マイク・バーナルは、フェイスブックで外部開発者向けのプラットフォーム事業を8年率い、そのあとセコイア・キャピタルで7年を過ごしてから、AIに特化したベンチャーキャピタルのConviction(コンビクション)に移った。AIがコードを書くさまを3年間見てきたバーナルの結論は、ソフトウェア企業がこれまで頼ってきた「堀」(moat。競合の参入を阻み続ける優位)はもう成り立たないというものだ。
米国時間2026年9月、Xに投稿したエッセイでバーナルは、SaaS企業の投資家向け資料が必ず持ち出す2つの防御、すなわちスイッチングコスト(別の製品に乗り換えるときに顧客が負う手間と費用)とネットワーク効果が、エンジニアリングのコストがゼロに近づくにつれて崩れていくと論じている。
毎日、想像を超える量のソフトウェアを作る。そこで得た利益をさらに開発へ回す。そして、企業の中でソフトウェアの購買の意思決定に関わる部門や担当者の集まりである「バイイングセンター」(buying center)を丸ごと押さえる。バーナルが勝ち筋とみるのは、そこまで振り切ったやり方だ。特定の機能だけを手がけて中規模にとどまる企業、つまり市場の中間層に居場所はないというのがその見立てである。
営業・マーケティング支援のClay、評価額は2025年8月の2倍を超える約1兆1100億円
バーナルがConvictionにゼネラルパートナーとして加わったのは2025年1月で、同時に2億3000万ドル(約361億円)の第2号ファンドが立ち上がった。Convictionは、投資家のサラ・グオが率いるAI特化のファンドである。
フォーブスによれば、バーナルは、人事・給与・IT管理を1つにまとめたRippling(リップリング)、営業先の開拓をAIで自動化するClay(クレイ)、Notion、クラウド型の監視カメラと入退室管理を手がけるVerkada(ヴェルカダ)に早い段階から出資した実績を携えての移籍だった。
エッセイの6日前には、そのClayがウエリントン・マネージメント主導のシリーズDで1億1500万ドル(約181億円)を調達し、評価額は71億ドル(約1兆1100億円)に達した。2025年8月の値付けの2倍を超える水準である。顧客は1万7000社にのぼり、その中にはAnthropic、OpenAI、ストライプが含まれる。
中堅企業市場を制するオールインワン型のRipplingも、隣接機能を吸収し続けて追随を阻む
中堅企業市場を制するオールインワン型システムの例として、バーナル自身が名前を挙げているのがRipplingだ。この2社はいずれも、バーナルの描く型にはまっている。すなわち1社のベンダーが隣接する機能を次々に取り込んでいき、追いつこうとする競合は、何年分も積み上がった製品をまるごと作り直さなければならなくなるという型だ。



