結論を導き出しつつある欧州
外交政策の専門家の間では、米欧関係に根本的な変化が生じているとの見方が強まっている。かつて米国家安全保障会議(NSC)でロシア担当の顧問を務め、現在はブルッキングス研究所に所属するフィオナ・ヒルは、「米国の指導力の低下と同盟関係の緊張」により、欧州とウクライナは新たな安全保障の枠組みを模索せざるを得なくなっていると指摘する。彼女の結論は衝撃的だ。「ウクライナも欧州も、すでにポスト・アメリカ(アメリカ後)の世界に入りつつある」
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の国際安全保障プログラムのディレクターであるマリオン・メスマーは、今夏のNATO首脳会議を控えた時期に寄せた論考で、トランプ政権は欧州の安全保障への関与縮小に本気で取り組み始めたと書いている。彼女は、欧州は「ワシントン(米政府)の意図を以前にも増して警戒するようになっている」と述べ、米国が関与を縮小していると敵対国側に認識された場合、抑止力はそれでも信頼に足るものであり続けるのか疑問を呈している。
この懸念は、もはや机上のものではない。
英政府の「戦略防衛見直し(SDR)」の共同執筆者であるリチャード・バロンズ陸軍大将(退役)は、7月に開かれたチャタムハウスの会議で、欧州のNATO加盟国はロシアに対する抑止力を「米国への依存を大幅に減らしたかたちで、4年以内に」再構築する必要があると語った。
NATO創設を主導した国の同盟国から、こうした発言が出てくるのは異例である。
危険は誤算にある
だからといって第3次世界大戦が避けられないわけではない。ただ、歴史が示しているのは、抑止力が不確かなものになったとき、つまり、一方が、相手は本当に言葉どおりに行動するのかを疑い始めたとき、大規模な戦争が起こり得る状況が生まれやすいということだ。
チャタムハウスが先ごろ発表した研究は、ウクライナで停戦が実現しても、それが十分な安全保障措置を伴うものでなければ、ロシアは態勢を立て直し、軍備を再び整え、破壊工作やサイバー攻撃、政治介入を通じて圧力をかけ続けるおそれがあると警告している。ウクライナの問題を、たんに「停戦ラインをどこに引くか」の争いとして捉えてはならないのはそのためだ。欧州の国境が武力行使によって引き直されることを再び容認するのか、それが問われているのだ。


