創造の出発点は「言葉のデッサン」
谷本:非常に面白いですね。数を出すこと、そして心理的安全性の高い環境が大切だと。では、そうして生み出したアイデアの芽を、本当に人の心に届くものへと磨き上げていくには、どんな工夫が必要なのでしょうか。
筧:鍵になるのは、「言葉」だと思います。私が尊敬している博報堂時代の上司であり、コピーライターでもある東京経済大学 名誉教授の関沢英彦さんは、「言葉には大きく二種類ある」とおっしゃっています。ひとつは、現状を説明するための言葉。もうひとつは、未来をつくるための言葉です。関沢さんは後者を生み出すことを、「言葉をデッサンする」と表現しています。社会や商品の本質を捉え直し、人々の見方を変えるような言葉を生み出すことが、創造の出発点になるという考え方です。
では、その言葉はどのように生まれるのか。関沢さんが重視していたのが、メタファー(比喩)でした。
メタファーで異なるもの同士を結び付け、新しい見方を生み出す。メタファーには、これまで見えていなかった物事の本質を浮かび上がらせる力があります。創造性というのは、突き詰めるとそうした新しい言葉や新しい見方を生み出す力なのかもしれません。
たとえば、先述した認知症の人が生きている世界、見えている景色を表現するデザインプロジェクト『認知症世界の歩き方』も、まさにそうした発想から生まれました。テーマは、認知症のある人が抱えている困りごとや生活上のトラブルを、どうすれば上手く社会に伝えられるか。それを考えていたときに、ふと旅行ガイドブックの『地球の歩き方』が頭に浮かんだんです。そこで、「認知症のある人が生きている世界を、ひとつの異文化として旅するガイドブックにできないだろうか」と考えました。それが同企画の出発点です。
実は、ゼロから全く新しい企画が生まれることはほとんどありません。世の中にすでに存在しているものを、自分が向き合っている課題と結び付ける。そのときに大きな力を発揮するのが、メタファーなんです。
おもしろいのは、それが一部の天才だけにできることではなく、誰でも鍛えられる創造の技術ではないかということです。


