このアイデアを検証するべく、研究者らは、毎月のシースケープ地図と、北大西洋の衛星追跡データを組み合わせた。海の動物たちは、数百kmから数千kmもの距離を移動することもある。解析のために追跡データを標準化するのだが、オリジナルの位置情報ポイントは11万7000件を超えたという。
次に、資源選択関数(RSF:生物が特定の生息地や餌場を選択・利用する確率や傾向を予測するモデル)を用いて、海洋生物が実際に訪れた場所と、利用可能だった生息環境を比較した。利用可能性と利用頻度にもとづいて、その生物が特定の生息環境を選んだのか、あるいは避けたかを明らかにしたのだ。
ヨシキリザメがとりわけ強い選好性を示したのは、淡水が流れ込む亜熱帯の沿岸域や、プランクトンの大増殖(ブルーム)で栄養に富む温水域など、エサが多い沿岸シースケープだ。また、温帯と亜寒帯が交わる移行領域(Transition Waters)を好む一方で、赤道一帯と、熱帯の移行領域を避ける兆候が見られた。
オサガメもまた、淡水が流れ込む亜熱帯の沿岸域や、季節性ブルームが発生する水域、ブルームで栄養が豊富な温水域など、エサが多いシースケープを選んでいた。ナガスクジラは、季節性のブルームが発生する極域と、淡水が流れ込む大陸棚の環境に強い選好性を示していたが、データの追跡月数が少なかったため、結果の確実性はかなり低い。
これら3種の動物は、生態が大きく異なる。ヨシキリザメは、魚やイカを食べる変温性の捕食者だ。オサガメは、ゼラチン質動物プランクトンを主食とする大型爬虫類。ナガスクジラは、オキアミ類や小魚を濾し取って食べる巨大な恒温動物だ。しかし、生態の違いにもかかわらず、3種はみな、シースケープが描く広大な環境のモザイクに反応して行動していた。
こうした事実から、海洋動物は、一度に一つの環境変数だけを追いかけているわけではないことがうかがえる。生物学的な観点から言えば、サメは「水温がちょうどいい」と考えているわけではなく、水温やエサの有無、海洋循環など、さまざまな条件が組み合わさって生まれる有益な採餌環境に従って移動している可能性が高い。
シースケープが変える海洋保全と予測の未来
シースケープによって、単一の測定値ではなく、生物物理学的な条件の相互作用から浮かび上がるさまざまな生息環境の利用パターンが明らかになる。言い方を変えれば、環境変数を個別に検証する場合には、「変数が同時発生した時にしか見えてこない関係性」を見落としてしまう恐れがある。


