社長にしかない「強み」を次世代へどう渡すか
鈴木:社長だからこそ候補者に渡せるものがあるとすれば、それは何でしょうか。
クライアント:私にあって、今の候補者たちに欠けているのは、おそらくグローバルなネットワークでしょう。欧米の企業トップやアカデミアとの接点が、彼らには圧倒的に不足しています。
鈴木:そのネットワークは、御社で社長というポストに就けば自然と手に入るものでしょうか。それとも、別に築いていく必要があるものでしょうか。
クライアント:ある程度は、社長になることで手に入ると思います。ただ、海外企業のトップと個人的な信頼関係を結び、そこから情報を得て、時に戦略的な提携にまで発展させていく――そうした力は、社長になってから培い始めたのでは遅すぎます。
鈴木:なるほど。それこそ社長ご自身が、今のうちから手をかけるべき育成ポイントなのですね。
社長として、自分にしかない資産に気づくこと。これは、後継者育成を考えるうえで、多くの経営者に欠けている視点だと思います。次に問われるのは、その資産をどうやって次世代に渡していくかです。
鈴木:その鍵となるのは何でしょうか。例えば、海外のCEOに会う際、同行させて引き合わせればよい、という話なのか。それ以前に、何か身につけておくべきものがあるのでしょうか。
クライアント:「ネットワークという資産を引き継ぐ」ことは、単に人脈や情報を渡すことではないと思っています。同じネットワークにアクセスできたとしても、それをどのように活用するかは、その人がどのような視点で世界を見ているかによって大きく変わります。だとすれば、私が渡すべきものはネットワークそのものだけではなく、それを生かすためのマインドセットでもあるのかもしれません。
例えば今の執行役員たちは、担当領域の執行責任者という域を出ていません。北米を統括する者がいたとしても、それはあくまで北米という一地域の責任者であって、地球規模でサプライチェーンやマーケティング、事業提携を構想できているわけではありません。こうしたマインドセットを培う一助を、自分が担う必要があると感じます。まずできることは、自分の経験や見てきたものを伝えることなどでしょうか……。
鈴木:マインドセットは、確かに書物を読んだり、講演を聞いたりと、知識の習得で高められる側面もあります。しかし私は、人との関わりのなかで育まれる部分が大きいと考えています。
候補者は社長との対話のなかでグローバルな話題に繰り返し触れ、問いを投げかけられ、ときに自らの視野の狭さにハッとする。そうした経験の積み重ねによって、物事の捉え方や判断の基準が少しずつ変化していきます。だとすれば、育成では知識を与えること以上に、社長と候補者がどのような関係を築くかに焦点を当てるべきでしょう。
クライアント:マインドセットは関わりのなかで育まれる……まずは私から、そうした関係をつくるために行動を起こす必要がありますね。


