これに比べて、同性間選択を理由とする説は、より矛盾のない説明が可能だ。2012年に『Behavioral Ecology』に掲載された論文では、ニュージーランドとサモアという、大きく異なる文化を持つ集団に対して、同じ男性の「ひげあり」と「ひげなし」、両方の顔を見せた。すると、どちらの集団においても、ひげがあるバージョンの方がより年上で、社会的地位が高いと判断されたが、魅力度に関しては増大がまったく認められない、という結果が出た。
また、ひげは顔の見た目の大きさを拡大し、あごのラインを角ばらせる効果がある。角ばったあごは、肉体的な強さと結びつけられる視覚的特徴だ。最近の研究で明らかになった重要なエビデンスからも、ひげを評価するのは主に男性であることが示されている。
さらに、科学的裏付けには乏しいものの、同性間選択説は、男性自身のひげに関する発言とも整合性がある。ひげを生やしている男性にその理由を聞くと、「年長に見られたい」あるいは「職場で威厳がある印象を与えたい」といった答えが返ってくることが多い。「モテたいから」という声を聞くことはほとんどないだろう。
これを他の動物の事例と比較するなら、「クジャクの飾り羽根」よりもむしろ「ライオンのたてがみ」の方が近いだろう。たてがみは、配偶者候補へのアピールというよりも、同性のライバルに対する威嚇として機能している。これがあることで、取っ組み合いのケンカになる前に、対立を収めることが可能になる。「強そうに見せること」ができれば、実際の強さを証明するよりも、かなりの低コストで目的を果たすことができるわけだ。
「ひげに関する科学的研究」が究明できていないこと
仮説の一つに、ひげは、顔を物理的に守ることに役立っているというものがある。つまり、打撃などの衝撃からあごを守るということだ。2020年に『Integrative Organismal Biology』に掲載された研究は、この点を検証した。具体的には、骨に見立てた素材を羊の皮で覆い、その上に重りを落としたところ、毛が生えている皮のサンプルは、毛を刈ったタイプの皮と比べて、より顕著にエネルギーを吸収することが判明した。この結果は、確かな結論というよりも、可能性を示唆する段階だ。さらに、これと近いテーマで、相容れない内容の論文もある。この研究によると、ひげの有無と、実際のケンカの強さとの間には、まったく因果関係がないというのだ。


