米中のAI性能差は3%未満に、両国の戦略は正反対だ
AIと地政学をめぐる世界の議題を動かしているのは、誰の目にも明らかなように、2つのAI超大国、すなわち米国と中国である。最先端モデル(frontier model。性能の最前線にある大規模AIモデル)の開発も、計算能力も、投資額も、圧倒的な部分をこの2カ国が占めている。
ワシントンが輸出規制を課したり、北京が国の管理下にあるデータセンターに国産半導体の使用を義務づけたりすれば、その報いを受けるのは世界中の企業だ。だからこそ、両国の関係がどう動いているかを理解しておくことが、AIの地政学が私たちの生活や事業にどう影響するかを見通す上で欠かせない。
素の性能で見れば、両者の間に大きな差はない。スタンフォード大学のAI Indexは現在、米国と中国それぞれの最高性能モデルの差を3%未満としている。注目すべきは、この差がわずか3年前には米国優位で30%にも達していたという点である。しかも米国のAI企業は、中国の競合企業の23倍もの民間投資を集めている。それにもかかわらず、差はここまで縮まった。
米国は最強モデルに賭け、中国は世界が使うモデルを押さえにいく
GPTやClaudeのような最大級のプロプライエタリモデル(proprietary model。中身が公開されず、提供元の企業が管理するモデル)は、米国の法域にある企業が米国内で開発している。一方、オープンウェイトの領域では中国が攻勢をかけている。この領域で最も広く使われているのは、DeepSeek(ディープシーク)やアリババといった中国企業が開発したモデルだ。つまり、自前のハードウェアでモデルを動かそうとする側は、中国発の技術を選ぶことが増えているということである。
これが地政学に及ぼしうる影響は、きわめて大きい。米国は要するに、世界のAI軍拡競争を制するのは最も強力なモデルを握る国だという賭けに出ている。対する中国は別の戦略をとっている。他の国々が実際に使うモデルを押さえることこそが優位につながる、という読みだ。どちらが正しかったかは、時間が答えを出す。
ビジネスリーダーと実務家が押さえておくべきこと
個人としても経営者としても、こうした問題を動かしている地政学上の決定に私たちが及ぼせる影響は大きくないかもしれない。それでも、何が起きているかを理解しておくことは、的確に動き、打たれ強さを高めるための鍵になる。
浮かび上がってきているのは、国境に沿って分断が進む世界のAI地図である。ハードウェアの生態系が分かれ、モデルが競合し、規制の枠組みも対立している。そのため、どの法域で開発し、売り、事業を回すのかを、AI戦略に織り込まなければならない。
不確実性は続く前提で、モデルもデータセットも差し替え可能にする
国際的に事業を展開している組織にとって、これは抽象化レイヤー(abstraction layer。個々の製品やサービスの違いを吸収し、中身を差し替えられるようにする中間の層)を挟んで作る、ということを意味する。世界の政治情勢が荒れたときに、モデルもデータセットも法令順守の仕組みも、必要に応じて差し替えられるようにしておくためだ。
さらに、頼りにしているAIサービスが明日にも使えなくなったとき自社の事業がどうなるかを把握し、代わりの手立てを用意しておくことでもある。
そして何より、地政学の不確実性が一時的な混乱ではなく、これからずっと続く前提条件になる未来に備えることだ。今打たれ強さを築いておけるかどうかが、次に来る世界規模の衝撃を乗り切れるか、それに呑み込まれるかを分けることになる。


