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2023.11.29

努力すれば報われる世界を作りたい 社会課題を解く、スタートアップの抱く使命Vol.3

日米市場を中心にB2Bスタートアップへの投資を行っているベンチャーキャピタルファンドDNX Venturesが、日本の産業変革に挑む起業家にフォーカス。「社会課題を解く、スタートアップの抱く使命」と題し、連載していく。

第三弾は、セールスイネーブルメントに挑戦するナレッジワークの代表取締役CEO 麻野耕司をゲストに迎えた。彼が立ち向かうのは人類が数千年前から刷り込まれてきた「働くことは辛いこと」という通念から人々を解放すること。努力すれば成長し成果が出る世界を作りたい、と意気込む。聞き手は「日本の産業が抱える課題解決に高い志をもつ起業家を応援したい」とシードステージから同社とともに歩んできたベンチャーキャピタリスト、DNX Venturesのマネージングパートナー兼日本代表の倉林陽が務めた。

働く人の努力が報われる世界を目指す、イネーブルメントの実現

倉林陽(以下、倉林):麻野さんは前職のリンクアンドモチベーション時代から一貫して、「労働は苦役なり」という考えから人類を解放することに挑戦しています。まさにここが麻野さんにとっての使命ですね。

麻野耕司(以下、麻野):はい、ぼくが立ち向かっているのは「労働は苦役なり」。人類には数千年前からずっと「働くことは辛いことだ」という考えがあったわけです。これに対してぼくが取り組んでいるテーマが「イネーブルメント」です。日本語に直訳すると「できるようになる」。今日進められない仕事を明日うまく進められるようになる、という意味です。

職場や上司、会社の仕組みに恵まれず、結果として「努力しても報われない」という環境で働いている人が多いように思います。

ぼくがここ数年で一番影響を受けた本が、マイケル・サンデルの『実力も運のうち』。「多くの成功者の成功は、努力や才能によるものではなく、ほとんどが環境によるものだ」と述べられています。努力は報われないのか、と衝撃を受けました。本当に努力が報われないのなら、それを変えたい。イネーブルメントを通じて、努力すれば成長でき、成果が出て報われる世界を作りたいと思っています。

目指す世界は「ゲームのように仕事を遊び、そこから学ぶ」

麻野:「労働は苦役なり」の反対に何を置いているかというと、「ゲームのように仕事を遊び、そこから学ぶ」という世界を置いています。

ナレッジワーク 代表取締役CEO 麻野耕司

ホワイトボードにいくつかの図式を記し説明する麻野耕司(ナレッジワーク 代表取締役CEO )

麻野:ぼくは方程式を解くように捉え、イネーブルメントを次のように因数分解してみました。

「イネーブルメント」を方程式で解く

「イネーブルメント」を方程式で解く

イネーブルメントは一つの成果であり能力の向上。「やるべきことの明確化(MUST)」と「できることの最大化(CAN)」、そして「やりたいの最大化(WILL)」が揃うと、成果や能力が高まるはずだと整理しました。

これを四象限で整理をしていくと、以下のように整理できます。

・業務(成果)× やるべきことの明確化 =ワーク領域(業務プロセスの最適化)
・業務(成果)× できることの最大化=ナレッジ領域(知識やノウハウの共有)
・人材(能力)× やるべきことの明確化 =ピープル領域(スキルの可視化)
・人材(能力)× できることの最大化 =ラーニング領域(学習プログラムの提供)

麻野がまとめている四象限のロジックにはまだ、「WILL」が含まれていない。 全てが繋がり、仕事がゲームのように楽しめる世界になった先に、「WILL」も入れていけると考える。

麻野がまとめている四象限のロジックにはまだ、「WILL」が含まれていない。 全てが繋がり、仕事がゲームのように楽しめる世界になった先に、「WILL」も入れていけると考える。

実はぼくはゲームが大好きで、フォートナイトで夜な夜な世界中の人と戦っているんです。実世界では戦場に行きたい人なんていないのに、ゲームには人が集まり課金までする人がいる。

そこで、人々がフォートナイトをプレイすることと同じように、働くことはできないのかと。そこで、働くことをゲームと同じ枠組みで考えてみたんです。すると、ゲームの構造は仕事にも応用できそうであることがわかってきました。

・ワーク領域=ゲームでいう「地図」:次にどこへいけばいいかわかる。
・ナレッジ領域=ゲームでいう「武器」:場面に応じて使い分ける。
・ラーニング領域=ゲームでいう「練習」:武器も使いこなせないと使えない。
・ピープル領域=ゲームでいう「数字(スタッズ)」:なにができるか能力が可視化される。

一緒ですよね。イネーブルメントを実現するには、ゲームのように複数領域でプレイヤーをサポートしていけばいい。

ゲーミフィケーションを成立させるためには、さらに表層と深層、二つのレイヤーで重要なことがあります。表層の領域において重要になるのは「UIデザイン」です。ゲームの場合は十字キーとボタンだけで全てのことが進みますが、仕事、特にB2Bの仕事においては文字入力が大半を占めます。そのためナレッジワークでは、クリックとカーソルだけで全ての仕事が完結できるよう、UIデザインにこだわっています。

一方深層の世界で重要な役割を果たしているのが「メカニズム」です。ゲーミフィケーションの構成要素を見ていくと、ほとんどのゲームに「ボーナス>ステージ>ゲームクリア」という要素が埋め込まれています。

対価と達成感が得られる仕組みです。これを仕事に持ち込むならば、「ナレッジを活かしたら成果が上がった」、「ピープルで自分の能力を正しく把握し、ワークに従って進めたら仕事が前に進んだ」そんなサイクルです。ぼくはこのゲーミフィケーションを回していくことで、働く人のMUSTとCAN、WILL全てを高めていきたいと考えています。


イネーブルメントの第一歩は、セールス職のナレッジ領域

麻野:「労働は苦役なり」を、イネーブルメントを支援するソフトウェアで変えていく、これがぼくの掲げている一番大きなストーリーです。ただし、あらゆる職種で使える汎用的なソフトウェアで勝負しようと思うと、マイクロソフトやグーグルに勝てません。

そのため、職種別のソフトウェアを開発していくアプローチをとっています。労働人口が多く、課題の大きいセールスイネーブルメントから始めています。なかでも今は「ナレッジ領域」しかできていませんが、これが今のナレッジワークの現在地。時間をかけてそれ以外の領域、そして職種にも広げていきたいと考えています。


顧客が満足するプロダクトを開発すれば勝つ、わかっていても不安

倉林:ナレッジワークは初期から大きく調達しましたが、むやみに最初から売上を追わずに、集めたお金をしっかりと開発に投資し、PMFを確認できた後、顧客獲得を加速するという、いわばアメリカのスタートアップのような戦い方をしてきました。売上ゼロの状態で頑張り続けるのは、勇気が要ったと思います。

麻野:勝ち切るためには、人がやっていないことをやらないといけない。それは、「長期視点に立つこと」だと考えました。世の中のほとんどのビジネスリーダーたちは短期視点で物事を動かします。特にスタートアップは自転車操業の会社も多く、目の前の売上に目を向け短期視点になりがちです。そんななかで、長期視点で差別化を図ろうというのが基本的な方針でした。

SaaSのビジネスについては、マーケットさえあれば、ユーザーを満足させるプロダクトを開発すれば最終的に勝ちます。ところがぼくは、前職でSaaSのプロダクトを立ち上げた際には、これをやりきれなかったんです。初期の少ないリソースの中で、製品の開発と売上向上の両方をやろうとすると、どちらかがおざなりになる。

そこで今回は、顧客を満足させるため、プロダクトに完全に集中しようと2年間ステルスで開発するという選択をしました。

Salesforceの「SaaS スタートアップ創業者向けガイド」に書いてあった通り、創業からぴったり24ヶ月かかってのリリースでした。

SaaSは2回目の挑戦ですし、12ヶ月でやってやる!と意気込んでいたのですが(笑)。あらためて、PMFの状態でグロースに入ることが重要ですね。

倉林:売上がない時の心境というのは?

麻野:昔DeNAの南場さんが「リーダーというのは、最初に川に足を踏み入れて向こう岸まで先導する仕事。急流や岩底があって苦しい時もあるけれど、後ろからついてくるメンバーに大丈夫だと背中を見せて歩いていく」というお話をされていたのが、とても印象深く記憶に残っています。その話を受けてぼくも、リーダーとして不安な表情を見せないという意識がありました。

自分でも気づかなかったのですが、先日、創業当時に利用していたDNXのインキュベーションオフィスSPROUNDに行ったら、あの頃苦しかったんだと気づきました。

PMFが最も大事で、そのために顧客満足や利用頻度、継続利用が重要であり、初期は売上は二の次であることを頭では理解していましたが、それでも本当に売上が上がるのか怖かったのだと思います。当時は不安な気持ちを噛み殺していたんでしょうね。

倉林:SPROUNDでよく顔も合わせていましたが、そんなに不安に思っていることは、ぼくらには全然見えていなかったですね。

麻野:社員もまったく気づいていなかったでしょうし、つい最近までぼくも気づいていませんでしたから(笑)。久々にSPROUNDに足を運んだ際に、当時は胸の内に不安や苦しさを押し込めていたことに初めて気づきました。

当時の自身の感情に気づき、麻野本人も驚きのようすを見せた

当時の自身の感情に気づき、麻野本人も驚きのようすを見せた

一にプロダクト、二にターゲット、最も重要な三つ目は「組織」

倉林:ステルス期間中に次々にPoCの有償化を加速させ、プロダクトリリースと同時にシリーズA実施。さらにT2D3を超える成長を続け、今回のシリーズBを迎えました。この成長の秘訣はどこにあったと振り返っていますか。

麻野:一つは「プロダクト」ですね。顧客が満足してくれて、デモを見せた時に「こういうものが欲しかったんです!」と言ってもらえるプロダクト力です。

二つ目は、「ターゲット」。大手企業・エンタープライズにフォーカスしたのは、いい判断だったと思います。一方、これらのプロダクトやターゲットなどの方針は誰でも決められます。

だからこそ三つ目、これを実現できる「組織を作れたこと」、これが一番大きかったと思います。起業して良かったのは、日本中の素晴らしい人材に会いにいくことができて、チームに迎えられたこと。ここまでの成長において、この組織が作れたのは大きかったですね。

ぼくは前職で組織コンサルタントをしていたので、偉そうに「素晴らしい戦略があったとしても、それを動かしていくのはそこにある組織であり人である」と言っていましたが、本当にそのとおりでした(笑)。

DNX Ventures マネージングパートナー兼日本代表 倉林 陽

DNX Ventures マネージングパートナー兼日本代表 倉林 陽

タレントが勢揃い。桁外れな採用力の秘訣は深い人生への共感

倉林:組織づくりは麻野さんの専門領域で、負けられないところですよね。あれだけのタレントを採れるナレッジワークの採用力は本当に凄いものがあります。これだけの人材を短期間で集められた理由をお聞かせください。

麻野:ぼくたちみたいな実績のないスタートアップにジョインしてくれるのは、大抵その人の人生と会社の未来が重なった時です。

ひとつめに大事なのは会社の未来で、ビジョンがあることは大事。

ナレッジワークでいうと、「労働は苦役なり」からはじまって「ゲームのように仕事を遊ぶ」という、先ほどお話しした一連のストーリーです。

創業の時にはありませんでしたが、候補者の方により上手く伝えるためにビジョンを磨いてきて、このようなストーリーを語れるようになりました。

一方で、単に会社の未来やビジョンだけがあってもそこに共感は生まれません。そこに候補者自身の人生が重なることが大事。

だから、ベタですがぼくが大事にしているのは、ひとりひとりと向き合いその人の人生やキャリアがどうあるべきかを考えることです。その先にナレッジワークが見えたら自然と入社を決めてくださる。会社の中に人を入れるのではなく、人の中に会社を入れる。そんな感覚でひとりひとりを知り、向き合っています。

例えば、信頼している倉林さんにエンタープライズセールスをご紹介いただいたときも、お墨付きがあるからといって採用プロセスを端折るのではなく、時間をかけて行いました。

彼を知るうち、彼がこれからの人生でもっと挑戦したいという想いがわかってきました。その人生に共感し、「その想いを実現するためにナレッジワークをやりましょうよ」とお誘いしました。この語らいが大事だと思っています。

「ガバナンスを敷く」。ナレッジワークの投資家を選ぶ基準

麻野:素晴らしい方を何人もご紹介いただくなど、倉林さんやDNXさんにはさまざまなかたちでご支援いただいていますが、もともとは「ガバナンスが効いた会社にしたい」という想いで出資をお願いしました。

人間は環境によって左右されると思うんです。甘い環境に身をおいて堕落していく経営者もいます。だからぼくは、究極的には、リーダーとしてふさわしくないと思ったらぼくをクビにするくらいの迫力がある、しっかりとした経験と実績のあるVCに取締役会のメンバーになっていただきました。

好きにやらせてくれるVCもいるかもしれませんが、企業価値向上のために真剣に議論ができる、そんな厳しい環境に身を置いた方が自分も会社も成長できると考えました。しっかりとしたガバナンス体制を敷きたかったんです。

倉林:おっしゃる通りですね。私はキャリアを通じて日本のスタートアップエコシステムのガバナンス向上に貢献したいと思っています。

テクノロジー業界における企業価値でここまで日米の差がついた理由は、TAMだけでなくガバナンスの成熟度の違いにあるという思いが、研究すればするほど強くなっています。

スタートアップだけでなく、大企業も含め、米国と比べると日本は経営者の置かれている環境が緩いんです。麻野さんがナレッジワークを創業する際に、取締役会の過半数を社外の人にする、取締役会の決議事項を多くするなど、米国に近い取り組みをしてこられたことは賞賛に値すると思います。

麻野:結果として本当によかったですね。ぼくは取締役会運営はとても重要だと思っています。取締役会で語られたことは、全社メンバーに全て共有していますし、メンバーも興味津々。指摘された点をもう一段深く考えてみると気づくことがあって、取締役会での議論が企業価値向上にかなり貢献しているという実感があります。

倉林:麻野さんは、取締役会で指摘されたことを全てリスト化し、翌月には必ず回答を用意している。徹底的にやってくださるので、私たちも手応えを感じます。なかなかここまでできる経営者はいませんよ。

麻野:一般的に「社外の人が会社の内情も知らずにパフォーマンスできるわけがない」と言われることもあるように思いますが、天才打者であるイチローにもコーチが必要です。何故ならば自分のスイングは誰かに見てもらわないとわからないですからね。社外から客観的な視点で意見を言ってくれる社外取締役の存在は非常に重要だと考えています。


目指すはエジソン!?「コンパウンド戦略」で目指す先

倉林:最後に、今回シリーズBの調達、本当におめでとうございます。素晴らしいファイナンスでした。これだけの資金をつかってどのような世界をつくっていくのかお聞かせください。

麻野:調達金額の大部分をプロダクト開発に投下し、3年間で10個のプロダクトを立ち上げる計画です。ぼくが尊敬するのはエジソンで、彼は約80年の生涯で1300個ものプロダクトを開発したんですね。100年以上経った今も白熱電球がぼくたちを照らしているって凄いことですよね。そんなふうに、ぼくたちはセールスを軸に複数のプロダクトをつくる「コンパウンド戦略」を取ろうと考えています。
今のナレッジワークは、まだセールス「ナレッジ」の会社です。本当の意味でセールス「イネーブルメント」までやる。そしてその先、セールス以外のあらゆる職種の人のイネーブルメントに貢献したいですね。




DNX Ventures
https://www.dnx.vc/jpfund/top


麻野耕司(あさの・こうじ)◎株式会社ナレッジワーク 代表取締役 CEO。2003年慶應義塾大学法学部卒業。同年株式会社リンクアンドモチベーション入社。2010年中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に着任。2016年国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」を立ち上げ、2018年同社取締役に着任。2020年株式会社ナレッジワーク創業。2022年 「みんなが売れる営業になる」をコンセプトに、セールスイネーブルメントクラウド「ナレッジワーク」をリリース。著書に『NEW SALES 新時代の営業に必要な7つの原則』(ダイヤモンド社)などがある。

倉林陽(くらばやし・あきら)◎DNX Ventures マネージングパートナー兼日本代表。富士通、三井物産にて日米のITテクノロジー分野でのベンチャー投資、事業開発を担当。MBA留学後Globespan Capital Partners、Salesforce Venturesで日本代表を歴任。2015年DNX Venturesに参画。同志社大学総合政策科学研究科博士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営大学院修了(MBA)

Promoted by DNX Ventures / text by Natsumi Ueno / photographs by Toru Hiraiwa / edit by Akira Kurabayashi