「一般家庭の家計が厳しさを増す中、家電市場では特に中間価格帯が圧迫されています。一方で、耐久性やサステナビリティ、メーカーのサポート体制を重視し、プレミアム製品を積極的に選ぶコンシューマーもいます。反対に、製品の品質よりも目先の価格や短期的な満足を優先し、低価格品を選ぶ層も存在します」
つまり欧州の人々が一様に「環境に良い高価な製品」を求めているわけではないが、シャルドン氏の指摘からは、「長く安心して使えること」が高価格帯の製品を選ぶ理由のひとつになりつつあることがうかがえる。
シャルドン氏はRight to Repairなどの規制についても慎重だ。
「Right to Repairだけでなく包装、化学物質、データ、AIなど、多岐にわたる規制が欧州産業の負担になっています。コンプライアンスと収益性を両立させることは、ますます難しくなっています。一方で、Right to Repairをきっかけに、コンシューマーの間で質が高く長く使える製品への投資意識が高まれば、プレミアム性と充実したサービスを強みにするブランドにとっては競争力を高める機会にもなります」
欧州の規制をそのまま世界の模範と見るべきではない。規制によって循環型経済への転換が促される一方、過剰な負担が欧州企業の競争力を削ぐリスクもある。
そのため現在の欧州はサーキュラーエコノミーの「完成形」を示しているというよりも、規制、企業の収益性、あるいはコンシューマーの購買行動が折り合える地点を探求している途中なのだろう。
モデルチェンジ依存から長期価値を生む市場へ
ここには日本の家電市場にも大きな示唆があると筆者は考える。
日本メーカーが欧州の制度をそのままコピーする必要はない。むしろ欧州の試行錯誤から学ぶべきなのは、環境配慮を製品の付加機能として考えるのではなく、製品のつくり方、売り方、使い続けてもらう方法まで含めて設計し直す姿勢ではないだろうか。
毎年必ず新製品を市場に投入し、わずかな仕様変更でも「新モデル」として買い替えを促すことは、唯一の成長モデルではない。完成度の高い家電なら、無理に毎年モデルチェンジせず、ロングテールで販売してもいい。修理やメンテナンスを充実させ、良い製品を安心して長く使えること自体を価値にする。新しい機能を求めるユーザーには、サブスクリプションやレンタル、再生品など、所有以外の選択肢を用意する。
市場のニーズに応えるだけでなく「新しい使い方」をメーカーが開拓し、提案するという発想も肝要だ。
今年のIFAを取材して、筆者は欧州の家電産業が「次に何を売るか」だけでなく、「ひとつの製品と、どれだけ長くつき合える市場をつくり、持続させるか」という課題にも本格的に向き合い始めたことを強く感じた。
日本のエレクトロニクス産業もまた、かつて強みとしてきた「ものづくり」の原点に立ち戻りながら、さらにその商品をコンシューマーの手元に届ける時だけでなく、その先にも長く続く満足を提供するビジネスモデルを様々な形で模索するべきだ。次の競争は、そこから始まるように思う。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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