話ではありません。報告を受けたり、会食をしたりするだけでは、候補者の視点が広がるようなことは起きにくいでしょう。
では、マインドセットの形成につながるような関係性は、具体的にどうつくればよいのか。私は、その鍵のひとつが「問いかけ」だと考えています。
リーダーのコミュニケーションを「tell」と「ask」の2種類に大別するならば、人の脳をより深く動かすのは「ask」です。ハーバード大学の研究では、人は自分の考えや意見を語ること自体に価値を感じることが示されています。自分について語っているとき、脳の「報酬系(快楽や達成感を生む神経回路)」が活性化することが確認され、金銭的報酬を手放してでも自分について話すことを選ぶ傾向も見られました(※1)。人は問われて自らの言葉で語るとき、話を聞いているときよりも主体的に考え始める。私はそう捉えています。
だからこそ社長は、経験や情報を一方的に伝えるよりも、候補者自身に考えさせ、語らせる「問い」を重ねるべきです。それが候補者のマインドセット形成に効果を発揮します。そこで私は、クライアントにこう尋ねました。
鈴木:マインドセットの育成につながるような、候補者が深く考え込む、しびれるような問いを投げかけるとしたら、どのようなものがありそうですか。
クライアント:しびれる問いかけ、ですか……。今、私たちの海外売上比率は40%です。例えば「10年後にこの比率を70%まで引き上げるには、海外のどの企業とどの領域で提携すべきか」。あるいは、「グローバル企業へと脱皮するためにはガバナンス体制の強化が欠かせないが、どのような人物をボードメンバーに迎えるべきか」。こうした問いを向けるのが、よいかもしれません。
戦略的提携やボードメンバーの選定は、候補者である本部長や執行役員の立場からすれば、取締役や社長が考えるべきことであって、自分ごと化できていない可能性があります。しかし、こうした問いに向き合うことで、彼ら彼女らが自らの視点を「グローバル経営」へ向けるきっかけになるはずです。
鈴木:そうした問いかけを重ねながら、まずは候補者との間に、グローバルなマインドセットが育まれる関係をつくっていくことですね。「育てた」うえで「選んでも」、決して遅くはないはずです。
後継者を「選ぶ」ことと「育てる」こと。どちらも後継者を決めるための営みに見えて、経営者自身の関わり方はまったく異なります。「選ぶ」だけの経営者は、結果を見極める「審判者」にとどまります。一方、「育てる」経営者は、自ら候補者との関係を築き、問いを投げかけ、その思考を深め続ける「伴走者」となります。
もし今、あなたの頭のなかに次の社長候補たちの顔が浮かんでいるとしたら――社長のあなたにしかないものを、彼ら彼女らに対話を通じて渡せているでしょうか。それを自らに問うことが、後継者育成という長い旅の、最初の一歩なのかもしれません。
※1参照:Tamir, D. I., & Mitchell, J. P. (2012). Disclosing information about the self is intrinsically rewarding. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(21), 8038–8043.


