さまざまなプロジェクトや依頼に応じて世界中から植物を運び、その魅力を伝えるプラントハンターの西畠清順とともに、イノベーションの原点や現在の事業、実現したい世界について語り合う。
杉本秀和(以下、杉本):本日は面白い対話ができると思い、とてもワクワクしています。お聞きしたいことはたくさんありますが、初対面なので、まずはお互いの事業を紹介するところから始めましょうか。
私はもともと15年前にSMBCに入行し、ファイナンスやM&Aなどを通じてお客様の事業づくりに伴走していました。そして、さまざまなお客さまと歩みを共にするうちに、どれだけビジネスモデルが良かったとしても、組織のなかで働いている人たちがやりがいや熱量を持てていないと、事業がうまくいかないことがあると気づきました。さらには、自身が所属する組織が崩壊し、苦悩した原体験もあります。もちろん、成功体験もありますが。
その経験から、SMBCの経営陣に直談判し、アトラエさんとの合弁会社SMBC Wevoxを社内起業しました。現在、エンゲージメントの高い組織づくりに貢献する組織力向上プラットフォーム「SMBC Wevox」をもとに、企業の組織力や、企業価値向上の支援に取り組んでいます。
多くの仲間に感謝していますが、設立5カ月で単月黒字化を達成するなど、SMBCグループにおいて前例ないスピードで成長しています。
西畠清順(以下、西畠):僕の仕事は2つの軸があり、一つは「オフィスを緑化してほしい」「庭や公園を作ってほしい」「花や植物でイベントの演出をしてほしい」といった、植物にまつわるさまざまな要望に応える会社「そら植物園」での、いわゆる受託仕事です。
もう一つは、「office N seijun」という事務所をつくって、植物の在庫を持たずに、アドバイザーやコンサルタントといった、植物・環境・自然分野にかかわる知的労働の仕事をしており、このほか、講演活動や執筆、植物ベンチャーの立ち上げなども行っています。
両方を兼ねた活動範囲は既存の業種に当てはまらず、情熱大陸などメディアで初めて紹介された職業名、プラントハンターと呼ばれることが多いですね。
それぞれの歴史と使命感が原点
杉本:西畠さんは植物問屋の5代目として家業を継ぎ、事業を大きく転換されている。そこにシンパシーを感じています。というのも、私は実家がもともと染物屋で、曽祖父がイノベーターだったんです。当時は、兵庫の中部にある丹波で染物屋をしていたのですが、兵庫の北と南が鉄道でつながった際、生の魚を漁港から運搬できるようになることを見越して、いち早く魚屋を始めて財を築いたそうです。また、陸軍の駐屯地が近隣にできると聞きつけ、お酒のニーズが高まると予想して、今度は酒屋を始めたそうなんです。
西畠:連続起業家ですね。
杉本:そうした話を聞いていたのが、社内起業に至った原点のように感じています。西畠さんも、きっと同じようなところに原点があるのではないかと思いまして。
西畠:今まで聞かれたことのない角度で驚きましたが、たしかに似ているところがありますね。うちの場合は、2代目にあたる曽祖父がイノベーターでした。僕が生まれたときには、残念ながら亡くなっていたので、話を聞いただけですが。
当時、個人としては珍しく、温室をつくって、本来は4月に花が咲く桜を、早めに咲かせて百貨店に納品するという事業を始めていたそうです。本当かどうかは定かでないですが、周りの植木屋さんに聞いた限りでは、温室で促成栽培した植物を納品する事業を、日本で初めてやったのではないかと。
杉本:自分の家系にそうしたイノベーターがいることの影響は本当に大きいですよね。
西畠:一方で、3代目の祖父は、別の意味で有名で。100円で仕入れたものを80円で売ってしまうような商売下手でした。本当に人に慕われていたようですが、会社はつぶれかけてしまいました。そのような状態で父親が会社を継ぎ、株式会社にしたところで、僕が登場するわけです。
会社を継いだ当初、債務超過が2億円くらいありました。売上はだいたい8000万円から1億円で、いわゆる町の零細企業です。その意味では、ここにも僕のイノベーションの原点がありますね。事業を生み出したいというより、生み出さざるを得ない経済的な事情がありました。
当時は植物が好きすぎて、植物の道で生きる以外の選択肢は考えていなかったですね。仕事を始めた一日目から、自分は植物の天才だから絶対に一番になれるという根拠のない自信がありました。
杉本:私も起業したいというよりも、使命感が先にありました。SMBC Wevoxは「日本を世界に誇れる国にする」というビジョンを掲げています。これを達成するためには、チーム日本として、よりよい組織づくりをみんなで追究することが必要なんだという思いがありました。もちろん、チームで動くことが好きなのもありますが。学生時代にチームスポーツの経験があり、社会人になってからも、お客様とチームを組んで事業を成長させることが楽しくて。
西畠:こういうキャプテン気質で、熱量が高い人が考える事業を形にして応援するSMBCは器がでかいですね。巨大な組織だと意思決定が難しいと思うのですが、そうした組織にいながらクリエイティビティを発揮できるのは、稀有なことだと。
組織づくりに課題を抱えている人が多いことは、自分も感覚的にわかります。受託仕事は働けば働いた分だけ伸びますが、年商10億円を超えたときから、どこまでいっても労働集約型なのだと思い、最近では積極的に植物にまつわるベンチャーを立ち上げて、今までとは異なるビジネスモデルを模索しています。
そこで感じるのは、チームを作ることは好きですが、多分苦手なんです。社長ではなく、「親方」と呼ばれたいというか。実際、ベンチャーを立ち上げる際、出資はしていますが、取締役には一切ならないと決めていて、アドバイザーや顧問の形で参加しています。
植物の扱いと組織づくりの類似性
杉本:チームづくりが苦手とおっしゃいますが、私としては西畠さんは得意なのではないかと思っています。というのも、植物の扱いと組織づくりは似ているところがあるんですよ。西畠さんは以前、植物を扱う際の「理屈と情緒」の話をされていましたよね。西畠:そうですね。植物は、この時期にこういうふうに扱ったら生きる確率が高くなるとか、理詰めで扱っているんですよ。
その一方、植物を飾る際は、数字で測れないような情緒的な扱いをすることも考えています。今の時代だと、スマホで撮った際に、どのようにフレームインさせるように配置するかとか。
また、当然ながら生き物なので、理屈ではない例外もあって、それもまた面白いところです。
杉本:まさに、組織づくりも同じです。組織も生き物なので、コントロールできる変数とできない変数があって、その両方を考える楽しさと大変さがあるのだと思います。
西畠:その意味では、100年単位で考える必要がある寺なのか、流行のなかでできたお店なのか、予算やクライアントとの相性なども含めて、プロジェクトの条件からメンバーのアサインを考えることは日常的に行っていますね。
杉本:あとは、植物の配置の話も、組織づくりと似ています。
西畠:なるほど。この仕事をやり始めたとき、最初は生け花の仕事からスタートしたんです。生け花っていろいろな種類の植物を組み合わせるのですが、一番大事なのは芯になる枝なんですよ。さまざまな流派がありますが、芯になる枝がしっかり立つと、全体的に決まるというか。
生け花に限らず、植物をハンティングする際は芯になる植物から考えて、取りに行きます。逆に、芯にはならないけれど、すごい働きをするなという植物もあります。組織も同じですね。
杉本:このタイミングで、西畠さんにお聞きしたいことがあって。これは私だけでなく、皆が悩んでいることでもあるし、成長するためのポイントでもあるのですが、経営者としてのオペレーションとクリエイティブのバランスについて、どのようにお考えですか。自らが現場に立ってオペレーションをやればやるほど、クリエイティビティを発揮する時間が減ってしまうのを、どのように捉えているのでしょうか。
西畠:本当に悩ましいですよね。自分が現場に出たら、施主が求める景色をどのように作るのか全体の指揮を取らなきゃいけないのに、いざ木を目の前にしたら、この木をどう植えようか考えてしまうんです。でも、最近ようやく現場で指示だけして帰ることが平気になってきました。
杉本:何かきっかけや理由はあったのですか。
西畠:仕事ぶりを背中で見せなければと思っていたのですが、そういうフェーズが終わったのと、自分がいなくてもオペレーションが回るようなチームになったことが理由です。
杉本:それは、西畠さんのクリエイティビティがチームに引き継がれたということでしょうか。それとも、チームメンバー独自のクリエイティビティが発揮されれば良いということなのでしょうか。
西畠:どちらかというと、クリエイティビティをマニュアル化して託せるようになったんですよ。クリエイティビティというとややこしいのですが、大事なのは臨機応変に動けるかどうかです。例えば、「大雨が降ったらどうしようか」とか「置こうと思った石がはまらないから、別の場所に置こう」とか。逆にいえば、チームのクリエイティビティを引き出すのは課題だと思っています。
2人が創造していく新たな「エコシステム」
杉本:面白い話がたくさん出ているなか、終了時間が迫っているので、最後のテーマに入りたいと思います。未来の展望についてお聞きしたいです。SMBC Wevoxは冒頭にお話しした通り、企業の組織づくりの支援に取り組んでいるのですが、組織に関するさまざまな変数のうち、メンバーのやりがい、働きがいなどのデータを蓄積していっています。
その先には、誰もがデータを使いながら、よりより組織づくりを実践していけるような理想があります。さらに、メンバーのやりがいや働きがいは、今後、組織がよりよくなる期待値と考えています。金融で培ったファイナンス脳に切り替えて考えると、企業の期待値である「企業価値」との相性はとてもいいと思っています。
SMBCグループは商業銀行をベースにした、「お客様と半永久的に接点を持ち続ける」という稀有な業種です。そんな我々がお客様の事業のみならず、組織づくりについてもサポートし続けることができれば、世界で唯一の業種に進化できると考えています。私はこれをSMBCの第二創業と呼んでいます。
西畠:面白いですね。僕も先ほど植物にまつわるベンチャーを立ち上げていると話しましたが、それらが相互に影響しながら、仕事を増やしたり、新たなサービスを生んだりといった、「生態系ストラテジー」を構想しています。
例えば、植物と不動産をかけ合わせて、植物をテーマにした「BOTANICAL POOL CLUB」というホテルを作ったのですが、それを横展開してホテルを作るたびに、受託先が増えます。また、微生物の仕事をすると、その材料となる植木が売れるようになる。自分たちの事業はある程度成熟できたので、生態系のなかで勝手に影響し合って伸びていったらいいなと思っています。
杉本:嫉妬してしまうくらい、素晴らしいですね。ビジネス的な「エコシステム」の意味だけでなく、植物というリアルな生態系を成り立たせるのは、非常に本質的だなと腹落ちしました。本日は、面白い話をありがとうございました。
SMBC Webox
https://smbc-wevox.co.jp/
合弁会社SMBC Wevox設立時のエピソードはこちらから
提案から半年で合弁会社を設立。SMBCグループとアトラエが生んだ「SMBC Wevox」
すぎもと・ひでかず◎神戸大学を卒業後、2010年に三井住友銀行へ入行。中堅企業への法人営業、小売流通業界の業界担当、本店営業部での大手企業向け営業を経て、2021年からファーストリテイリング社長室へ出向。2023年2月に同行デジタル戦略部に帰任し、SMBC Wevoxプロジェクトを立ち上げ、設立までリード。同年10月SMBC Wevox株式会社代表取締役社長に就任。
にしはた・せいじゅん◎日本各地、世界中を旅してさまざまな植物を収集し、国内外の政府機関、企業、王族貴族など、多様な依頼やプロジェクトに応じて植物を届ける現代のプラントハンター。2012年に“ひとの心に植物を植える“ 活動、そら植物園を設立し代表取締役に就任。いまでは年間200トン以上もの植物の国際取引を行う。不動産開発におけるランドスケープ案件や森づくりなどの緑化、企業の広告案件から数々のイベントやアートプロジェクトなど、1000件以上の案件を成功に導く。近年では“植物のあらゆる可能性に挑戦する企画会社、office N seijun を創業し、自然や環境分野を主軸に数々のコンサルティング業務を請け負い、植物に関する多様なベンチャー会社を立ち上げるなど、ボーダーレスな活動を展開している。