Forbes JAPANがメディアパートナーを務める「FUTURE TALENT STUDIO」(以下、FTS)は、未来をつくる革新的な事業や起業家を生み出すために、テレビ朝日×電通によって立ち上げられたビジネスプラットフォームだ。これから事業や会社を始める人のために、新規事業開発や起業をサポートするプログラムの企画、有益な情報の発信、マッチングネットワークの提供などさまざまな支援を行っている。日本のスタートアップ創出や新規事業開発をめぐる課題と、それを打破するFTSのスペシャリティについて話を聞いた。
──まずは、FTSの概要とプロジェクト発足の背景について教えてください。
三輪友寿(写真前列中右。以下、三輪):FTSは、起業を目指す人や大企業の新規事業開発担当者を支援するビジネスプラットフォームです。ワクワクする未来をつくる起業家や、組織内で新しい事業やサービスを生み出していく方のことを我々は「ミライ起業家」と呼んでいますが、そうした人たちを応援し、革新的な事業や商品・サービスを生み出す場あるいは装置として機能したいと思っています。
また、プロジェクトの一環として、大企業のイントレプレナー(社内起業家や新規事業開発担当者)を選出・表彰する「FTS INTREPRENEURS AWARD」を新設。有識者や起業家がアドバイザリーボードとなり、受賞者を選定しました。
織田笑里(写真前列中左。以下、織田):テレビ朝日とForbes JAPANは、2022年1月に「FUTURE TALENT PORT」(以下、FTP)という共同プロジェクトを立ち上げました。「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」と連動し、次世代のイノベイターと企業や社会をつなぐ場を用意することで、濃密な情報交換やビジネスやクリエイションの現場で新しいアイデアが生まれ、社会に実装されていく好循環を目指したのです。
この取り組みを行うなかで、アントレプレナーシップ(起業家精神)を抱くことの重要は、UNDER30世代に限ったことではないことに気づかされ、それがFTS発足に至る原点となりました。
そして「FTS INTREPRENEURS AWARD」は、大企業のなかで新規事業開発プログラムに挑んだり、チームを率いて新規事業領域に取り組んでいる方はこれまでもいたと思いますが、それをたたえるメジャーな賞がなかったため、あらためて光を当てたいという思いが込められています。イノベイティブな取り組みと、それをリードする人材を表彰することで、オープンイノベイションの機会創出はもちろんのこと、未来のアントレプレナーの背中を押したいと考えています。
──ほかのスタートアップスタジオやビジコンなどとの差異、FTSの特異性はどのような点にあるのでしょうか?
三輪:マスメディアのひとつの特長は、さまざまなアイデアやプレイヤーをかけ合わせるハブになれることだと思います。
副業やフリーランスが浸透するなかで、個人個人が自分のやりたいことをみずから実現する時代になっていくし、大企業もDXやAIなどテクノロジーの進化に適応しながら新たな事業を開発してグロースしていかなければいけない時代です。ただ、個人としてゼロイチで起業するのは大変で、大企業もこれまでにない領域に技術や発想力、アライアンス企業を求める必要が出てきている。
電通でも多様なクライアントのコンサルティングや、新しい事業のプロデュースを行っていますが、社会を変革するような新しい事業やサービス、コンテンツの創出には、自社だけではないさまざまな要素を柔軟に取り込んでいく新しい手法が求められていることを感じていました。
だからこそ「かけ算」が大事なのです。私たちがもつメディア・広告会社としての立ち位置とネットワークをハブとして活用してもらって、いろいろなかけ算を生み出していくことで、事業の可能性はより広がるはずです。
誰もが心の内にもつ起業家精神を解放できる場でありたい
──FTSが取り組んでいる事業アイデアプログラムについて教えてください。
三輪:ひとつは、アントレプレナーやイントレプレナー向けに、世の中の課題を解決する新ビジネスやプロダクト案を募集する「FUTURE TALENT STARS PROGRAM(FTSP)」。採択者には、これまでに数多くの新規事業開発を支援してきた専門家や起業家が、事業アイデアの磨き上げから事業計画策定、プロダクト開発、資金調達、体制づくりまでを一気通貫で支援します。
もう一方の「FUTURE BUSINESS IDEA CONTEST(FBIC)」はより身近なイメージで、ちょっとしたかなえたい夢や実現したいサービスを募集するプログラムです。小学生からご老人まで年齢も立場も問わないので、起業まではまだ考えていないけどビジネスの種をもっている方にアイデアを募りました。採用された案に関しては本企画と連動したテレビ番組「BooSTAR」(テレビ朝日系)とも連動しながら、実現に近づけていく予定です。
織田:大きい小さいは別にして、誰にでも起業家精神は宿っていると思うのです。それをこのふたつのプログラムで引き出したい。少し哲学的な話になりますが、人間は「情緒的」な側面と「機能的」な側面をもっていると思います。「感覚的」か「論理的」かという分け方ともいえるかもしれません。会社という組織にいるとすごく機能的に、効率的に物事を回そうとしますが、一方では直感的に「これがやりたい!」という衝動をエンジンにして行動を起こすことで人間の深みや面白さを感じられると思うのです。スタートアップは特にそれが顕著だと思います。
企業のなかにもそうした情緒的なアイデアをもつ人はいると思いますが、機能性を求める組織では発生しにくい状況にあるかもしれない。だから私たちはその境界を崩す起爆剤となって、企業のなかにいる人の起業家精神を引き出したり、個人のアイデアを企業と一緒に実現したりといったことに挑戦したいと思っています。
三輪:人間の内なるエモーションを喚起して、その情熱を行動に変えていく。それはマスメディアと広告会社である私たちが得意としてきたことです。「このアイデアとこの技術やパートナーをかけ合わせればうまくいくかもしれない」という発想が生み出される場をまずはつくって、確かな実力と実績がある伴走者のアセットを提供し、事業の実現・成功へ導く。我々が夢とアイデアをかたちにするお手伝いをすることで、起業がもっと身近な世の中をつくれたらと思っています。
企業のアセットを活用して変革を起こすイントレプレナーたち
「FUTURE TALENT STUDIO」プロジェクトの一環として創立された同アワードは、大企業のなかで新規事業領域、 新規事業開発プログラムに果敢に挑み、成果を残したビジネスパーソンに贈られる賞だ。3人の選ばれし若きイントレプレナーの功績を見ていこう。2024年8月26日、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」の授賞式に先立ち、「FTS INTREPRENEURS AWARD」の受賞者が発表された。
INTREPRENEUR(イントレプレナー)とは、企業のアセットを活用して、社会全体を変革していく社内イノベイターのこと。企業組織の内部からもアントレプレナーシップを醸成したいというFTSの熱い思いがこの賞に込められている。
記念すべき第1回の受賞者は、coordimateの飯野健太郎、住友商事の伊藤直也、KAMAMESHIの小林俊の3人。いずれも大手企業の新規事業としてスタートし、VCや政府から資金を調達。サービスとしてローンチし、すでにマネタイズまで到達している事業もある。
協賛企業である東急不動産の執行役員、黒川泰宏(写真)は「とがったアイデアが排除されがちな企業内で、独自の新規事業を立ち上げ、チームを率い、成功を目指す。その挑戦心は、アントレプレナーシップそのもの」と今後の展開に期待を寄せている。
大企業のもつリソースを生かし、新たな挑戦に励むイントレプレナー。日本経済を変える大きな一手、その先駆けである彼らのストーリーを見ていこう。
服のアリナシが最速30秒で聞けるファッション相談アプリ
coordimate 代表取締役CEO 飯野健太郎多くの人が日常的に感じているファッションの悩みや疑問を解決に導いてくれるアプリ。それが22年7月に飯野がローンチした「coordimate」だ。スマホから自身の全身写真を投稿すると、ファッション好きの一般男女から“アリ・ナシ”のリアクションやアドバイスといったフィードバックを最短30 秒でもらえるという。
「僕は昔から服装がダサいと言われ続けていて(笑)、服を選ぶのが本当に苦手で、それを克服するためにファッションにも、スポーツのように練習する場所があればいいなという思いからこのアプリが生まれました」
「coordimate」は、24年4月にNTTドコモの新規事業共創プログラム「docomo STARTUP」における「STARTUPコース」適用第1号案件群としてスピンアウト。飯野は現在、自身で立ち上げたcoordimateへ、NTTドコモから出向し代表を務めている。
「失敗しても、継続して手を挙げられる制度と周囲の応援がイントレプレナー活性化につながると思います。会社側も失敗を恐れず、『どんどん会社を使い倒してくれ』とメッセージを出せば、多くの社員が新規事業に挑戦できるのではないでしょうか」
もみ殻を活用したバイオ燃料&バイオケミカル製造
住友商事 グリーンケミカル開発部 伊藤直也伊藤が取り組む「Rice Phoneプロジェクト」は、世界の農業を大きく変革する可能性を秘めている。目をつけたのは、米を生産する際に発生する農業廃棄物「もみ殻」。その量は日本国内で約200t、全世界では約1億tにのぼるという。
「もみ殻からシリカ(ケイ素)を抽出して、化粧品や半導体、タイヤの素材などに活用しようという施策が『Rice Phoneプロジェクト』です。米が主食の国に生まれた人間である以上、 向き合うべき課題だと考えています。スマホにもみ殻由来のシリカが使われたら面白いと考えて命名しました」
プロジェクトは、20年に住友商事の社内起業制度「0 → 1(ゼロワン)チャレンジ」に応募、採択されてスタートした。化粧品もタイヤ素材も自身のキャリアにまったく関連のない分野で、専門性を得るために一から勉強し直した。ただ、異業種間のネットワークをつなぐという総合商社の強みを生かせる場面は多く、共同事業をしているソニーグループを筆頭に、協力パートナーの発掘・関係構築は比較的スムーズに進んだという。
「住友商事に入社する際、さまざまな人と新しいことをグローバルレベルで実現したいと考えていました。今、その思いをあらためて感じながら日々仕事をしています」
製造業をつなぐ設備部品管理マッチングプラットフォーム事業
KAMAMESHI 代表取締役社長 小林 俊23年8月、小林は日本製鉄からの“出向起業”というかたちで、KAMAMESHIを創業した。社名には、製造業全体を 「同じ釜の飯を食う仲間にしていきたい」という思いが込められている。
手がけるのは、製造業をつなぐ設備部品管理・マッチングプラットフォーム事業だ。
「会員となる製造業の会社に3つの設備保全に向けたサービスを提供しています。①企業間で売買ができるECサイト、②設備予備品の社内在庫管理システム、③設備技術人材による保全コンサル。今後は会員企業によるコミュニティ形成も進めていくつもりです」
生産管理や営業担当として、製造業が抱える技術継承、設備老朽化、人材育成などの課題を感じていた小林。特に中小企業の困窮をなんとかしたいという思いから、地域や業界を越えて企業間を横につなぎ、支え合える仕組みを考えた。
「日本製鉄とKAMAMESHIは、いずれ大きなシナジーを創出できるのではないかと考えています。私たちは海外でのローンチも視野に入れています。世界中のモノづくりの仲間が協力しあい、世界中にあふれる製品アイデアやニーズの多様化に応えていくことができれば、日本の製造業に活気がよみがえるはずです」
FTS INTREPRENEURS AWARD 詳細はこちら
https://future-talent-studio.com/notices/view/8/
アドバイザリーボードプロフィール
有識者などを中心としたアンケート、ヒアリング調査および、3人のアドバイザリーボードの推薦によって受賞者が選出された。入山章栄
早稲田大学大学院経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所でコンサルティング業務に従事後、2008年米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)取得。13年より早稲田大学大学院早稲田大学ビジネススクール准教授。19年より教授。専門は経営学。
阿久津智紀
無人決済システムを展開するスタートアップTOUCH TO GO 代表取締役社長。2004年専修大学法学部卒業後、JR東日本へ入社。駅ナカコンビニNEWDAYSの店長や、青森でのシードル工房事業、ポイント統合事業の担当、「JR東日本スタートアップ」設立の担当などを経て、ベンチャー企業との連携など、新規事業の開発に携わる。19年7月より現職。
芦澤美智子
慶応義塾大学大学院経営管理研究科、慶應義塾大学ビジネス・スクール准教授。慶應義塾大学卒業後、監査法人(公認会計士)を経て、2003年MBA(慶應義塾大学)取得。産業再生機構等で企業変革に携わった後、13年Ph.D.(経営学)(慶應義塾大学)取得、横浜市立大学国際商学部准教授。23年9月より現職。専門はアントレプレナーシップ。
FUTURE TALENT STUDIO
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