Forbes JAPANがメディアパートナーを務める「FUTURE TALENT STUDIO」(以下、FTS)。このビジネスプラットフォームはテレビ朝日と電通が共同で立ち上げ、未来を担う革新的な事業や起業家の育成に取り組んでいる。
ここでは、FTSのプロジェクトメンバー藤森一樹(テレビ朝日)が、同プロジェクトの関連番組『BooSTAR -スタートアップ応援します-』(以下、『BooSTAR』)の解説をつとめる早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授にスタートアップの現在地と未来について話を聞いた。
2025年はスタートアップの「踊り場」
藤森:2024年の日本のスタートアップを取り巻く環境を、入山先生はどのようにご覧になっていますか?
入山:コロナ後の盛り上がりが続くいい年だった一方で、「踊り場」に差しかかっている印象を持っています。スピーダ(旧INITIAL)の統計によると2024年のベンチャーの資金調達総額は、昨年と比べて横ばいになりました。右肩上がりでは無くなってきたということです。日本はコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の存在が大きくて、世界屈指の高い比率なんですね。つまり、キャッシュに余裕がある大企業がスタートアップに投資をしている。簡単にいうと投資家のプレッシャーもあって、大企業はキャッシュを使わなければいけないので、過去には「とりあえずCVCを始めよう」という流れがあった。これ自体はいいことなのですが、CVCには独特の“緩さ”があった。
藤森:“緩さ”というのはどういうことでしょう?
入山:つまり、大企業は余裕があるので、本気でリターンを期待するというより、ある意味で社会貢献的な側面も強かったのだと思います。資金を調達したスタートアップ側もなかなか結果を出せず、「これはちょっとおかしいな……」という雰囲気になってきたのが、2024年だという感覚です。私は今が大切だと思っていて、本当に価値のあるスタートアップのあり方、大企業とスタートアップの関わり方を真剣に考える元年にあたるのが2025年だと考えています。なので、FTSも『BooSTAR』もスタートアップの本質的な課題に迫る年になるのではないでしょうか。
目的なきオープンイノベーションを続ける大企業に足りないものとは?

入山:ここ最近のスタートアップ成長の鈍化は、大企業に関して言えば、目的なきオープンイノベーションの末路ですよね……。独立系のベンチャーキャピタリスト(VC)は、苦々しい思いでここ数年の大企業CVCによる投資のさまを見ていた。「それで、どう果実を取るのか?」と。独立系VCは本気でリターンを出さないと即座に立場がなくなりますからね。
藤森:大企業とスタートアップの共創は試行錯誤の中で様々な取り組みが実現していますし、想いや志を持ったスタートアップと大企業が組むことで新たな可能性が広がる点もあると思いますが、取り組んでいく中で見えてきた課題もあるのでしょうか?
入山:これは持論なのですが、日本の大手企業には本当の意味での中長期戦略がない所も多いんですよ。最大の原因は社長の任期が決まっているから。やはり戦略とは、5年、10年、20年というスパンで立てるものですよね。なのに、社長の任期が2年2期ではやり遂げられません。日本企業には、社長が長期戦略にコミットする体制が必要です。企業のトップは能力が高い人が長くやったほうがいい。そこで必要なのが、コーポレートガバナンスです。
藤森:このところ、メディアでも話題のコーポレートガバナンスですね。
入山:私の理解では、これは本来、「優秀な経営者を長く応援するためにある制度」です。この人が社長なら変化を起こせそうだ、イノベーションが生まれそうだと思えば、長期で任せればいいのです。でももちろん、たまに暴走する人も出てくる。そのときにはスパッと解任するのが、社外取締役の仕事です。イノベーションを長期で起こせそうならその社長に任せ、能力が低かったり、暴走するならすぐに切る。これが本当の企業ガバナンスであり、これができないのなら、社外取の責任だと私は思います。いいガバナンス体制があって、中長期の戦略にコミットできる社長のもとで、やっとスタートアップとのオープンイノベーションが生まれるのではないでしょうか。
ディープテック起業は日本にとってチャンス
藤森:今日はディープテックスタートアップの支援を目的とした施設「SAKURA DEEPTECH SHIBUYA」でインタビューさせていただいていますがが、日本のディープテック分野のスタートアップを入山さんはどうご覧になっていますか?

入山:個人的には、すごく期待しています。ただ、ディープテック分野はお金がかかる上に、時間もかかる。つまり、すぐに結果が出ないのです。
藤森:投資家にとっては、技術が複雑で判断しにくい点も挙げられますよね。
入山:そうなんです。SaaSのようなビジネスモデルは、わかりやすいので、「文系の投資家」でも判断ができるんです。ただ、ディープテックはかなりの技術の目利きじゃないとわからない。
藤森:日本における課題はどこにあると思いますか?
入山:日本だけじゃなく、世界的にもディープテック起業を正しく機能させる必要がある。これって実は、日本にとってチャンスなんです。日本には、非常に優れた技術がある。課題は、投資家側に技術的な目利きが少ないことです。アメリカのVCには、博士号を持つ人材が多数在籍しているのが常識です。日本のVCを動かしているのは金融業界の人間が多いので、SaaSはわかってもディープテックの知見がない。このあたりが大きな課題だと思います。
そこで期待したいのが、実は大企業の関わりです。大企業には技術に詳しい人材がいる。なぜなら、日本の優秀な研究者は大学のラボと大企業の研究所にいます。博士号を持っているような目利き人材がCVCに入ってくると期待できますよね。
藤森:資金的に余裕がある企業が、ディープテックの実力派スタートアップと出会えば、冒頭の「目的なきオープンイノベーション」の問題も解決できますね。
入山:ただ、もうひとつ課題があります。ディープテック系スタートアップは、ビジネスモデルが不明瞭で上場しにくいんです。もともとバリバリの技術者ですから、経営の視点が足りない。そこで、注目すべきがM&Aです。日本の大企業が規律の効いたCVCなどの後で、投資したディープテック系スタートアップを買収する流れができてくると面白いと思いますね。
注目キーワードは「ベンチャークライアントモデル」

藤森:2025年のスタートアップ周辺で、これから注目されそうなキーワードはありますか?
入山:「ベンチャークライアントモデル(Venture Client Model)」ですね。これはドイツが先行している考え方で、大企業がスタートアップの顧客になることで、成長を支える新たなオープンイノベーションの手法です。スタートアップは、資金豊富な大企業のリソースを求めています。そういう場合、今まではCVCのような形で企業が投資をするのが一般的でした。これも悪くないのですが、もっと優れた方法を模索したところ2通りあった。ひとつは、大企業がスタートアップのモノやサービスを直接買う。これがベンチャークライアントモデルです。スタートアップにとって、モノが売れれば収入になるし、大企業にとっては購入したサービスでコスト削減や新商品の開発ができるかもしれない。
もうひとつは、大企業がスタートアップをM&Aするという流れです。そこには2つ目的があって、ひとつはスタートアップの技術やビジネスモデルを手に入れる。もうひとつは、優秀な人材の獲得です。つまり「アクハイアリング(Acqui-hiring)」。これは、「Acquisition(買収)」と「Hiring(雇用)」を組み合わせた造語です。買収したスタートアップの起業家に大企業の経営ポストを任せるわけです。
藤森:M&Aでアクハイアリングされた起業家が、大企業で活躍している事例もあるのでしょうか?
入山:シリコンバレーで「Drivemode」というスタートアップを起業した古賀洋吉さんという人がいて、彼は2019年にホンダに買収された後も辞めずに残っています。「ホンダに残って、社内を引っかき回してくれ」と言われて、Drivemodeの組織を残しながら、ホンダ社内でソフトウェア開発などの領域で新しいことをやっています。
FTSは大企業とスタートアップをつなぐ「場」になれる
藤森:本日は勉強になりました。改めてスタートアップ周辺の裏側も含めて、本質的な議論をメディアで発信していかないといけないと実感しました。
入山:そういう意味では、私はFTSと『BooSTAR』に強く期待しています。私は今、「入山章栄の経営理論でイシューを語ろう」というPodcastの番組をやっているのですが、この反響が非常に大きい。30〜40分くらい、私がひたすら専門的なテーマで話すのですが、それがいいみたいなのです。“タイパ”感覚で端的なショート動画がバズる一方で、意味のある話をじっくり聞きたい、深く味わうという反作用も確実にあるということがわかりました。
藤森:私たちも、『BooSTAR』を通じてより価値のあるコンテンツを追求していきたいと思います。オールドメディアなんて呼ばれ方もするテレビにも、まだできることがあると思いますか?
入山:それこそ、FTSは電通とテレビ朝日という大企業が運営していますから、すごいネットワークが確立されている。そして『BooSTAR』の周辺には、勢いのあるスタートアップがたくさんある。だから、大企業とスタートアップをつなぐ役割を担えるのではないでしょうか。メディアを使って大企業とスタートアップのコラボレーションを提案していくこともできるし、そこから新たなイノベーションの種を拾って、さらに広げていくような展開になれば面白いと思います。
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