多くの仲介業者が乱立するM&A業界に、品質至上主義で一石を投じるスピカコンサルティング。同社代表取締役の中原駿男が、徹底してこだわる品質とは何か―。
「M&Aは、会社を売却したら大抵はそこで業務完了となるので、極論を言うと、仲介業者はそれ以上のサービスを向上させる必要がありません。だから対応が不十分な業者も少なくないのです。売り手企業もその品質に対して声高に発信することはあまりありません。人生で一度しか売る機会がないのであれば、それが良くなかったとは言いたくない。誰だって『いい会社に巡り合えた』と言いたいはずです。だからこそ、サービスにこだわりたいんです」
スピカコンサルティング代表取締役の中原駿男(写真。以下、中原)は、M&A仲介への想いをそう語る。
人口減少が進むなか、事業承継は企業が生き残るうえで深刻な課題となっている。実際、後継ぎがいないがために廃業を余儀なくされる中小企業は少なくない。その課題を解決する手段として近年、注目されているのがM&Aだ。
企業価値を高めるバリューアップコンサルティング
ところがそれを悪用する事業者(買い手)も存在する。業績が芳しくない会社の株式を極めて安い金額で取得し、キャッシュだけを抜き取り負債を残して逃げてしまう―。いわゆる「吸血型M&A」だ。成約率が低い業界であるがゆえに、目先の手数料にしか目が向かない仲介業者が少なくないことにも問題があると、中原は指摘する。そうした業界に一石を投じるのが、スピカコンサルティングなのだ。
「M&Aは事業承継の課題を解決するイノベーション。私たちは、M&Aの成功とは何かという定義を常に考えています。高く売却することも大事ですが、株価が高すぎると譲渡後にその会社の経営が悪くなったり、そこで働く社員が不幸になったりすることがあり、よくありません。私たちは、あらゆる関係者の人生を考慮して仲介しており、当事者意識を強くもっています」
同社の創業には、M&Aの前後もサポートすることで顧客にもっと質の高いサービスを提供したいという、中原の想いがあった。
「M&A仲介会社で7年間、いろいろな業種の方々のお手伝いをさせていただきましたが、結果が出て幸せな半面、もどかしさも感じていました。成約間近になってようやくその業種のビジネスモデルや特徴がわかるということの繰り返しで、はじめからそれらを理解していれば、もっとできることがあったかもしれないと思えることが多々あったからです。それに、M&Aが成約したら顧客との関係が終わることにも、寂しさを感じていました。私個人としては、譲渡したオーナーとつながり続けていたので、アフターフォローにおいてもできることがたくさんあると感じていました。それらを実現したいと思い、2022年に起業したのです」

そうした経験から、スピカコンサルティングでは、1人が1業種を担当する「業界特化型M&A」にこだわっている。それは、日本の各産業が抱える業界再編という課題の解決にも寄与するという。
「日本の人口は確実に減ります。ところがひとつの業界に存在する企業があまりにも多く、経営効率が向上しない課題があります。M&Aは業界再編のイノベーションにもなる。それには、業界に特化していることが強みになります。業界への深い理解と愛情がなければ、業界をより良くしていくための提案ができないからです」
売却後のアフターフォローに関しては、自社だけでなく、さまざまな企業と提携することで幅広い選択肢を用意している。
「売却して資産を増やすことも必要ですが、個人や企業の枠を超え、社会をより良くする活動も大事です。そのため、安定資産としての不動産投資のRENOSYや、社会貢献・寄付活動のクラウドファンディングを運営するREADYFOR、ほかにも地域活性化やアートなど企業とも提携し、社会全体が成長し続けていけるような“より良い資金循環”の構築を目指しています」
同社のもうひとつの特徴は、企業価値を高めるバリューアップコンサルティングだ。
これも中原のこれまでの経験による産物だ。
「M&Aには監査がありますが、そこで問題点を指摘され、売却額が減額されるケースもあります。そうした指摘のなかには、早めに準備しておけば回避できたものも少なくありません。そうした懸念材料をなくすために、企業価値を上げるのです」
それは、必ずしもM&Aありきではない。目的は企業価値を向上させることであり、コンサルティングサービスのみを提供する場合もある。スピカコンサルティングは、企業価値を向上させるために経営に深く入り込み、包括的に支援をするのだ。
「地方の従業員100人以下の中小企業では、事業計画や就業規則をあまり意識していない会社も少なくありません。それでは採用すらまともにできないので、人事評価制度から経営戦略まですべてを一緒につくらせていただき、企業が自走する支援をしています」
バリューアップコンサルティングの対象は、中小企業だけでない。日本の時価総額上位20社に入る企業の新規事業立ち上げのためのコンサルティングも行っているという。

さらなる品質向上のために「成功報酬全額免除プラン」を開始
サービスの拡充が進むスピカコンサルティングだが、さらなる顧客満足度向上を目指し、今年3月には新たな施策を立ち上げた。M&A仲介における一連の支援に満足できなかった場合に、成功報酬の支払いが不要になる「成功報酬全額免除プラン」(※)だ。これには、スピカコンサルティングの覚悟が表れている。
「手数料免除は経営にも影響があり、怖さはあるのですが、これまで成約した方々を振り返ると、不満をもっている人は皆無でした。私たちが目指しているのは、不満な人から手数料をいただいて、なあなあで終わるものではない。業界最高品質を自負してやってきているので、自分たちにプレッシャーをかけ、サービスのレベルをよりいっそう高めるためにも、やるべきだと覚悟を決めました」
同プランへの申し込みにかかる費用は200万円(税別)。満足できなかったと申告されれば、それ以外の報酬はいっさい免除にするという。サービスに自信があるからこそ始めたプランだが、もし仮に免除になった場合は、その顧客にインタビューして業務改善につなげる。同プランには、吸血型M&Aなどの影響で仲介業者へのイメージが悪くなるなか、それを払拭したいという狙いもある。そうしたサービスレベル向上の先に中原が思い描くのは、日本企業が資本政策としてM&Aを実行し、成長していくことだ。
「M&Aは経営戦略のなかでも重要度の高いテーマであり、経営者は必ず考えてほしい選択肢です。それと同時に、後戻りできない経営者にとっての最大の決断でもあります。だからこそ、私たちは今急増しているM&Aのブローカーではなく、M&Aコンサルタントとしての誇りをもって、お手伝いしていきたいのです」
(※)◆成功報酬全額免除プランの注意事項
対象:譲渡(売り手側)企業
費用:200万円(税抜)※本費用は、成功報酬全額免除が適応された場合であっても返金されません
申込方法:仲介業務契約締結時の申告制※仲介業務契約締結以降は、本プランの追加はできません
全額免除条件:下記の条件をすべて満たすことが条件となります
全額免除条件:
・M&A仲介における一連の支援で不満があった場合
・業務改善を目的としたインタビュー(1時間程度、2回、対面)にご協力いただけた場合(決済日より1カ月以内に実施)
・全額免除申出期間:決済日(譲受企業から譲渡対価が入金される日)の前日まで
スピカコンサルティング
https://spicon.co.jp
なかはら・としお◎慶應義塾大学経済学部卒。2010年にみずほ銀行に入行し、法人営業に従事。14年からは日本M&Aセンターにて、地方の事業承継解決問題に取り組む。その後、中堅M&A仲介企業の取締役として業界特化の業界再編戦略本部を立ち上げる。22年8月にスピカコンサルティングを設立。23年7月、GA technologiesと経営統合。