国家間競争では科学人材を引き寄せる力が重要になる
各国は優秀な人材を激しく奪い合っている。競争の対象は天然資源や製造力、軍事力だけではなくなった。人工知能、バイオテクノロジー、半導体工学、エネルギーシステム、先端製造、医学などの分野で、最も優秀な人材を引き寄せ、国内にとどめられるかどうかが、国家の決定的な競争力になりつつある。
科学者や研究者は、好奇心が尊重され、発見が支援され、長期的な視点で研究できる場所へ移る。報酬はもちろん重要だ。ただ、多くの研究者にとっては、知的自由、他の研究者との協力、所属機関からの支援、研究の価値が認められ続けるのかと常に不安を抱えずに意義ある仕事へ取り組める環境も、同じほど重要である。
米国が何世代にもわたり世界有数のイノベーション拠点となった大きな理由は、世界各地から人材を受け入れ、科学と研究へ多額の資金を投じてきたことにある。現在の米国を形づくる上で重要な役割を果たした科学者、技術者、起業家の多くは、移民や海外から渡ってきた研究者だった。彼らが携えてきたのは、教育によって得た知識と意欲、そして自らの発想を育てられる場所があるという希望だった。
米国は、世界から人材を受け入れる開放性によって計り知れない恩恵を得た。
強固な研究基盤を築いた他の国にも同じことが当てはまる。科学分野で世界を主導する地位は、偶然に生まれるものではない。大学、公的研究機関、民間企業との連携、国家による長期的な取り組みを通じ、時間をかけて育てられる。
懸念されているのは、一部分野で研究資金が減ることだけではない。資金削減とともに、専門知識が軽視されている、研究が政治に左右されるようになった、長期的な探究への支援が弱まっていると受け取られかねないことも問題になる。科学者がそう感じ始めれば、より良い研究環境を求めて別の国や地域へ移ることを考えるのは自然である。
頭脳流出は、研究者の小さな選択が積み重なって進む
頭脳流出は、ある日突然起きるものではない。長い時間をかけて、多くの人が静かに下す判断の積み重ねによって進んでいく。
大学院生が海外のフェローシップを選ぶ。研究者が、所属機関からより手厚い支援を受けられる国へ移る。有望な科学者が、長期的に研究を続けやすい企業や国を選ぶ。個々の判断は小さく見えても、積み重なれば国家の研究基盤そのものに大きな影響を及ぼす。
イノベーションを生み出す研究環境は、想像以上に壊れやすい。研究者同士のネットワークが別の地域へ移り始めると、元の状態へ戻すまで数十年かかることもある。
研究所は建て直せる。建物を整備する資金も調達できる。研究設備も買い直せる。しかし、研究者同士が長年築いてきた信頼関係や指導体制、協力関係、研究を前進させる知的な活力まで再び集積させるのは、はるかに難しい。


