保険テクノロジー企業のインテグレーテッド・スペシャルティ・カバーレッジズ(ISC)も、25年9月にKKRからOnex(オネックス)に売却された際、管理職以外の全従業員およそ400人にインセンティブ報酬が与えられた。分配額は勤続年数によって決まり、最も長く働いていた従業員は約2年6カ月分の給与相当額を受け取ったという。
成長の果実の分配に向けた挑戦は、ここ日本でも始まっている。医薬品の受託製造を手がける武州製薬は24年、PEが支援する企業として日本で初めてオーナーシップ・プログラムを導入した。ビジネスが事業計画通りに進めば、イグジットの際に各従業員におよそ6カ月分の賞与が支給される見通しだという。22年にKKRの傘下に入った弥生や、25年12月に非上場化したトプコンも社内でオーナーシップ・プログラムを立ち上げ、従業員とともに企業価値の向上にまい進している。
トプコンでは、グローバルを含めたグループ企業の正社員および嘱託従業員などを対象に26年2月からプログラムを展開している。同社で最高人事責任者(CHRO)を務める渡邊玲子は、海外売上高比率約82%、ノンジャパニーズの従業員比率約67%という同社にとって「国や地域を超えて、従業員が会社の成長をともに目指せる仕組みであることは重要だ」と話す。
経営の専門家は、PE主導のオーナーシップ・プログラムをどう評価するのか。明治大学ビジネススクール専任教授の岡俊子は「企業価値が上がることで生み出された利益を従業員にもシェアするのは良いことだ」と評価したうえで、「仕事のパフォーマンスは気のもちようで大きく変わる。(本プログラムは)従業員のマインドセットを変えることができるのではないか」と期待を寄せる。
HRガバナンス関連のコンサルティングを手がけるHRガバナンス・リーダーズCEOの内ヶ﨑茂も「PEは、投資先企業を成長させることに対して最もインセンティブをもっている存在だ」としたうえで、こう評する。
「非上場企業には資金源も、プランを管理したりするリソースもないことが多い。PEがエージェントとしてプランニングを後押しし、経営陣とPEが一体となって従業員のモチベーションを最大化し、企業価値を上げていこうと旗を振るのは方向性として正しい」(内ヶ﨑)
業績とエンゲージメントの「好循環」をつくる
オーナーシップ文化を醸成することの意義はわかった。だが、オーナーシップを従業員の日々の行動変容につなげるのは、そう簡単ではない。
トプコンCHROの渡邊は、「現在の課題は、従業員一人ひとりが会社の成長や企業価値の向上をより『自分ごと』としてとらえ、自らの仕事と結びつけて考えられる状態を、組織としてどうつくっていくかにある」と話す。
「オーナーシップは抽象的な概念だ。『自分ごとで働く』とはどういう姿なのか。具体的にどのような思考や行動がそれに当たるのか。この共通認識がないまま言葉だけが先行すると、従業員にとっては自分の仕事と結びつけにくく、管理職にとっても対話や育成の起点にしにくい。従業員が自分ごととして考えられるだけの情報や仕組み、対話の機会を整えていくことが重要だ」(渡邊)


