経営・戦略

2026.09.24 13:30

KKRが仕掛ける従業員オーナーシップ 全員が富を分かち合う新資本主義

一方で、「日本企業では役員報酬の整備が先行してきた。これからは従業員のトータルリワードを上げていくべきだ」と内ヶ﨑は指摘する。

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「従業員への報酬を考える際には、給与やボーナス、福利厚生、年金制度、株式報酬をひとつのパッケージとしてとらえる必要がある。日本では従業員へのリワードに株式報酬を組み込んでいる企業が少ない。世界に目を向けると、人的資本投資のメーンは株式報酬だ。この点において、日本は圧倒的に後れをとっている」(内ヶ﨑)

実際、日本では従業員への株式報酬はどのくらい浸透しているのだろうか。HRガバナンス・リーダーズが24年に実施したサーベイによると、株式報酬を導入している企業のうち、対象人数を全従業員の10%以下に絞り込んでいる企業がおよそ7割だった。人件費に対する株式報酬総額の割合(中央値)は、全従業員を対象としている企業では2.6%、幹部候補に絞れば7.3%と、規模も対象も限定的だ。
 
株式報酬は従業員の日々の仕事の対価であると同時に、資本市場と経営者、取締役、従業員が「同じ船に乗る」ことをリアルに体現するものだと内ヶ﨑言う。これはまさに、本稿で紹介したオーナーシップ文化の発想と重なる。

インセンティブ報酬のゆがみを正そうという動きは国の政策にも呼応している。日本は国家戦略として「資産運用立国」を掲げている。目指すのは、日本の家計に眠る約2000兆円の金融資産を現預金から投資へと向かわせ、経済成長の果実を家計に還元する「成長と分配の好循環」だ。

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オーナーシップ・ワークス・ジャパンの平野は言う。「自分の人生を自分で切り開くためにも、個人がファイナンシャル・ウェルス(金融資産)を能動的につくっていく世界に変えていかないといけない。個々人が資産を複利で運用し、大きく育てることができれば国富につながるし、家計にも効いてくる。オーナーシップ・ワークスがやろうとしていることは小さな一歩かもしれないが、日本が描く大きなビジョンの実現に向けた取り組みのひとつだと考えている」。
 
オーナーシップ・プログラムという新たな挑戦は、特定の非上場企業の取り組みや制度の設計論を超えて、日本企業の報酬観、そして国民全体の資産形成のあり方へとつながっている。従業員が「同じ船」に乗っているという実感をもてるかどうか。これこそが、日本経済と企業の次の成長エンジンなのかもしれない。

KEYWORD 03|資産運用立国
2023 年 6 月に閣議決定された「骨太の方針」で宣言された概念。日本の家計が保有する約2000兆円の金融資産を投資に振り向けることで、持続的な経済成長と国民の資産所得の増加を目指す。23年12月には金融庁が「資産運用立国実現プラン」を策定し、NISAの拡充・恒久化などを推進してきた。オーナーシップ・プログラムも、人々の資産形成を後押しする策として注目されている。

KEYWORD 04|8%
ギャラップ社の「State of theGlobal Workplace 2026」 によると、自分の仕事にやりがいを感じている(エンゲージしている)と回答した日本人の割合は8%にとどまる。

KEYWORD 05|インベストメントチェーン
投資家の投資対象となる企業が中長期的な価値向上によって利益を拡大し、それに伴う配当や賃金の上昇が最終的に家計にまで還元されるという一連の流れのこと。経済産業省が2014年8月に公表した「伊藤レポート」で日本経済を持続的な成長軌道に乗せるための重要なフレームワークとして提言されて以来、日本の金融・資本市場改革の柱のひとつになっている。

KEYWORD 06|ファイナンシャル・ウェルビーイング
自らの経済状況を管理し、必要な選択を行うことで、現在から将来にわたり経済的な安心感と幸福を得られる状態を指す概念。生活費や日々の支出をコントロールできること、病気や失業といった不測の事態に備えられていること、人生を楽しむためのお金があること、将来の目標に向けて計画的に進んでいると感じられることなどが要件だ。

KEYWORD 07|ESOP(Employee Stock Ownership Plan/従業員株式所有制度)
自社株を企業の拠出で買い付け、従業員に配分する米国の税制優遇自社株配分制度のこと。退職まで自由に引き出せない代わりに、在職中は非課税で資産が積み上がる。日本では、従業員持株会などを活用した「日本版ESOP」を活用する企業もある。 


担当者の目▶︎瀬戸久美子
Forbes JAPANコントリビューティング・エディター/特集デスク兼任

「自分は報われていない」という感覚は、人のやる気を奪い、職場の雰囲気を停滞させ、企業の成長を阻害する。本稿で紹介した「オーナーシップ文化」は、こうした負のスパイラルを断ち切り、好循環へのスイッチになる可能性を秘めている。すべての企業がすぐに導入できるわけではなく、社会に浸透するまでの道のりは遠い。それでも、最初の一歩を踏み出した企業から、見える景色が変わり始める。


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文=瀬戸久美子 イラストレーション=ブレア・フレーム

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