これは、第二次世界大戦、ベルリン封鎖、NATOの創設、ソビエト連邦との40年あまりにおよぶ対立を通じて導き出された教訓だった。米国が欧州に部隊や核戦力を配備し、欧州との同盟関係を維持してきたのは、侵略を抑え込むのが手遅れになった時点でそれに気づき、対処を迫られるよりも、あらかじめ抑止に努めたほうが、安上がりで安全と考えられていたからである。
だが現在、その抑止に伴う負担は変化している。
NATOは7月にトルコのアンカラで開いた首脳会議で、現在、ウクライナへの軍事支援の大部分の資金を負担しているのは欧州の加盟諸国とカナダであることを認めた。NATOのマルク・ルッテ事務総長は今月、「ウクライナの優先必要品リスト(PURL)」と米国の対外有償軍事援助(FMS)を通じて、過去1年で100億ドル(約1兆5700億円)を超える資金が割り当てられたと述べた。PURLの枠組みでは、米国製の兵器を、米国以外のNATO加盟国やパートナー国の費用負担でウクライナに供与するケースがますます増えている。ルッテはこれに関して、欧州が「役割を強化している」とたたえている。
視点を変えればこういうことだ。米政府は、自国がほかのどの国よりも大きな役割を果たして構築した欧州の秩序防衛の仕組みに対して、直接の財政的関与を減らしているのだ。
破られたブダペスト覚書
前述の問い──米国は戦後自ら構築した国際安全保障体制について、今後も主導する価値があると考えているのか──をいっそう厄介なものにしているのは、ウクライナをめぐる問題である。
1994年、ウクライナはソ連から引き継いだ核兵器を放棄することに同意した。ブダペスト覚書で、ロシア、米国、英国はウクライナの主権や既存の国境を尊重することを再確認し、ウクライナの領土保全に対して威嚇や武力行使を控えることを誓約した。たしかに、この覚書は北大西洋条約第5条のような軍事保証の取り決めではなかった。米国は、ウクライナが攻撃されれば自動的に参戦すると約束したわけではない。それでも、ここでの政治的な問題は簡単に切り捨てられるようなものではない。ウクライナは、自国の主権が尊重されることを大国から保証されるなかで核兵器を放棄したのである。
ロシアはウクライナに侵攻し、この合意をあからさまに破った。米政府にとっての問いは、米国の保証が最も厳しく試されたときに、その対応に必要な費用を他国が負担するようになるのであれば、そもそもその保証にはいったいどのような意味があるのか、というものである。そして、これはウクライナだけに関わる問題ではない。核不拡散体制は、各国が、自国で核兵器を持たなくても存続できると信じられるかどうかにかかっている面があるからだ。


