経営・戦略

2026.09.24 13:30

KKRが仕掛ける従業員オーナーシップ 全員が富を分かち合う新資本主義

CASE 02|正社員も契約社員も「同じ船に乗る」

弥生のCHROが挑む「当事者意識」の再設計2022年にKKRの傘下に入り、成長を加速させるための変革に取り組んできた弥生。同社初のCHROが語るオーナーシップ・プログラムの意義と、変革に向けた人事施策とは。

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──2025年1月に、オーナーシップ・プログラムであるYSOP(Yayoi Style OwnershipProgram)を導入した。当時、弥生にはどのような課題があったのか。

大野道子(以下、大野)信頼や実直といった言葉が似合う組織である一方、世の中の変化に合わせてイノベーションを起こしていくにはまだ十分な状態ではないと感じていた。KKRの傘下に入って3年目だったこともあり、事業の枠組みや戦略は整っていたものの、目標到達を後押しする仕組みや、従業員のエンゲージメントを高める取り組みが圧倒的に足りていなかった。タレントマネジメントの観点から従業員に向き合ったり、後継者の育成を見据えたり、組織開発をリードしたりする機能は、HR部門を含めてほとんどなかった。
 
もうひとつの課題が、信託型ストックオプション(SO)制度を生かし切れていなかったことだ。弥生では23年から契約社員を含む全従業員にSOを導入していたが、従業員にその価値がきちんと伝わっていなかった。本来、SOはエンゲージメントの向上につながりうる制度であるにもかかわらず、会社側がそれを武器として使い切れていないという課題を抱えていた。

──25年のタイミングで従来からあったSOの位置づけを整理し、YSOPとして再定義したのはなぜか。

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大野:24年10月にCEOが交代したこともあり、「経営と社員が一体となり、オーナーシップをもってワンチームで取り組んでいく」というメッセージを強く打ち出したかったからだ。
 
YSOPは、「弥生Style」という新たな人材ポリシーをベースに、全員が同じ船に乗る仲間であり、会社のオーナーのひとりであるという当事者意識をもってもらうための考え方だ。金銭的なメリットを伝える以上に、企業価値の向上に向けて一体感を醸成することが重要だった。一人ひとりが自分ごととして事業や組織づくりに参画することこそ、オーナーシップのあるべき姿だと考えている。

──現時点で、SOの支給対象者は誰で、それぞれに付与されるポイント数はどう決めているのか。

大野:支給対象は契約社員を含めた全社員だ。KKRがイグジットするタイミング、つまりIPOや株式売却の時点で弥生に在籍していることが支給の条件になる。従業員にはグレードや評価に応じてポイントが付与され、そのポイントをもとに将来的な還元額が決まる。

──そうなると、評価制度のあり方も重要だ。

大野:以前の弥生は、目標を達成していれば評価が中央値に収まりやすく、パフォーマンスに応じたメリハリをつける余地が大きかった。そこで、1年ほど前から透明性やフェアネスをベースにした成果主義へと大きくかじを切った。
 
組織、部門、個人の目標設定にはOKR(目標と主要な成果)を用いている。会社や部門の目標と個人の目標を連動させ、従業員それぞれがストレッチゴールを設定し、その達成度を評価に反映する。評価に対してマネジメント同士で議論するキャリブレーション(目線合わせ)の仕組みも25年から取り入れている。

──YSOPの導入開始から1年半が過ぎた。現時点で、従業員エンゲージメントに変化は見られるか。

大野:エンゲージメントサーベイについては、それまでの調査の手法を見直し、今は従業員の意見を吸い上げて課題解決のサイクルにつなげるVOE(Voice of Employee)の手法を取り入れている。以前実施していたサーベイとは内容が異なるため単純比較はできないが、VOEからは、組織構造の見直しによって意思決定のスピードが上がった、挑戦しやすい風土に変わってきたなど、前向きな変化を示す声も上がってきている。

──YSOPのほかに、従業員オーナーシップやエンゲージメントを高めるための仕組みはあるか。

大野:エンゲージメントを高める取り組みのひとつとしては、毎週木曜日の17時から開催している全社共有会「TGIT」がある。カジュアルな雰囲気のなか、社内の最新動向などを全員で共有するのと同時に、経営陣に寄せられた質問にその場でできる限り答える。参加者数は、常時400人前後だ。
 
26年5月からは、CEOである武藤(健一郎)へのホットラインも開設している。個人面談の希望や質問などに武藤自身が対応する。弥生にはまだ、フィードバック文化が根付いていない。役員を含めて360度、どこからでもフィードバックし合い、高め合う循環をつくることを目指している。

──人事の施策や、人的資本の向上という点において、さらなる課題は何か。

大野:現場でリーダーシップを発揮する部長クラスと執行役員との間に距離があると感じている。対話を通じて信頼関係を築き、一体感をもって動くことが、世の中の変化に対応するうえで欠かせない。人や組織、カルチャーが事業の成長にどう影響するのかを可視化できていないことも課題であり、CHROである自分のミッションだと考えている。


大野道子|弥生執行役員CHRO人事本部本部長
おおの・みちこ◎不動産業界の営業職からキャリアをスタートし、人事に転身。製薬会社のHRBP(Human ResourceBusiness Partner)やLINEの HR Business Partner室長、LINEヤフーHRビジネスパートナー本部の本部長などを経て、2024年9月から現職。

弥生◎1978年創業。87年に誕生した「弥生シリーズ」から一貫して、中小企業のバックオフィスを支援している。起業や資金調達などを支える「事業支援サービス」も提供。2022年にKKRグループ入りした。

文=瀬戸久美子 イラストレーション=ブレア・フレーム

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