もともと、スマートフォン製造の一大拠点として世界にその名を知られることになった同地域は、現在、世界最大のドローン企業・DJIが本社を構える“ドローンの都”としても認知されて久しい。加えて近年では、次世代ハードウェア製品を開発する新興ベンチャー企業の拠点になりはじめている。
筆者は昨年11月、書籍「AI・ロボット開発、これが日本の勝利の法則(扶桑社)」の執筆のため、同エリアを訪れる機会に恵まれた。
取材中、特に印象深かったのは、深センで働く若者たちの姿だった。訪問先のひとつなった新興ドローン企業・XIROのオフィスでは、300人ほどの若者たちが机をならべ、製品開発に熱心に従事していた。
「社内の主要メンバーは80年代後半生まれが多い」。案内を担当してくれた広報担当者は、そう社内事情を説明してくれた。
日本でいえば、「社員の大半が平成生まれ」という表現に置き換えることができるだろうか。ビジネスの最前線で、20~30代の若者たちが主役として活躍している──。そんな様子は、「深センでは決して珍しくない」とも、その広報担当者は語った。
なお、深センの年代別人口構成比では、20~30代が65%を占めると言われている。一方、65歳以上はわずか2%。おそろしく若い都市である。現在、深センの中心地では、高度な教育を受けられるオンライン大学や、インキュベーターなど教育施設が日を追うごとに増加しており、並行して、若者たちのビジネスを支援する投資環境も充実しはじめているという。
そんな中国の新時代をリードするイノベーションの都・深センで、ひと際注目を浴びている製品群がある。家庭用ロボットだ。深セン市ロボット協会・畢亜雷秘書長は、中国の事情について次のように説明する。
「深センなどを中心に、家庭用ロボットの開発企業が増えています。その主な理由のひとつに、高齢化問題への対応がある。中国では60歳以上の高齢者が、すでに2億人に達しているのですが、今も毎年800万人以上のペースで増え続けています。2020年までに2億5500万人、2030年には4億を超え、2050年には4億8000万人に達するとも言われています。しかしながら、そのときに高齢者を介護ができる年代層にはひとり子が多く、彼らは自分の子どもの世話や仕事で手一杯になってしまう。そのため、高齢者のパートナーとして家庭用ロボットのニーズが高まっているのです」
家庭用ロボットのニーズを支えるのは高齢化だけではない。畢秘書長は続ける。
「統計によると、中国には7000万人ほどの留守児童(都会へ働きに出た両親と離れて農村で暮らす児童)がいると言われており、親子のコミュニケーション不足が問題になっています。家庭用ロボットが児童の孤独感を減らし、情感を与え、同時に親の仕事と家庭の両立を手助けする。そういう未来像を実現するため、開発に拍車がかかっているのです」