「心地よいN1」で始まる意味とは
大森:開化堂では、サカナクションの山口一郎さんと加熱式たばこ用デバイス「Ploom AURA(プルーム・オーラ)」のスティックケースを作られましたよね。なぜ、茶筒でない、スティックケースを作られたのでしょうか。
八木:一郎さんとは昔から付き合いがあって、ものづくりによって、心のやり取りをしてきた感覚があります。最初は、100年以上前の上が凹んでいた一番大きな4キロ缶を見た山口さんから「八木さん、これなんで凹んでいるの?」と聞かれ、「親父が小さい頃に座って凹ませた」と返したら、「だったら、椅子ができるじゃん。椅子を作ってよ」って。「え?できるか?」と思ったんですが、言われた瞬間に、毎日使うものに当てはまるし、いいものになる。「面白いかも」と思い、漆を塗って、炭研ぎをして、マットブラックの色味の椅子を作ったら喜んでくれた。
その後、仲良くなるなかで「八木さん、この小さな缶に、タバコを入れられる」と言われたので「全然できる」と真鍮バージョンを作ったんです。「これめっちゃいいじゃん。JTに見せていい」と言うから「いいよ」と。その後、100年前の素材を見せたら「こんな色にできる?」と言われて、いろいろ文献などを調べて作ったのが一番最初のやつです。それでコラボレーションをすることになった。
やっぱり彼にとって、ものすごく好きなもの、大事なものを入れるものを僕は作りたいと思っています。それは、僕の大事なものではなくても、彼が本当に心たくせるものだったら、それを守れるものは開化堂でやってみたい、と。
大森:このストーリーを知らないと「開化堂が新しいのを作りはじめた」と見えますけど、八木さんの話を聞くと、価値をわかってくれる人にプレゼントしている感じなんですよね。だから「ええもん作りました」ということですよね。
八木:「よかったら使ってください」って。それを見た周りの人が欲しいと言うから「じゃあ作る?」と。それを一郎さんがYouTubeで言ってくれるもんだから(笑)。
花井:でも、本当にN1から始まっているのがめちゃくちゃいいですよね。多くのメーカーでは、結果的に「この人たちのためだけに作るはずだったんだけど、まあいいか」とたくさん作ることになることも多い。
八木:僕らはありがたいことに、ステイ・スモールなので、300個、500個作ったら、とても多い。だから、もし僕らが新商品を作ろうと思った時に、3人から5人の顔を思い浮かべようと思っています。1人だとすごく偏りすぎちゃうかもしれないから、3人の顔を思い浮かべて「使ってくれるかな」みたいな感覚で作っています。
大森:スタートアップですと、プロダクトを作って、ペルソナを設定して、マーケットフィットと言ってしまいますが、「N1フィット」からのスモールスケールということですよね。「心地よいN1」であり、「相手にしたいN1」でもあるという。
八木:そうなんです。心地いい、違和感のないN1の人は、開化堂にとっても心地いいものになり得るかなと思っています。


