それこそが、構造変化だ。目に見えるカタリストは、多くの場合、容易な部分だ。本当の機会は、事業の基盤で何が変わったのか、その変化が投資家の支払い対象である経済性を強めるのか弱めるのかを理解することにある。ここで目に見える出来事は、129億3000万ドル(約1兆9900億円)の買収である。その下で変わったのは、AIスタックにおけるエヌビディアのポジションだ。
エヌビディア株はいま、チップだけでなくエコシステムを守らなければならない
Hugging Faceには、過小評価されやすいもう1つの戦略的利点があると筆者は考えている。
エヌビディアにとっては、AI市場が条件を指図できる少数の大口顧客ではなく、何千もの企業、開発者、スタートアップ、モデル構築者から成る方が望ましい。断片化した顧客基盤は一般に、集中した顧客基盤よりもサプライヤーに対する交渉力を与える。オープンモデルは、その断片化を生み出す助けになる。
Hugging Faceは、そうしたオープンモデルが発見され、カスタマイズされ、展開される場所の1つである。エヌビディアがこのエコシステムをより大きくできれば、自社チップを開発するバランスシートやエンジニアリング資源を持たない、より幅広い顧客層を生み出せるかもしれない。マイクロソフト、グーグル、アマゾンなどが反対方向へ動いているとき、それは戦略的に有用である。したがって筆者は、この買収を、Hugging Face自体が130億ドル(約2兆円)を正当化するだけの利益を生むかどうかよりも、開発者が同プラットフォームを通じて生み出すワークロードにおいて、エヌビディアが中心的存在であり続けるかどうかで判断したい。
もしオープンモデルが急速に拡大し、小規模企業がより多くのAIを展開し、それらの開発者がますますコンピュートを必要とするようになれば、エヌビディアは最大のバイヤーがその一部を内製化しようとしているまさにその瞬間に、自社ハードウェアを取り巻く市場を広げたことになる。それは非常に有利な取引となるだろう。
リスクは、エヌビディアがすでに弱まり始めているポジションを守るために、より多くの資金を投じたことを投資家がいずれ知る、というものだ。筆者はまだ、その結論を裏づける十分な証拠を見ていない。現在の需要はなお並外れている。エヌビディアは依然として市場を支配しており、顧客は同社のシステムを膨大な量で買い続けている。
Hugging Face買収が筆者に示しているのは、ジェンスン・フアンがそのいずれも自動的に続くとは考えていないということだ。
エヌビディア株にとって、それこそが130億ドル(約2兆円)の取引で最も重要な点かもしれない。エヌビディアにとって最大の脅威は、単に別のチップメーカーがより高速なGPUを生産することではない。最大顧客がAIの経済性を徐々に自ら取り込んでいく可能性だ。Hugging Faceの買収により、エヌビディアは将来のワークロードを生み出す開発者に近く、少数の巨大な買い手への依存からより遠い、バリューチェーン上の別の場所を手にする。エヌビディアはチップを中心に堀を築いた。この取引は、フアンがその堀を次にどこへ移すべきかをすでに判断しつつあることを示している。


