カルチャー

2026.10.14 13:30

伝統の黒谷和紙を世界の空間へ 産業をつくる「紙漉き職人×事業家」

ハタノワタル|紙漉キハタノ代表

ハタノワタル|紙漉キハタノ代表

Forbes JAPAN 2026年11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる文化起業家を30人選出する企画で、今回で4回目となる。今年注目したのは、優れた作品や商品を生み出すだけでなく、流通や人材育成、地域との関係まで含め、文化が続いていくための基盤をつくろうとする実践だ。アニメやゲーム、工芸、食、地域開発など領域を越えて、文化を次の創造へと循環させる挑戦を紹介する。

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京都・綾部で、楮の栽培から紙漉き、空間施工までを一貫して手がける和紙職人ハタノワタル。いま挑むのは、自分の名を消しても回り続ける工房と、小さな産業にも使える「型」づくりだ。


京都府綾部市。一面に広がる田園風景の中に、天井に「闇」空間をつくった非公開のギャラリーがある。オーナーは、黒谷和紙の紙漉き職人であり、アーティスト、そして和紙を国内外の建築や空間へ展開する事業家でもあるハタノワタルだ。

ハタノが率いる「紙漉キハタノ」は、和紙を内装材として用い、国内外の住宅や飲食店、ホテル、ギャラリーなど年間約50件の空間を手がける。スタジオ・ムンバイ設計の尾道のホテル「LOG」や京都の「Hotel tou」、広島駅前JPビルエントランス巨大アートウォールなどで実績を重ねてきた。現在は12人のスタッフを擁し、約5000平方メートルの畑での楮の栽培から紙漉き、加工、空間設計、施工までを一貫して手がけている。

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その根底にあるのは、受け継がれてきたものを、どう次世代へ渡すかという問いだ。「『闇』は私の作品のテーマの1つでもあり人間には制御できない非合理なもの。今の暮らしから見れば、アナログな和紙も同じです。すべてに合理化を求められる時代に、あえて和紙という非合理なものと向き合うとどうなるのか。ここはその実験の場でもあるんです」

美大で油絵を学び、東京・日本橋の小津和紙で、綾部に約800年前から伝わる黒谷和紙と出会った。1997年に綾部で紙漉きを始め、職人一本で生きる道を選ぶ。しかし、いくら働いても月収は15万円に届かず、子どもの進学もままならない。伝統を守ろうにも、つくり手が食べていけなければ続かない。その現実に直面した。

転機は、左官職人・久住章との出会いだった。久住は、伝統的な左官技術を使って新たな表現や仕事を生み出し、左官が活躍する場そのものを広げていた。

「だったら僕も、和紙でやりたいことをやろうと思ったんです」

ハタノは「職人100%」の暮らしから、和紙で自らの表現を追求する道へと舵を切る。和紙を皿や行灯など「人の暮らしに入っていくモノ」へ用途を広げた。古い自宅を和紙で改装すると口コミで評判が広がり、和紙を一枚ずつ売るのではなく、空間をつくる素材として展開するようになる。仕事は基本、断らない。そのため、仕事が決まる前から人を入れておく。手仕事でありながら、オリジナルの発注にも短納期で応えられる体制をつくってきた。

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文=真下智子 写真=若原瑞昌

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