安藤:私がJ-FLECの理事長を引き受けた最大の理由は、「個人起点のインベストメントチェーン(投資の連鎖)改革」を成し遂げたいと思ったからです。日本の場合、インベストメントチェーンは企業や機関投資家が主役です。そもそも、市場で動いているお金は個人のものなのに、個人の存在感が極めて希薄なのです。現在、家計の金融資産は2,386兆円に達していますが、依然として47.2%にあたる1,126兆円が現預金として眠っています。かつては終身雇用や確定給付年金が当たり前で、個人の金融知識が乏しくても国や企業が守ってくれました。しかし、終身雇用への意識が薄れ、確定拠出年金(DC)への移行が進むなどすでに自己決定が求められる時代になりました。置き去りになっている個人の市場への参画、そして「ピープルズ・キャピタリズム(国民資本主義)」の再興が急務です。
氾濫する情報に溺れない「判断する力」
加藤:では、情報があふれる現代社会において、知識の暗記にとどまらず「自ら分析し、実践・行動する力」をどう養っていけばよいでしょうか。
安藤:前提として、「投機」と「投資」の違いを理解する必要があります。投機は短期的な価格変動を利用する刹那的な取引ですが、投資は企業や経済の成長に期待して長期的に資金を運用する行為です。時間軸と得られるリターンに対する考え方がまったく異なります。そして、日本には依然として、お金の話をタブー視する風潮があります。「汗水垂らして働くのは尊いが、投資は品がない」という古い固定観念や、恥ずかしさから家族や友人に相談しない文化が根強い。SNSで「NISAはオルカン一択で良い」という極端な情報を誰にも相談せずにうのみにしてしまう。だからこそJ-FLECでは、教育機会の提供と並ぶ事業のもうひとつの柱として、個人からの個別相談を受け付けています。中立・公正な機関として金融商品や金融機関を紹介することはしませんが、リスク許容度やライフステージに応じた判断のヒントを提供することができます。
加藤:プロの投資家を育てる現場では、不完全な情報やノイズのなかからどのように本質を見極めさせているのでしょうか。
小川:Point72 Academyでは、大学生向けのさまざまな育成プログラムを展開しています。最初の入り口となるのが、投資という職業を知ってもらうための1週間のプログラム「Insight Week」です。参加者は投資の基礎や財務モデリングを学びながら、実際の投資プロフェッショナルと交流し、投資の世界に触れることができます。さらに、8週間にわたる「Point72 Academy Summer Internship」では、講義に加え、ポートフォリオ分析やメンターシップを通じて、ファイナンスやリサーチ、株式投資の実践的な経験を積むことができます。また、新卒者や若手社会人向けには、年3回開講される10カ月間の「Point72 Academy Full-Time Program」を用意しており、投資アナリストとしてのキャリア形成を支援しています。Academy修了後も育成は続きます。アナリスト向けのコーチングや、将来的なポートフォリオマネージャー候補を育成するトレーニングなど、キャリアの各段階に応じた支援を行っています。不確実性のなかで、確率を評価し、リスクとリターンを見極めながら、ファンダメンタルズ分析に基づいて結論を導くプロセスを身につけてもらうことが目的です。
安藤:個人の場合、自分の金融リテラシーとリスク許容度を正確に把握することが第一歩になります。預貯金から始めて、債券、投資信託、そして個別株へと、自分の理解度や必要性に応じて段階的にステップアップしていく。個別株に投資する場合は、さまざまなニュースに触れて応援したい企業を選んでみる。企業の「推し活」のようなものですね。こういうファン株主が増えることで、「もっと良い製品をつくろう」「リーズナブルな価格にしよう」といったように、企業の行動も変わっていくはずです。
KEYWORD 2|Point72 Academy
学生や若手社会人を対象としたPoint72独自の投資アナリスト育成プログラム。ファイナンスやリサーチ、市場分析の基礎から実践的な投資スキルまでを学び、将来のファンダメンタル・エクイティ・アナリストとしてのキャリア形成を支援する。


