ブルネロ クチネリ会長が語る「今必要な資本主義」
混沌とした時代だからこそ、ブルネロ・クチネリの数々の格言、
そして彼自身の思想や生き方を投影した服が大きな意味をもち始める。ブランド誕生以来、
一貫して説いてきた人類への愛は、確実に服を通じて人々に広がり、世界を変えていく力となる。
Direction by AKIRA SHIMADA(Forbes JAPAN)
Text by YASUHIRO TAKEISHI
Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版
混沌とした時代だからこそ、ブルネロ・クチネリの数々の格言、
そして彼自身の思想や生き方を投影した服が大きな意味をもち始める。ブランド誕生以来、
一貫して説いてきた人類への愛は、確実に服を通じて人々に広がり、世界を変えていく力となる。
Direction by AKIRA SHIMADA(Forbes JAPAN) Text by YASUHIRO TAKEISHI
世界各地で続く戦争や紛争、実生活にも影響を及ぼしている気候変動やインフレーションなどにより、混乱著しい世界情勢。では、そんな現代にあって、ファッション業界における存在感がより際立っているのがブルネロ クチネリである。独立企業としての体制を保ち、他と一線を画す人間性重視の企業姿勢とモノづくりがグローバルな成功を収めているのだ。そしてブルネロ・クチネリの語るヒューマニズムや愛の大切さが、業界の垣根を超えて今、大きな反響を呼んでいる。
「私たちの企業活動、あるいは私自身の人生における基本的な動機づけとなっているものは、すべて愛してやまないイタリアのルネサンスによって育まれたといえます。それは素晴らしい人文主義に基づいた、伝統的な芸術や卓越した文学、そして私たちが誇る“美しい国”をかたちづくった、尊敬に値する職人の創造性です。今も世界の人々を魅了する、イタリアの天才たちが生み出したそれらが示すのは、すべての仕事は倫理的な労働によって成され、あらゆるものの尊厳を尊重しながら、きちんとした製品が製造されるべきということ。そして、そのためには愛が不可欠ということです。それはいわば“サステナブルなヒューマニティ”であり、“人間主義的資本主義”と名付けた私の哲学なのです」
愛のよりどころたる家族の大切さ
中世イタリアで興ったルネサンスは、“神の啓示こそすべて”という当時支配的だった教えに疑問を呈し、人間が人間のために築いた古代ローマ・ギリシャ文明を手本に“人間を中心とした文化の復興”を目指した文化芸術運動である。そんなルネサンスに育まれた文化は、後のイタリア、ひいては欧米の文化に多大な影響を与えた。自社の職人だけではなく、すべてのサプライチェーンにおいて人間性の持続を最優先させ、職場環境や報酬面を整えることを推進するクチネリの経営理念、人間主義的資本主義も、まさにルネサンスの系譜に連なるのである。そしてそうした人間性の源泉が愛であり、その拠り所となるのが家族であると、クチネリは説く。
「家族は人生における大きなテーマであり、とても大切なもの。すべてはここから始まります。素晴らしい家族が有する気高い価値や愛すべき絆は、正真正銘の人間性のなかで日々育まれます。特にイタリアには家族を大切にする風土があり、私自身も農家で育った幼いころの記憶が、計り知れない愛情あふれる日々として脳裏に焼き付いています。家族全員が大きなテーブルを囲み、みんなで食事をする。父の傍らで兄弟やいとこと一緒に、畑を耕す。たとえ十分な収穫が得られなくとも、きっと太陽と雨、風が手を貸してくれるだろうという、自然への畏敬とともに、家族みんなで手を取り合いながら暮らした日々。こうした家族のなかで育まれた良き感情こそが愛であり、人間性の礎となるのです。そしてそんな人と人をつなぐ愛情を、家族だけではなく、私たちの会社のスタッフたち、さらには尊敬する協業者の方たちとも育んでいきたいのです」
人々が求める愛ある服の証し
世界中で進む核家族化やITの進化によるコミュニケーションの変容により、家族間をはじめとした人間関係の希薄化が懸念されている現在。そうした社会情勢にパンデミックや戦争が追い打ちをかけ、人心の荒廃やヒューマニズムへの無関心が懸念されている。その根本にあるのは、家族愛や人間愛、つまり愛の欠落ではないだろうか。そうした社会にあって、人間性重視の企業姿勢を貫くブルネロ クチネリの服が求められ、企業や教育機関がクチネリの言葉を聞きたがるのは、そこに本物の愛を感じるからではないだろうか。
「今、私たちがインスピレーションを得ているのは、新しいサステナブルなヒューマニズムであり、人間中心の資本主義です。それと同時に、人文主義の偉大なる師たちが、時を超えて私たちに与えてくれた助言、イタリア・ルネサンスが育んだ人間の尊厳を大切にする文化なのです。その代表が、ルネサンス期の人文学者ジョヴァンニ・ピコ・デッラ・ミランドラの著書『人間の尊厳について』です。同書はまさにルネサンスのマニフェストと言うにふさわしい、すべての学校で読み直すべき名著といえるでしょう。私たちも、世界の美をひととき守る守護者として、謙虚な人間が生み出す美しい文化のために、服を通して人間性や愛を伝えられれば幸いと改めて思っています」
“欲望の世紀”といわれた二十世紀が幕を閉じ、早くも20年以上が経過した現在。世界各国で経済格差が拡大を続け、強欲な資本主義の問題点が指摘されている。そんな現代社会で評価されるブルネロ クチネリの服、そしてその背景にあるヒューマニズムと博愛精神は、新時代の資本主義が向かうべき道を指し示しているといえそうだ。
家族愛を重視する国イタリア。ブルネロ・クチネリの基盤も拠点のソロメオでともに暮らす家族だ。写真右から、次女の夫でメンズクリエイティブディレクターのアレッシオ、孫娘のペネロペ、次女で共同社長で共同クリエイティブディレクターのカロリーナ、クチネリの膝に乗る孫娘のブランド、妻で財団を運営するフェデリカ、長女の夫でCEOのリッカルド、長女でウィメンズスタイル部の共同クリエイティブ・ヘッドのカミッラ、孫娘のヴィットリア。