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2024.11.22 20:00

人手不足時代のサービス業に「人の価値」を取り戻せ 入山教授と語る、新概念・サービステックの肖像

労働人口減少が叫ばれるなか、殊にその課題に直面する「サービス業」。人手不足を埋めるため多くの企業がDXの必要性を認識し、業務の省力化・効率化で一定の成果を生んでいる。

だが、それだけでよいのか。DXの本質はビジネス変革の実現にあるが、人のサービスが価値創出の源泉となるサービス業には障壁も多い。サービス業の“真のDX”実現のため、「サービステック」を提供するのがClipLineだ。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンや吉野家、オオゼキ、日本郵便など、多拠点で人によるサービスやオペレーションが発生する企業を支援しており、2024年11月現在、60万人以上に利用されている。

サービステックは、サービス業の未来をどう切り拓くのか。経営コンサルタント出身で数多くのサービス業を支援してきたClipLine代表取締役社長の高橋勇人と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄が対談。サービス業が考えるべき戦略と、サービステックの重要性を語った。

今後のサービス業に必要なのは「人の手による付加価値創出」

入山章栄(以下、入山) 高橋さんは前職のコンサルタント時代から、さまざまなサービス業、特にチェーン店や多拠点に展開している企業の支援を手がけていらっしゃいますが、サービス業を取り巻く環境や今後必要な戦略をどのように見据えていますか?

高橋勇人(以下、高橋) やはり深刻な課題は人手不足です。しかし、弊社は人手不足を労働力の減少という側面だけでとらえていません。人が減るということは、多くの市場が縮小していくということ。そのなかで、どのようにシェアを拡大していくのかが最も重要なトピックスだと考えています。当社は「サービス業」を「無形の商品やサービスの提供に人の手が介在する業態」だととらえています。外食や小売など、いわゆる産業分類におけるものだけでなく、運輸・物流、介護、職種としては営業など、人のサービスやオペレーションが提供価値を直接左右する業態をサービス業と定義しています。近年そうした業界では、コロナ禍も契機となり人手不足対策としてデジタル投資が盛んになり、業務の効率化や生産性の向上が実現しています。しかしそれがシェア拡大につながるような、ビジネスの本質的な改善、中長期的な成長に結びついている事例はまだまだ少ないように感じます。各社の競争優位を生み出すものは何か。それはやはり「人の手による付加価値創出」だと当社は考えています。
ClipLine代表取締役社長の高橋勇人。

ClipLine代表取締役社長の高橋勇人。

入山 肉体労働や頭脳労働の多くはAIやロボットが担うこれからの時代、人が担っていくべきは感情労働です。人間は感情に左右される生き物なので、「このお店で買い物して良かった」「ここでご飯を食べて良かった」といった感情にどれだけ訴求できるかがサービス業においては重要で、それが事業価値を生み出すことになります。

サービスの「バラつき」の根底にある3つの要因

入山 しかしながら、サービスの質は人に付随しているうえ、個人差や店舗ごとの地域差といったローカルな要因も強い。これを競争優位にしていくとなると、難しさもありますよね。

高橋 はい。私が長年、多店舗展開企業の経営改革に取り組んでいるなかで、多くの企業が拠点・店舗におけるサービスの「バラつき」という課題に悩まれていることに気づきました。

製造業であれば、どの拠点でも仕様書通りの規格で商品が届きますが、例えば飲食業界ではメニュー表の写真と実際に運ばれた商品が大きく異なるというケースが多々あります。まずはこのバラつきという課題を解決しなければ、付加価値を創出し、競争優位を生み出すことは難しいです。このバラつきが起きてしまう原因として、3つの事柄が挙げられます。

まず1つ目がデータ化の難しさ。サービスにはつくり置きや在庫を確保できない『無形性』や、提供者やタイミングによって品質が異なる『変動性』などの特徴があり、サービスの品質をデータとして蓄積することがそもそも難しいです。

2つ目は作業の複雑さ。サービス業は作業の種類が非常に多岐にわたります。状況を判断しながらのサービス提供やこまやかな気遣いといった人の仕事として残る領域が多く存在します。

3つ目は、多店舗展開企業における現場と本部の乖離です。両者をつなぐ役割は店長やエリアマネジャーなどのミドル層が担いますが、その結果ミドル層にかかる作業負荷は非常に大きいものとなっています。その結果、本部の指示が伝言ゲームのようになって意図通り現場へ伝わらない状況が発生しているのです。

入山 バラつきという観点でいうと、経営学の分野では、グローバル戦略における方向性はI-Rフレームワークとして大きく2つに分けられます。ひとつは統一(Integration)戦略で、全世界的に同じモノを同じように売る。これを世界的に展開している代表的な企業がAppleです。

一方、サービス業はその地域やお客様によってそのニーズも千差万別なので、統一感を保ちながらも応答性(Responsiveness)を持つ必要があります。ただし、それが過度になると提供するサービス品質のバラつきが激しくなってしまうわけですね。I-Rフレームワークはグローバル戦略の概念ですが、物理的距離があって文化が異なる多地域での展開という意味で、国内の多店舗展開が抱える課題はグローバルの縮小版といえます。どのようにバラつきを可視化し、本社によるコントロールを維持するかというのは、サービス業が抱える大きな課題のひとつですよね。

高橋 こうした課題を本質的に解決するために、テクノロジーやデジタルの活用が行われるべきですが、先述した通り、そこまでは届いていないのが実情だと思います。

業務効率化や省人化の観点だけではなく、「人の力を最大化する」ためのテクノロジー、「サービステック」が必要だと我々は考え、「ABILI」というブランドを軸に事業を展開しています。

ハイパフォーマーの「暗黙知」を組織全体の「形式知」に

高橋 サービステックを活用して成長を実現した、中古車買い取り/販売のリーディングカンパニーであるIDOM様の事例を紹介します。同社は、「ガリバー」ブランドを中心に、日本全国で約460店舗を展開する企業です。

中古車はすべて一品モノであり、現場の販売員が商材と顧客のニーズを一致させ、購買行動に導く応対やセールストークはいわゆる「暗黙知」で、販売員ごとのパフォーマンスのバラつきが生まれていました。そこで、当社が提供する「ABILI Clip」という短尺動画を用いたマネジメントシステムをプラットフォームに、まずセールスパーソンに必要なスキルを整理し、標準化を目的としたお手本動画をセールスパーソンに展開。それを活用したロールプレイングを複数拠点で行いました。

これにより、販売のスタンダードを伝えることができただけでなく、各エリアに散らばっている優秀なセールスパーソンの暗黙知となっていたスキルが動画によって形式知化され、各セールスパーソンの学びと練習の質が高度化。結果として全体のサービス品質が向上することになりました。

これにより、販売成績が中位・下位だったセールスパーソンの販売結果が、それぞれ136%・193%に伸長する結果となりました。これがまさに、「人の手による付加価値の創出」が実現された事例です。

入山 なるほど、日本中にあるガリバーの現場で、日々セールスパーソンが培っている暗黙知が、これまではシェアできていなかったわけですよね。それが、動画を活用することで組織の形式知に変換され、シェアできるようになった。このような特定の人しか知らない「サービスの肝」は、本来組織全体でシェアされるべきですが、さまざまな理由で難易度が高い。

それを仕組みで解決するABILIは、人の手によるサービスの品質向上においては本当に効果的であることがわかります。


早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄。

経路依存性を乗り越え成長サイクルを実現する「ABILI」

高橋 ABILIは「サービス業の潜在力を引き出す」をコンセプトに、多拠点に展開されているサービス業の課題の可視化から実行改善まで、企業様の課題に合わせたさまざまなソリューションを提供しています。

前述したABILI Clipは、人によって異なるオペレーションのバラつき問題を解消するためのシステムです。多種多様なお客様に合わせたいろいろなパターンの業務指示・ベストプラクティスを短尺動画に落とし込み、多拠点/多店舗ビジネスの組織構造課題を乗り越えて、情報が流通・循環する仕組みを構築できます。

また、「そもそもどこにバラつきがあるのかわからない」「バラつきの原因はどこか」、というご相談を受けることも多数あります。そうしたお客様に向け、多拠点ビジネスに特化したカスタムダッシュボードである「ABILI Board」を提供しています。

各部署・各拠点に点在するデータを集約し、収益やQSCA(Quality/Service/Cleanliness/Atmosphere)などの指標を店舗やエリアごとに可視化。良いアクションを生み出すための判断材料として本部と現場がともに活用できる環境をご提供します。ご利用いただいているお客様からは「主観によるオペレーションが目立っていた現場が、ロジカルに変わっていったという実感がある」というお声をいただいています。


入山 ABILI Clipでトレーニングした従業員がカスタマーに最適なサービスを提供し、それが収益や満足度といったデータとしてABILI Boardに反映され、そこで新たに生み出された知見がまたClipとなり人に還元されていく……という正のループが形成できれば、それは生産性を向上させる理想的な状態といえます。

この改善ループを実現できれば、店舗オペレーションから経営全体までを変える可能性がありますが、あとは、システム導入後にどれだけ成功のサイクルをつくれるかがポイントですよね。

高橋 ほとんどの現場には何かしらの業務改善ツールが導入されており、新たにサイクルを構築しようとしてもツールによってオペレーションが規定されていることで、課題解決どころかツールの変更すらままならないという経路依存性に陥っている企業も目にします。正のループを構築するためには、システムのリプレイスだけでなく、経路依存性をひも解いて、適切にアナログとデジタルを組み合わせた業務プロセスを設計することが重要です。

我々は「ABILI Partner」という業界経験者が提供する業務プロセス改革の伴走支援や、「Chain Consulting」という全社変革機能も提供しており、ツール導入前に必要な業務プロセスの整理や最適化のご支援も行っています。

入山 経路依存性を乗り越え、成長サイクルの実現を果たすためには、経営陣と議論して権限を握り、現場へと落とし込む部隊が欠かせません。しかし、こうした条件を満たす人材というのは非常に限られている。ClipLineではそのサポートもしているんですね。

サービス業の生産性向上が日本経済にもたらすインパクト

入山 日本では長らく製造業が強く、いわゆるモノづくり大国として貿易黒字を誇ってきました。しかし、1985年のプラザ合意以後、貿易収支は減少を続けています。したがって、これからの時代、日本はサービス輸出大国にならなければなりません。日本のサービス貿易は長年赤字とされてきましたが、インバウンドの影響などもあり、2023年には約28.8兆円と過去最高額を更新しています。国際競争力という観点からも、サービス業の生産性を向上させる意義は非常に大きいといえます。

高橋 これまで日本の経営者は、グローバル展開にあたって現地に優秀なスタッフを大量に送ることでサービスの品質を保とうとしてきました。しかし、これには莫大なコストがかかります。デジタルのインフラが整い、人々のリテラシーも上がった現代であれば、蓄積した暗黙知をデジタルでパッケージ化し、日本企業の素晴らしいサービスを海外へと展開することも可能となるのです。

入山 今後はIoH(Internet of Human)の時代といわれています。つまり、人の働き方にデジタルが介在することで生産性が爆発的に向上する。その結果、人にしかできない感情労働が重視されるようになるはずです。そうなったときに、日本は世界屈指のおもてなし大国として、世界に誇る感情労働を提供できるポテンシャルがあるはず。ABILIシリーズによって、サービスの質のボトムアップと生産性向上が果たされ、日本のサービスが海外へと輸出される未来に期待しています。

ABILI
https://service.clipline.com/

たかはし・はやと◎ClipLine代表取締役社長。アクセンチュア、ジェネックスパートナーズにおいてコンサルタントとして多数の多店舗展開企業の経営改革を主導。業界最大手の外食企業では、「変革請負人」として売上数百億~1千億円規模の業績向上と組織変革を完遂。2013年に独立し、ClipLine創業。

いりやま・あきえ◎早稲田大学大学院経営管理研究科(早稲田大学ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒。2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院にてPh.D.を取得。10万部を超えたビジネス書のベストセラー『両利きの経営』(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン著)の監訳者としても知られる。著書に『世界標準の経営理論』など多数。

Promoted by ClipLine /text by Michi Sugawara / photographs by Ayako Masunaga / edited by Kaori Saeki