AIは同じ電力で採掘よりはるかに多く払える──しかし、地元が必要なときに停止できるのか
ビットコインのマイニングマシンはAIコンピューターとは異なり、誰の質問にも答えない。ただ計算するだけだ。Emergent Gridのプロジェクトチームによれば、マイニングは消費電力1単位あたりわずか数セントの収益しか生まないため電力会社への支払いもごく少額にとどまるが、AI関連の処理なら同じ消費電力ではるかに大きな収益につながるという。
新プロジェクトの核心となる疑問は、ビットコインのマイニングマシンで行ってきたのと同じ運用を、AIコンピューターでも実現できるか──すなわち、電力事業者により多くの対価を支払いつつ、地域住民が電力を必要とする際にはいつでも電源を停止できるのかという点にある。
AIチップをレンタルする米国企業は確保──ただ機械が高価で運用も難しい
幸いなことに、顧客は存在しそうだ。プロジェクトパートナー企業のLiquidstar(リキッドスター)は、南アフリカのデータセンターでAIチップ1500個以上をレンタルする米国企業をすでに確保したと述べている。こうした顧客はインターネット経由で処理を依頼し、その成果に対価を支払う。もっとも、この南アのデータセンターはミニグリッドではなく、従来の送電網で稼働している。Emergent Gridの取り組みでは、Liquidstarも太陽光発電でAIコンピューターを稼働させつつ、余剰電力を近隣コミュニティーに供給する実証実験を行う予定だ。
しかし、AIはビットコインのマイニングよりも難しい。はるかに高価な機器が必要なうえ、村のニーズに合わせて作業スケジュールを調整できることが本プロジェクトの肝だからだ。
4カ国最大10カ所で試験運用、結果はアリゾナ州立大学が評価
実証実験は、ケニア、コンゴ民主共和国、シエラレオネに加え、現在4カ国目が最終調整中で、最大10カ所の拠点で実施される。設備費用はロックフェラー財団傘下の団体が一部を負担したうえで、コンピューティング事業の収益から資金を回収するとともに、さらなる拠点への投資に充てる計画だ。一部の拠点ではビットコインのマイニングも並行して行うが、こちらには資金を充当しない。実験結果については、米アリゾナ州立大学が独立評価を行う。
AIと村人が電力を取り合う恐れ、地域社会を常に優先するルールで防ぐ
始まったばかりのAI実証プロジェクトについては、まだ見ぬその結果よりも大きな懸念材料がある。米国でAIデータセンターへの抗議が広がっている点だ。ビットコインの場合、電力使用料が村人の負担する電気料金よりも安価なため、電力供給網から住民が締め出されるような事態は起きていない。だが、AIの電力使用料はビットコインよりもずっと高額になるだろう。米国でデータセンター建設に反発が広がっている背景には、こうした懸念がある。
これに対し、Emergent Gridは明確なルールを定めている。「常に地域社会を最優先にしなければならない」とミッション300アクセラレーターのハースコウィッツは明言した。村の住民が電力を必要とする時はコンピューターの電源が切られ、アリゾナ州立大は電力価格やサービスが適切に維持されているかどうかを監視する。
アマゾンやグーグルでなく、アフリカの僻地に置いたコンテナを選ぶ企業はあるか
もう1つの問題は、いったい誰がコンピューティングリソースをアマゾンやグーグルにではなく、アフリカの僻地に設置されたコンテナに求めるのかということだ。「うまくいくかどうか、100%確実なことは言えない」とハースコウィッツも認める。「過大に宣伝したくはない」
巨大テック企業が長年にわたり世界のコンピューティング能力の大部分を独占してきた結果、中小企業は他の選択肢を模索せざるを得なくなっているとハースコウィッツは主張する。また、コンピューターを積み込んだコンテナは数週間~数カ月で設置可能なのに対し、巨大なデータセンターの建設には数年を要する。
目指すのは手頃な電気料金、住民から電力を奪わずに費用を賄えるか
「私たちが目指しているのは、未電化地域を電化すること自体がもはや最大の問題ではなくなる未来だ。重要なのはむしろ、手頃な価格で電化を実現できるかどうかなのだ」とGridlessのハースマンは語った。
米国におけるデータセンターをめぐる争点は「誰が電力を確保するか」という点に集約されている。一方、アフリカの農村部ではEmergent Gridの取り組みが、電力供給を本来受けるべき住民から電力を奪うことなく、そのための費用をコンピューターの活用によって賄えるかどうかを検証しようとしている。


