ザ・リッツ・カールトン東京のグランドボールルームで行われたアワードセレモニーは、太鼓ユニット「ひむかし」によるオープニングアクトから始まった。
肚(はら)にまで響きわたり、体のなかから情熱の炎を燃え上がらせるような太鼓の波動によって場の空気は振動し、アントレプレナーの日本代表を決する舞台ならではの緊張感や期待感と相まってグランドボールルームは興奮で満たされていった──。
世界一のアントレプレナーを決する大会への関門
「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2023 ジャパン」は、日本一のアントレプレナーを決すると同時に世界戦への切符を付与する大会である。日本代表に選出されたアントレプレナーには、2024年6月にモナコで開催される「EY ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2024」に出場する権利が与えられる。
これらの大会は、起業家精神が旺盛な米国で1986年に創設されたのが始まりだ。過去の米国の受賞者には、Amazonのジェフ・ベゾスやGoogleのラリー・ペイジといった錚々たる面々が挙げられる。世界大会は、2001年から開催されてきた。
大会を運営しているEYは、アシュアランス、コンサルティング、法務、ストラテジー、税務およびトランザクションのサービスをグローバルで展開するプロフェッショナル・ファームである。すなわち、アントレプレナーの熱い想いに伴走することを日々の任務としながら、世界150カ国以上でクライアントの成長や変革を支援している。
「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2023 ジャパン」の選考委員には7人が名を連ねている。そのひとりである日本ベンチャー学会会長・東京大学大学院工学系研究科教授の各務茂夫は、「アントレプレナーにはパッションが必要です。日本のアントレプレナーが世界で勝つ視点として何が必要なのか。そこを考えながら審査してきました」と大会の冒頭で総評を述べた。
この日、日本代表の候補者として集まったのは、下記の10名のアントレプレナーだ。
「Regional Vitalization Leader部門」
[北海道地区代表]
シロ 代表取締役会長兼ファウンダー/ブランドプロデューサー
今井浩恵
[東北地区代表]
アイオー精密 代表取締役社長
鬼柳一宏
[甲信越地区代表]
ライト光機製作所 代表取締役社長
岩波雅富
[東海・北陸地区代表]
アイビス 代表取締役社長
神谷栄治
[関西地区代表]
eWeLL 代表取締役社長
中野剛人
[中国地区代表]
クニヒロ 代表取締役会長
川﨑育造
[九州地区代表]
ECOMMIT 代表取締役CEO
川野輝之
「Exceptional Growth部門」
ispace 代表取締役CEO & Founder
袴田武史
ビジョナル 代表取締役社長
南 壮一郎
「Master Entrepreneur of The Year部門」
モンベル 代表取締役会長 兼 CEO
辰野 勇
この大会を通じて受賞者たちが得たもの、感じたこととは
日本大会は、01年の世界大会発足に伴ってスタートした。「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2023 ジャパン」の会場には、アルムナイ(歴代受賞者)からも多くが参列。ディナー形式で行われたアワードセレモニーの最中には歓談の時間が設けられ、各テーブルにおいて、またはテーブルをまたいで、随所で濃密なネットワーキングが発生していた。こうして、まさに日本を代表するアントレプレナーたちによるコミュニティが形成されていくことにより、日本大会は単に祭典であることを超えて、新たな人脈や知脈、価値創出の起点にもなっている。
歓談の後、「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2023 ジャパン」は各部門大賞および日本代表の発表時間を迎えた。まずは、 上記7名が表彰された「Regional Vitalization Leader部門」の大賞にシロの今井浩恵が選ばれた。受賞後の取材で、今井は次のように喜びと決意を語っている。
「私たちは、創業の地・北海道砂川市でものづくりをしています。素材の良さを最大限に引き出し、余計なものを加えない。究極の引き算から生まれているのがSHIROというコスメティックブランドです。これまでに必死でものづくりに集中してきました。23年4月から稼働している新工場『みんなの工場』には『研究開発室』『素材処理室』『調合室』『充填室』『包装室』などがあり、お客様が製造工程をどこからでも見ることができます。約半年で20万人ものお客様に訪れていただきました。札幌市から80kmほど離れた道央地方の小さな市に人を呼び込むことができていること──。これは10年前の私たちにはできなかったことなので、大変に嬉しく思っています。これからも、ものづくりの素晴らしさを伝えていきます」
次に、 2名が表彰された「Exceptional Growth部門」の大賞としてビジョナル 南 壮一郎の名前が呼ばれた。
さらには、選考委員の強い希望により、当初は予定になかった選考委員特別賞が急遽設けられ、ispaceの袴田武史が受賞。彼は特別賞を得られた驚きと共に、今回の「EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2023 ジャパン」のジャーニーを振り返って感想を明かしてくれた。
「このたびは、特別賞というものを頂戴できて大変に光栄です。民間企業では初となる月面着陸を目指すispaceの事業の世界に与えた大きなインパクト、さらには、計画通り月面着陸できなかったもののMission1で達成したことを前向きな力に変え、次の挑戦に挑むその姿勢を、評価していただけたのだと思います。引き続き、世界に対してインパクトのあるチャレンジをし続け、よりよい未来社会を提示できるように挑み続けます」
そして、日本代表として発表されたのは、「Exceptional Growth部門」の大賞とのダブル受賞となるビジョナルの南 壮一郎だった。
CVCキャピタルパートナーズ日本法人 最高顧問・日本オラクル 取締役会長であり、選考委員長の藤森義明は、南の日本代表選出に際して次の総評を述べている。
「日本代表を決めるのは大変に難しいことです。皆さんにアントレプレナーとしての素晴らしいストーリーと情熱があります。また、皆さんによる実績は、社会に対するインパクトやビジネスモデルの斬新さにおいて甲乙つけ難いものです。日本の課題は、世界の課題と共通しています。大事なのは、労働力の流動性ではないでしょうか。それを今までとは違ったイノベーティブな手法で効率的にして、個人にとって生涯価値が上がり、また社会にとって活力が一段と増すようなビジネスモデルをつくったのが南さんです。このモデルは世界に通用すると私たちは信じています。南さんには、これまでに培ってきたアントレプレナー精神があり、その実行力と自分自身を語る力もあります──。世界一になる資質をもっていると選考委員は判断しました。世界大会に挑戦し、そこに集まったアントレプレナーからも学び、世界の舞台で大きく飛躍されることを期待しています」
大会終了直後の南を直撃すると、世界大会に向けた決意も含めて、次のような言葉を力強く語ってくれた。
「インターネット業界、人材業界ともに経験がないなか、09年に仲間とマンションの一室で始めたのがビズリーチです。『社会の課題を解決し、大きな変革を起こす。そして、時代のムーブメントを創り出す』という思いで事業を続けるなかで、多くの方々に支えていただき、ここまで辿り着くことができました。働き方のデータをきっちりと集めて、定量的に仕事の要件定義を定めることにより、一社一社の生産性が向上する。そのプロセスのなかで一人ひとりが正しく評価され、隠れた才能を見出し、生き生きと活躍できる。そんな働き方を今後も推進していきたいと考えています。今回の選考のプロセスでは選考委員との対話のなかで、『世界を相手に私たちが今の事業を拡げていくとしたなら、どうすればいいのか』という視点に、私のアントレプレナー人生ではじめて立って考えることができました。私は『事業とは問うことである』と言い続けています。今回の『EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2023 ジャパン』では、素晴らしい問いを自分自身に投げかけることができました。24年の世界大会では誰よりも楽しみ、日本には成長の伸びしろしかないことを証明していきたいと思います」
南が出場する「EY ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2024」の結果と、その場で南がつかんだものについては、また6月の大会終了後に報告したい。
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