異業種コラボによる「シーンの拡張」と意外な愛飲者層
ワインコミュニティの内側で完結せず、異業種と積極的に交わるコラボレーション戦略も秀逸だ。獺祭(日本酒)やカンパリ(リキュール)、フルート演奏など音楽とのコラボに加え、沖縄では現地の若者を応援するカルチャーブランド「LIBERTY FORCE」および琉球紅型工房「ひがしや」とタッグを組み、限定ラベルを生み出している。和の伝統美が加わり、日本発のブランドとしての良さが前面に打ち出された心躍るデザインは、現地のアンバサダーの紹介から生まれたものだ。中身に選ばれたのは、温かみのある南仏のグルナッシュ。太陽の恵みを感じる果実味が、沖縄の陽光とも見事に共鳴する味わいだ。
「実はすごく伝統工芸が好きで、わざわざ奄美大島まで大島紬の工程を見に行ったこともあるんです」と目を輝かせる吉田氏。日頃から日本の伝統的な染織物に親しむ身としても、こうしたローカルカルチャーへの敬意ある眼差しには心打たれた。
これらの目的は、単なる話題作りというよりは、「ワインを飲むシーン(間口)を広げる」ことだ。「毎回ワインを飲むこと自体が目的になるわけじゃない。食事や音楽など、何かを楽しんでいるそばにワインがある方が自然だなと」。そう語る吉田氏の言葉通り、他のお酒のファンとクロスさせたり、カクテルとしての自由な飲み方を提案したりすることで、新たな接点を創出している。
ペルソナ設定もユニークだ。年齢や性別ではなく「ワインとの距離(リテラシー)」でターゲットを定めている。一般的に国内のワイン市場はシニア層が大きな割合を占めると言われるが、ビコーズワインの愛飲者は20代から60代までと、他のブランドに比べて圧倒的に幅広い。 その一方で、11回以上のリピーターを調査したところ、予約困難店やデパ地下惣菜を愛するグルメ層であることが判明した。普段は5000円〜1万円のワインを飲むような層が、「缶ビールをプシュッと開けるような気軽な感覚」でビコーズワインを重宝しているのだ。事実、本企画を提案した際も、舌の肥えた弊誌のベテラン編集者から「私も家でよく飲んでいるのよ!」と即座に共感の声が返ってきたほどだ。
この層に向けて、ファンイベントでは、ミシュラン星付きシェフに直談判して姉妹店でその日限りの1万円特別コースを提供してもらったり、人気ラーメン店に特製のフルコースを作ってもらったりと、毎回趣向を変えた企画を打ち出しており、常に満席となる人気ぶりだという。
ワイン文化を根付かせるための終わらない挑戦
「正直、もっと早く100万本に到達したかった。思っていたより時間がかかった」 6年での大台突破にも、吉田氏は冷静だ。今後は本数だけを追うのではなく、現在の13種類から将来的に20種類程度へとラインナップを拡充し、シリーズとしての完成度を上げることを目指すという。現在の目標は、プロの展示会等で「ビコーズワインなら試飲しなくても(美味しいと)わかっているから大丈夫」と言われるほどの絶対的な信頼を獲得することだ。
伝統的な業界において、難解な情報を削ぎ落とす「引き算の美学」で直感的なUIへと刷新し、企業がコントロールを手放すことで自走型のコミュニティを生み出し、異業種とのコラボで新しい市場を開拓する━━フィラディスが「Because, ワインシリーズ」を通じて体現したエコシステムは、単なるアルコール飲料の枠を超え、多くの商品やサービス開発者にとって、次世代のファン作りと市場開拓の鮮やかなヒントとなるはずだ。


