未来の日本経済を担う若者をどう育てるのか。公的機関・金融機関・教育機関──それぞれの専門家が語る。
30年続いたデフレからインフレへの転換、市場改革に端を発する日経平均株価の上昇、そして新NISAの浸透──。日本経済が歴史的な転換点を迎えるなか、金融教育のあり方もまたパラダイムシフトを迫られている。本企画では、公的機関として中立・公正な立場から国民の金融リテラシー向上を目指す金融経済教育推進機構(J-FLEC)理事長の安藤聡、世界有数のグローバル資産運用会社Point72 Head of Japanの小川眞治を招聘。国内最大級の大学生企業分析コンテスト「Gyoseki Competition」を主催する一橋ICS客員教授の加藤寛之をモデレーターとして、未来の日本経済を担う若者を導くための「新時代の金融教育」のあり方を産官学の視点から議論してもらった。
加藤寛之(以下、加藤):これまでの金融教育は、知識を伝えることがほとんどでしたが、若者が実践から学び、それを応用できるような「生き方としての金融教育」が急務となっていると思います。
安藤聡(以下、安藤):まず申し上げたいのは、金融経済教育は「投資教育」だけではないということです。一番の土台は日々の収支を整える家計管理であり、その上に5年、10年、20年の人生を描く生活設計(ライフプランニング)があります。それを理解したうえで初めて資産形成を行い、預貯金や投資を選択していく。さらには頻発する投資詐欺や金融トラブルの抑止も重要です。また、金融経済教育は目的ではなく手段です。その目的は金融知識と判断力を伴った「金融リテラシー」を高め、自らが適切な金融行動を起こすことです。その結果として実現するのが、金融面の幸福「ファイナンシャル・ウェルビーイング」です。一人ひとりのウェルビーイングが達成されて初めて社会全体が豊かになる。これがJ-FLECのミッションです。
加藤:生活者一人ひとりの金融判断力の向上は、企業や社会の健全性にも直結しますね。デフレからインフレへの移行というマクロ環境の変化のなかで、若い世代は何を学ぶべきでしょうか。
小川眞治(以下、小川):デフレのときは現金をそのままもっていれば実質的に資産を守れましたが、インフレ下では「いかに価値を生み出すか」という投資の視点が不可欠になります。価値をつくるには、企業がどう価値を生み、経済のなかで資金がどう回り、投資家がイノベーションにどう価値を与えるのかという構造を理解しなければなりません。日本の株式市場の時価総額規模は世界3位ですが、OECDによる金融リテラシーのスコアを見ると、日本は先進国のなかで中央値にとどまり、大きなギャップが存在します。だからこそ、安藤理事長がおっしゃる通り、中高・大学といった若い段階からベースとなる金融リテラシーを底上げし、マインドセットをシフトしていくことが非常に重要だと感じています。
加藤:日本では依然として「投資はギャンブル」「預貯金が安全」という意識も根強いです。投資によって社会課題を解決したり、SDGsに貢献したりすることもできると思いますが、こうした「価値を生み出す」という意識をどう育むべきでしょうか。
小川:実は私自身、米国のビジネススクールで金融を学んだ後、投資銀行に就職する際に家族から反対されたんですね。やっぱり「投資はギャンブル」というイメージがあったのでしょう。そこで私は「投資によって新しいアイデアやイノベーションが生まれ、企業価値が底上げされ、それによって経済が循環するんだよ」と説明して家族を説得しました。要は、投資とは自分の資本をどう効率的に配分するかを自ら決める行為なのです。
KEYWORD 1|金融経済教育推進機構
2024年に設立された金融庁所管の認可法人で、中立・公正な立場から官民一体で金融経済教育を推進する唯一の公的機関。全国の企業や学校への講師派遣や、イベント、セミナーの開催により、国民の金融リテラシーの向上を図っている。



