だからといって、研究者らが海洋動物の好むシースケープの海域を一律に保護区化することを提案しているわけではない。それはどう考えても不可能だ。なぜなら、研究で特定された好ましい環境は、距離にして数百kmに及ぶ場合もあるからだ。また、詳細な情報がなければ、管理するための意思決定も下せない。
シースケープはむしろ、リアルタイムで更新される環境アラートシステムのような働きを持つ可能性がある。特定の海洋大型動物(海洋メガファウナ)が一定の海洋条件下に集まる傾向が判明すれば、その条件の変化状況をモニタリングすることで、動物が漁業などの脅威に遭遇しやすいタイミングと場所を特定しやすくなる。
また、シースケープ地図は自動作成され、世界統一規格で無料公表されているので、詳細な環境データや高額モデリングの入手が難しい地域でも役立つ可能性がある。
しかし、より興味をかき立てられるのは、絶えず変化する海洋についてシースケープが教えてくれる情報だ。気候変動に伴って、シースケープそのものの規模や頻度、持続性が変化すれば、それはすなわち、海洋動物に好ましい生息環境も変化している早期のシグナルかもしれない。シースケープは今後、予測システムや気候モデルと組み合わされ、重要な海洋生息域が将来的にどう変化し再編されていくのかを研究する際に活用されていくと、研究者たちは考えている。
とはいえ、注意すべき点もある。例えば、先述した海洋動物3種は、追跡期間が同じだったわけではなく、ナガスクジラのデータはとりわけ季節が限定されていた。また研究者らは、今回のパターンが海洋メガファウナ全体に当てはまるのか否かを見極めるためには、さらに多くの種をより長期にわたって追跡する必要があると強調している。
それでも、シースケープという大きな考え方には説得力がある。私たちはどうしても、海を一つの巨大な生息環境と捉えがちだが、そこで暮らす動物たちにとっては決してそうではない。動物にとっての海は、条件や機会、制限が絶えず変化するモザイク模様を描いているのだ。森に生息環境やランドスケープ(景観)があるのなら、海にシースケープが存在していても不思議はないのではないだろうか。


