ナレッジエンジニアとは、情報源を決めてAIに届ける新職種
Mintlifyのレポートによれば、ナレッジエンジニアとは、次の4つを担う人である。
1つ目は、どの情報源を正しいものとして扱うかを決めること。2つ目は、製品のリリースやサポートへの問い合わせ(サポートチケット)を、ドキュメントの更新に結びつけること。
3つ目は、エージェントが読み取れる形式で知識を公開すること。形式には、Markdown(見出しや箇条書きを記号で表す簡易な書式)、サイトの内容をAI向けに案内する索引ファイルであるllms.txt、そしてAIが外部のツールやデータにつながるための共通規格であるMCP(Model Context Protocol)に対応したツールなどがある。4つ目は、エージェントが必要な情報を探し出せずにいる箇所を測ることである。
Mintlifyで実際にこの肩書きを持つイーサン・パームは、この仕事を、チームごとに散らばっている情報をつなぎ、ユーザーにも社内のスタッフにも信頼できるものに変えることだと説明する。
デカゴンでプロダクト教育の責任者を務めるデビッド・ホウは、これを製品の要件としてとらえている。エージェントが仕事を最初から最後までやり遂げるには、知識がそれに見合う形に整えられ、十分に探し出しやすくなっていなければならない。そして組織全体が本気で取り組まなければ、信頼できる唯一の情報源(source of truth)はいつまでもできない。ホウはそう指摘する。
エージェントへの更新指示は約36万7000回、人間は承認役に
レポート自身の数字を見ると、ドキュメント更新のサイクルがどこまで自動化されたかがわかる。2026年2月から8月までに、利用者がMintlifyのエージェントにドキュメントの更新を指示した回数は、およそ36万7000回にのぼる。
そのうちの95%は、ウェブフック(別のシステムでの出来事をきっかけに処理を自動で始める仕組み)とcronジョブ(決まった時刻に処理を自動で実行する仕組み)を通じて実行された。その結果作られたプルリクエスト(変更内容を取り込むよう求める申請)のうち、61%がマージされた(本体に取り込まれた)。
あわせて実施された調査では、回答者の83%が、ドキュメント更新の下書きは今やエージェントが書いていると答えた。一方で、人のチェックを通さずにエージェントに公開まで任せているのは、わずか9%にとどまる。人間の役割は、ページを書くことから、書かれたページを承認することへと移ったのである。
ナレッジエンジニアが正すAIの矛盾回答、ハブスポットは保守工数半減
マーケティング・営業支援ソフトを手がけるハブスポットの事例を見ると、ナレッジエンジニアという役割が正そうとしている失敗がどういうものかがわかる。同社は、開発者の質問に答えるAIモデルが、旧版のV1 APIのドキュメント、現行のV3のドキュメント、サーバーレス(サーバーの管理を意識せずにプログラムを動かす方式)のサンプルから1度に情報を拾い、互いに食い違う助言をしていることに気づいた。ドキュメントをMintlifyに一本化したあと、ハブスポットはドキュメント基盤に割いていたエンジニアの工数を50%減らし、浮いた時間を、開発者層の拡大に向けた取り組みに振り向けた。
暗号資産取引所のコインベースは、AIによる利用を前提に設計したドキュメントサイトを6週間で立ち上げた。公開から60日間で、2736人の開発者がAIアシスタントに8704件の質問を寄せた。MCPツールの呼び出し回数も、あわせて記録している。
検索エンジンのElasticsearchで知られるElastic(エラスティック)でコンテンツエンジニアを務めるファブリツィオ・フェッリ・ベネデッティは2026年6月12日のブログ記事で、テクニカルライターの役割がこのように分かれていくことを、「まず機械に情報を与え、それから人間を導く」と表現した。書き手は、機械と人間という2つの読み手の両方に向けて、文脈(コンテキスト)を選び整える役を担うというのが同氏の見立てである。
AI向け知識基盤は新たな投資分野、自社AIの発言は企業が責任を負う
投資家にとって、ナレッジレイヤーは今や1つの投資分野になった。評価額5億ドル(約785億円)のMintlifyがその軸となり、この分野の顧客には評価額45億ドル(約7065億円)のデカゴンがいる。
次の資金調達ラウンドでは、2つの方向に資金が向かうだろう。1つは、エージェントが答えを探し出せずにいる箇所を測る企業。もう1つは、コードベース(ソフトウェアのソースコード一式)と、それを読むあらゆるエージェントとの間に入るツールである。
創業者にとっては、エア・カナダをめぐる審判所の判断が最低限の前提になる。自社のエージェントが言ったことは、自社が言ったことになる。エージェントが何を言っても、それを自社の言葉として引き受けられる状態にしておく。ナレッジエンジニアリングとは、そのための仕事である。


