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2024.11.26 16:00

起業は常に「課題ありき」 松本恭攝が挑むジョーシス、シリコンバレーへの道

印刷業界の常識を変えたラクスルに続き、 SaaSの統合管理クラウドを提供するジョーシスを立ち上げた松本恭攝。今年10月にジョーシスで140億円の資金調達をおこなったことを発表するなど、連続起業家として注目を集めている。松本への取材から、「スピード」「オペレーション」「チームづくり」という3つの軸が見えてきた。


ジョーシスは今年8月、千葉市の海浜幕張にオペレーションセンターを開設した。ラクスル創業者、松本恭攝が新会社のジョーシスを立ち上げたのは、2022年2月。創業2年目に行った1000㎡300坪という巨大なセンターへの設備投資は、この事業にかける決意のあらわれだろう。

センター新設にあたって注目したいのは大きさだけではない。大きな施設になれば、プランニングから入居まで何カ月もかかることが普通だ。実際、4月にプロジェクトが発足した時点で、メンバーは8カ月かけてセンターをつくる予定だった。それでも一般的な大手企業と比べると短いほうだが、松本はメンバーに「4カ月でやってほしい」と頼んだ。

「経営における一番重要な資産は時間です。1年間かかるところを4カ月でやれば、改善が2回できて、準備に1年かけたときよりずっとクオリティの高いものができる。会社の大きさは関係ない。変革を起こそうとする会社にとって、スピードは大事なケイパビリティだと考えています」

スピード重視の方針は経営全体に貫かれているが、センター開設においてもその方針が揺るがなかったのは、ジョーシスのビジネスにおいてオペレーションが重要な意味を持っているからだろう。

DXが進んで、企業の情報システム部門は多くのITデバイスやSaaSサービスを管理する必要に迫られている。それらの管理を統合して効率的に行えるようにしたのがSaaS管理サービス「ジョーシス」だ。ただ、同じようなSaaS管理サービスは他にもある。ジョーシスの強みは大きく二つ。一つはセキュリティ機能が充実していること、そしてもう一つが、オペレーターが運用をサポートしてくれることだ。

「ソフトウェアを提供するだけでは、お客様のリテラシーによって導入効果が変わります。SaaS管理も、使いこなすまでの “ラストワンマイル” は人の手が必要です。ジョーシスは、専門部隊のオペレーターがお客様の業務をサポート。海浜幕張オペレーションセンターはその新拠点であり、25年末までに200人体制にします。そこまで手厚くサポートできるのは私たちのユニークポイントです」
ジョーシスSaaSオペレーションセンター

ジョーシスSaaSオペレーションセンター

デジタルサービスのスタートアップは、まずプロダクト開発に力を入れることが常道だ。もちろんジョーシスも優秀なエンジニアを集めてプロダクトを磨き続けている。ただ、松本は同時にオペレーションにも光を当てて投資を行い、競合との差別化を図っている。そこに起業家としてのセンスが垣間見えるが、松本は「ラクスルの経験があったから」と分析する。

「ラクスルは自社で印刷機を持たず、日本全国の印刷会社と連携して、稼働していない印刷機を活用することでお客様に安く印刷をお届けします。ただ、実際にそれをやるには数百の印刷会社のオペレーションを標準化したり、1日何万件というお客様からのオーダーにオペレーターが対応する必要がありました。過去十数年オペレーションをマネジメントしてきたからこそ、その大切さや難しさは理解しているつもりです」

どれほど優れたビジネスモデルも、オペレーションの支えなくしては価値を発揮しきれない――。過去の起業経験から得た確信が、現在のジョーシスに活きているのだ。

起業よりも課題解決に興味があった

連続起業家である松本のアントレプレナーシップは、どうやって育まれてきたのか。親族に事業家がいて幼いころから背中を見てきたという起業家は多いが、松本は公務員一家の出身。起業家になる意識はまったくなかった。

「あえていえば、本来あるべき姿になっていないことに疑問や憤りを感じるタイプ。事業そのものが目的ではなく、社会課題を解決するために事業をやっているという意味では、今もあまり変わっていません」

学生時代には学生団体の立ち上げに関わった。ゼロイチの楽しさを味わったが、やはり起業家になる選択肢は頭に浮かばなかった。

大学卒業後はコンサルティング会社に入社する。ひたすら資料を作成するジュニアの仕事に物足りなさを感じた。一方、仕事の中で気づいたこともある。当時はリーマンショック直後でコスト削減関連プロジェクトが多かったが、間接費の中で削減率が目立って高かったのが印刷費だった。

「印刷は非効率な業界だと感じて調べたら、印刷業界は多重下請け構造で、下請け・孫請けの中小印刷会社の印刷機稼働率は40%程度でした。この構造を変革したら利用者と印刷会社の両方に利益があると気づきました」

そこから起業に至る経緯は、まず起業ありきではなく社会課題ありきの松本らしい。

「最初は、印刷業界を変革する会社に転職しようと思って会社を辞めました。でも、この問題に取り組んでいる会社は1社もなかった。それなら自分でやるしかないと、09年にラクスルを起業したのです」

期せずして会社を立ち上げた松本だが、その後は起業につきもののハードシングスも経験した。なかでも学びになったハードシングスは何かと尋ねると、「たくさんあって選べない」と笑いつつ、社員の大量退職をあげてくれた。

ラクスルは12年、シリーズAで2.3億円を調達して社員を増やした。しかし14年のシリーズBで15.5億円を集めた前後、社員の退職が相次ぎ離職率が40%まで上昇。その後、リーダークラスを採用して組織を立て直すが、期待して採用した人材をオンボードし切れずに退職に至るケースも多かった。

「トラストベースのマネジメントができていなかったんでしょうね。人はワークでもライフでも、好きなものや得意なことをやるほうがモチベーションが上がります。人を信頼して得意なことをアサインしたほうが、組織はうまく回ってパフォーマンスも高くなる。失敗を繰り返してから、そのことに気づきました」

ラクスルを経営する中でもう一つ学んだのは、マルチで事業をマネジメントすることの難しさだ。松本は15年、物流業界で荷主と遊休車両をマッチングする新サービス「ハコベル」を立ち上げた。潜在的な市場はあるし、ラクスルで培ったノウハウも活かせる。しかし、マネジメントのリソースが圧倒的に足りず、経営の難易度が上がるわりにリターンを得づらかった。

松本はジョーシス立ち上げ後、23年8月にラクスルの社長を退任してジョーシスの経営に専念している。この身の振り方に驚いた人は多かったが、松本からすれば、ラクスルやハコベルを経営した経験から導かれた必然的な選択だった。

DAY1からグローバルチームを組んだ理由


シングルの事業に専念するだけなら、他の事業を選ぶ道もある。その中でジョーシスを選んだ背景には、グローバルで社会課題を解決したいという松本の強い思いがある。

もともとラクスルでも世界は意識していた。ただ、ラクスルは印刷所のネットワークがあって成り立つビジネスモデル。海外で展開するなら、現地でまたゼロからネットワークを構築する必要がある。世界地図を一つひとつ塗りつぶしていくような進め方しかできず、グローバル展開には不向きだった。

「ソフトウェアなら、一つのプロダクトを世界中で使えます。モックをつくってまず日本のお客様に当ててみたところ、プロダクトの需要はあると確信。これなら海外に行けると決断しました」

ジョーシス共同創業者サンジェイ・ラジャセカールがインド人だったことも大きい。

「もともとラクスルの開発拠点をインドに置くためにカントリーマネジャーを探していました。彼を紹介されて直接会えたのは、私が日本に帰国する便の搭乗2時間前で、そこで意気投合しました。実は帰国後すぐコロナ禍でロックダウンに。あのタイミングで会えていなかったらその後一緒に仕事をしていなかったかもしれない。運命ですね」

実は海外の仲間はラジャセカールだけではない。DAY1からグローバル組織を意識して、ノンジャパニーズを積極的に採用。現在、プロタクト設計はシリコンバレー、開発はバンガロールとホーチミン、販売は日本、シリコンバレー、シンガポール、シドニー。管理部門は日本にあるが、HRのヘッドはアメリカ人で、コーポレートガバナンスのヘッドはカナダ人だ。

「いくら英語を話せても、日本人のチームが日本のやり方でやっているかぎり世界では戦えない。グローバルで勝負するなら、最初からノンジャパニーズのチームでやるべき」

DAY1から世界標準をつくるという考えは、世界に出てさらに深化した。最初は「日本/日本以外」という軸で整理していたが、世界の起業家と接するうちに、ソフトウェアの世界は「アメリカ/アメリカ以外」で動いていることに気づいたのだ。

「最初はシンガポールで試してからシリコンバレーに打って出るつもりでした。ところが、シンガポールで知り合ったスタートアップの創業者ら4人は、みんなアメリカにいってしまった。ソフトウェアの世界において、シリコンバレーは顧客とサプライヤーの双方のレベルが圧倒的に高いのです。今では各国のどの拠点でも、マネジメントスタイルをシリコンバレー流にしています」

その効果はさっそく数字にも表れている。24年10月現在でユーザー企業は約700社。海外での有料販売は6月スタートで、まだ3カ月強だが、アメリカを中心に30数社が顧客になった。

世界に出て戦えば、何でもできる優秀な起業家に出会って自らの未熟さを思い知らされることもある。しかしその一方で、かつてない充実感も感じている。最後に松本はグローバルへの思いをもう一度語ってくれた。

「もともと明治のころ日本は世界とつながっていました。しかし“失われた30年”のうちにどんどんディスコネクテッドしていった。これは寂しいことです。僕は世界の課題を解決することが楽しいからやっているだけですが、ジョーシスの挑戦が他の人の刺激になるなら、それもうれしいことです」


まつもと・やすかね◎2008年、慶應義塾大学商学部卒業後、A.T.カーニーを経て、09年9月、ラクスル創業。18年5月に東証マザーズ、19年8月に東証一部上場(現在は東証プライム)。22年2月、ラクスルのグループ会社としてジョーシスを創業。23年8月、ラクスルの社長を退任、会長に就任するとともにジョーシスに専念。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2018」第1位。

ジョーシス
本社/東京都品川区上大崎2-24-9 アイケイビル1F
URL/https://jp.corp.josys.com/
従業員/350名

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