Forbes BrandVoice!! とは BrandVoiceは、企業や団体のコンテンツマーケティングを行うForbes JAPANの企画広告です。

2023.11.30 16:00

アーティストが世界とつながる幸せな場所「KAGANHOTEL」――京都で文化の種を育むカルチャープレナーの挑戦

アーティストの職住一体の共同住居兼ホテルという概念では収まりきらない幸福な場所、「KAGANHOTEL(河岸ホテル・以下、KAGANHOTEL)」を経営する扇沢友樹と日下部淑世。

二人は、京都市が主催する「カルチャープレナーアワード 2023」で京都市特別賞を受賞した。カルチャープレナー(文化起業家)としての二人の軌跡に迫る。


京都府京都市の下京区にある「KAGANHOTEL」は、2019年11月に開業。青果卸売会社の倉庫兼社員寮をフルリノベーションしたという瀟洒(しょうしゃ)な空間は、若手の現代アーティストやクリエーターたちの職住一体の共同住居(滞在型共同ファクトリー)となっている。

アーティストのためにスタジオやギャラリーを用意するのと同時に客室も構え、コミュニティ型アートホテル&アートホステルとして世界各国からのゲストも迎え入れている。

「一般の宿泊ゲストから長期滞在の作家まで多様なバックグラウンドの滞在者が交差することにより、新たな文化の因子が生まれるのではないかと考えています」

アートを通して文化の交流・胎動・創出・進展・発信が生まれる場所

運営しているのは、扇沢友樹と日下部淑世が2011年4月に京都を拠点に創業した「株式会社めい」だ。日下部が、この施設ならではの概念や可能性を紹介してくれた。

「3階のアーティストレジデンスが作家たちの居住スペースです。1階が飲食店、ギャラリー、イベント会場などとして機能します。アーティストはホテルや飲食店で短期スタッフとして働き、生活費を得ながら、国内外から集まるアートファンやコレクターだけではない、オールラウンドなゲストとコミュニケーションすることが可能です」

そこで働き、制作し、暮らし、世界とつながる。アーティストは「KAGANHOTEL」というひとつの場所で、さまざまな滞在者と交差しながら有機的に活動できるのだという。

2階は団体で泊まれるドミトリー、4階のホステルは低価格ながら個室利用で宿泊できる。5階のホテルにおいては、ホテルにストックされているアーティストの作品の中からゲスト自らが気に入ったものを選んで客室に飾るという、特別な滞在体験が演出される。

すなわち、この場所に滞在する誰もが、時間的・空間的にかつてないエクスペリエンスを得ることができるのだ。そして、文化の交流・胎動・創出・進展・発信など、文化という枕詞に続くあらゆるポジティブワードが渦巻く場所になっている。

言い換えるなら、「KAGANHOTEL」は「生きる力のエコシステム」になっている。

日下部淑世 めい 共同代表 

アーティストだった母の死を乗り越えて

このような場所を、どうして生み出せたのか。その種は、日下部が幼かったころに生まれている。彼女は、10歳のころからウェルネスについて考え続けていたという。

「私が小学4年生のときに、アーティストだった母が自死を選んだのです。以降、『アーティストの幸福』というものについて考え続けてきました。これはアーティストに限ったことではないのですが、『自分のやりたいことがカタチにできていること』と『そのカタチを認めてもらえる環境があること』が大事ではないかと私は考えています。『低家賃で、アトリエが付いていて、なおかつ自分の作品を観てもらえる機会がある。そういうアパートを創りたい』という想いが京都で暮らし始めた大学1年のころには強く生まれていて、京都市主催のコンペなどに積極的に参加していました」

そうした日下部の活動をSNSで知った扇沢は、彼女に対して「脳領域の使い方が普通の大学生とは違う」と感じ、興味を抱いたという。

扇沢は、幼いころから新聞のチラシなどに描かれた家の間取りを飽きずに眺めている少年だった。京都で生まれ、京都の大学に通い始めた1年時には「宅地建物取引主任者」の資格を取得。人口減少社会の不動産のあり方に興味をもち、将来はその環境で活躍できる人材になりたいという想いを抱くようになっていた。

「最低限のコストで『生きる実験ができるような場所』を創りたいね。二人でそう考えて大学卒業と同時にめいを創業し、職住一体型のシェアハウスを手がけるようになりました。京都には町家の文化がありますよね。上の階で暮らし、下の階で商売するという職住一体型の建物文化・生活文化には、特に馴染みが深い土地柄だと考えていました。最初は町屋を舞台にした職住一体型シェアハウス事業からスタートしています」

日下部が幼いころから抱き続けてきた種が、扇沢が抱いてきた種とひとつになり、京都という豊饒な土壌に植え付けられたとき、「KAGANHOTEL」という大樹が育ち始めることにつながったのだ。

日下部は言う。

「母は抽象画を描いていました。自分が創ったものを『好き』と言ってくれる人がいて、はじめて満たされる。アーティストとして生きた母は、そうだったのではないかと思います。絵を描いている彼女自身が認められる環境が必要だったのです。『KAGANHOTEL』では、そういう環境を創りたいと考えています。絵を描くことができて、それを観てもらうことができて、一人でも良いので自分の想いが伝わる相手と出会えるーー。これこそが、アーティストとして生きる幸せのひとつのあり方ではないかと思うのです」

扇沢が続ける。

「そのようにして日下部が幼いころから自分の経験を通して魂と脳みそを使って創り続けてきた概念を、私は法律的に、フィジカル的に、ファイナンス的にカタチにしていきました。根っこのところでは、自分も日下部のお母さんに動かされてきた感覚があります。不動産には、その不動産にしか果たせない役割があり、人間と同じように固有のアイデンティティがある。私は、そのように考えています。人間のアイデンティティと不動産のアイデンティティがぴったりと合致したとき、そこに幸せな個人や共同体が生まれるのです」

扇沢友樹 めい 共同代表 

アーティスト、ゲスト、カルチャープレナーのすべてが幸せに

現在の「KAGANHOTEL」には昼夜を問わず、自分の作品について、自分たちの未来について語り合えるアーティストの仲間がいる。そのような毎日のなかで生み出した作品を観て、直に「いいね!」と言ってくれるゲストが世界中から集まっている。

そもそも、アートをコレクトする意味や意義とは何だろうか。伸びゆく才能を先物買いしたことによる金銭的な報酬のみが、そうなのだろうか。真の報酬とは、アーティストが活躍し続けられている、豊かな未来のなかで私たちが暮らしていることではないだろうか。「KAGANHOTEL」に集まるアートファンの幸せは、そこにあるようだ。

現在では、日下部と扇沢が創り出した「KAGANHOTEL」に対し、アーティストもアートファンも「いいね!」と言ってくれる環境が生まれている。これは、日下部と扇沢にとっても、最上級の幸せだ。

今、「KAGANHOTEL」には、幸せが溢れかえっている。幸せこそが、文化を生み出し、進展させる原動力となる。

さらに、日下部と扇沢は、アートをフックにした「現代文化住宅」という次なるプロジェクトに向けても動いている。

既存の住宅にアートをかける白壁を生み出すプロジェクトにより、アートがある生活を楽しむコミュニティの創出を目指しているという。これから先は、「KAGANHOTEL」と「現代文化住宅」による意義あるシナジー(=相乗効果)も生まれていくのだろう。「現代文化住宅」は、アートを飾ることのできる白い壁が生活の豊かさを象徴する。移住者にとっても魅力的な家が生まれようとしている。カルチャープレナー(文化起業家)たる二人の物語は、歴史と文化を抱擁する京都の町を味方にして、これからも続いていく。

京都市が進める“文化を基軸としたまちづくり”の現在地

京都市は今回主催した「カルチャープレナーアワード 2023」のようなカルチャープレナーの支援のほか、オール京都の体制で「文化を基軸にしたまちづくり」を進めている。

その現在地について、京都市の担当者に聞いた。

京都市では、京都駅周辺を東部・東南部・西部の3つのエリアに分け、将来構想を策定し、文化芸術と若者を基軸としたまちづくりに取り組んでいます。

そうした中で、この春、文化庁の京都移転が実現しました。

さらに、時期を同じくして、京都市立芸術大学や市立美術工芸高校が東部エリアに移転・開校。新キャンパス内には、大学や研究機関、事業者等が分野を超えた連携や交流を行うスペースが設置され、隣接地でも、「集い・暮らし・挑戦し・創る」を軸に、社会課題解決・産業創出・コミュニティ形成・人材輩出を促進するイノベーションハブ拠点「共創HUB京都」を民間の力により整備する予定です。

また、隣接する東南部エリアでは、未活用の市有地に「チームラボミュージアム京都(仮称)」や体験型アートセンター「Superblue Kyoto」を含む複合文化施設を誘致するなど、今後、京都駅周辺エリアが「文化芸術都市・京都」の新たなシンボルゾーンへと進化します。

そして、扇沢さんや日下部さんが活動され、「KAGAN HOTLE」がある西部エリア。京都市中央卸売市場等が立地し、オープンで自由な雰囲気を有するこのエリアでは、近年、「アート・食・ものづくり」をコンセプトとして、若く意欲のある創業者やクリエイター、アーティストが拠点を構え、コミュニティを形成し始めています。

お二人はまさにその起点であり、クリエイティブなまちづくりにポジティブなインパクトをもたらしてくれています。

こうした各エリアの取組により、文化が経済的価値を生み出し、経済が文化を支えることで、文化への理解が深まり、広がると同時に経済が活性化する。そうした京都ならではの「文化と経済の好循環」をこの京都駅周辺エリアで生み出し、その効果を京都から日本、そして世界へ発信していけるよう取り組んでいきます。
 
京都ならではの文化と経済の融合による好循環の創出


くさかべ・としよ◎1987年、兵庫県生まれ。2011年、同志社大学経済学部卒。大学では「アーティストの幸せとは何か」をテーマに、さまざまな形態のアーティストにインタビューしながら、コンテンツ産業を専攻し、産業が成立する業界構造について学んできた。卒業のタイミングでめいを設立。人口減少社会における不動産と同世代の働き方に関連した職住一体型共同住居の企画運営を行う。19年11月、「KAGANHOTEL」をオープン。

おおぎさわ・ともき◎1988年、京都府生まれ。2011年、京都産業大学法学部卒。人口減少社会の不動産のあり方に興味をもち、大学時に宅地建物取引主任者の資格を取得。大学で不動産と企業のファイナンスを学び、大学卒業と同時に日下部淑世とめいを創業。コンセプトやマーケティングを軸に場所の物語を構想する不動産脚本家を自称し、21世紀型の不動産や街の価値づくりに邁進している。

Promoted by 京都市 / text by Kiyoto Kuniryo / photographs by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro