Ray-Ban Metaを巡っては、メガネに内蔵されたカメラで、周囲の人が撮影されていることに気づきにくいという問題が以前から指摘されてきた。現行モデルは写真やビデオを撮影する際に、本体に内蔵するカメラ部分に近く配置したLEDが点灯する仕組みを採用する。ところが、このLEDを覆うなどして発光を目立たなくし、相手に気づかれないよう撮影しようとする行為も問題になっている。Metaは、こうした改造を検知するとカメラを無効化する対策を強化している。
米国ではRay-Ban Metaのカメラ映像を外部の顔認識AIや公開データベースと組み合わせ、通行人の名前や住所などを特定できることが実証され、プライバシー上の懸念も広がっている。また今年にはMeta自身がスマートグラス向け顔認識技術を開発していたことも報道により明らかになっていた。
ただ、Ray-Ban Meta Audioの開発はこうした問題への対応としてカメラを外すことから始まったわけではないと、ロスチャイルド氏が強調する。
「スマートグラスについては、まだ仕組みが十分に知られていない部分があります。ユーザーだけでなく、その周囲にいる人々にも安心してもらえるよう、Metaのスマートグラスが搭載するLEDがどのように動作するものなのかを伝える啓発活動に力を入れています」
Metaは日本でのAIグラス展開に合わせ、撮影中に点灯する「キャプチャLED」の役割についても啓発を進めている。公式サイトでは、白色LEDが写真・動画の撮影中であることを周囲に知らせる仕組みであり、LEDを無効化するとカメラも使用できなくなることを説明している。
新しいAI体験を生むためのカメラでもある
筆者も、この問題については引き続き啓発を重ねていくことが重要だと考える。ただし一方で、スマートグラスの本質が写真や動画の撮影だけにあるわけではないことも確認しておきたい。
スマートグラスは、ユーザーの視線に近い位置から得られる映像をVLM(画像と言語を理解するAIモデル)が読み取り、音声や、将来的には生体情報なども組み合わせながらユーザーが置かれている状況を理解できる可能性を持つ。つまりカメラは記録のためだけでなく、AIが現実世界を理解するための「目」として機能する。スマートグラスはこうしたマルチモーダルAIを日常的に利用するための、総合的なAIデバイスとして進化する可能性がある。
そう考えると、顔に装着するカメラだけを特別な存在として扱うことにもいずれ限界を迎える可能性がある。将来、イヤホンやペンダント型のAIデバイスにカメラが搭載されれば、それらもユーザーの周囲を視覚的に認識できるようになる。AIが現実世界を理解するうえで、視覚情報は重要な入力のひとつだからだ。
スマートフォンのカメラは「取り出して構える」という明確な撮影行為を伴う。一方、身に着けるAIデバイスのカメラは、常時ユーザーの視点に近い場所にあり、AIがその場の状況を理解するために使われる。ここには従来のカメラとは性格の異なる体験が生まれる可能性がある。


