そう語るのは、シリコンバレーで3社のCEOを歴任し、そのすべてで上場を実現させた凄腕経営者、フランク・スルートマンだ。
そんな彼が、著書『最高を超える』のなかで、ビジネスの現場に立ち続けることで培ってきた超実践的な経営手法を公開して話題を呼んでいる。本記事では、そのエッセンスをお伝えしよう。
ミッションは無難であってはいけない
まず、組織を継続的な成功・成長させるためには、「壮大」かつ「明確」で「非金銭的(非数値的)」なミッションが不可欠だとスルートマンは言う。
たとえば、彼が現在CEOを務めているスノーフレイク社のミッションは「コンピュータ史上ナンバーワンのデータ&アプリケーション基盤を構築し、世界のデータをモビライズすること」。
目指すべきゴールが「明確」なうえに、達成にあたっては、データ業界のあらゆる競合他社の取り組みを、規模の面でも幅広さの面でも凌駕する必要がある、「壮大」な目標だ。
いわく、こうしてミッションが「明確」であるからこそ、進むべき方向を見失うことなく、ゴールから逆算して最短の道を進むことができるという。日々さまざまな決断を迫られるCEOにとって、ミッションはフィルターの役割を果たしてくれるのだ。
そしてミッションが「壮大」であるからこそ、みなが一丸となって大きなことを成し遂げようとする時の目に見えないエネルギーが湧いてきて、組織のパフォーマンスが劇的にアップする。
逆にいえば、ミッションはけっして無難で達成しやすそうな目標であってはならない。たとえば「2年間で30%の顧客増を目指す」など、現状からの差分にすぎない数値目標を掲げるマネジャーをよく見かけるが、こうした漸進主義は組織から活力を奪う。
現状から少しずつ進もうとするのではなく、将来の理想を思い描き、そこにたどり着くために何をする必要があるのかを考える。未来のビジョンに導かれることで、余計な目移りが無くなってムダが省けるうえに、自然とモチベーションがあがって驚くほどの力が湧いてくるだろう。
戦略よりも実行力を重視せよ
世のなかには、とかく戦略について語りたがるリーダーが多い。だが、いくら立派な戦略をたてても実行力がなければ失敗に終わる。逆に実行力に優れていればまずまずの戦略でも成功を引き寄せることができる。
よって、コンサルタントを雇う必要はない、とスルートマンは断言する。戦略は自社で練ったほうがいいし、戦略の立案だけを担う役職(要は社内コンサルタント)もいらない。戦略を実行から切り離すことはせず、実務部署のトップに戦略立案も担当させ、「地図を描く人と運転する人は同じにする」のが肝要だ。
カスタマーサクセス(顧客体験の向上)についても、それを専門に扱う独立の部署をつくるのではなく、あくまで全社で取り組むほうがいい。
実際、スルートマンもこれまでCEOを務めた3社のうちの2社で、カスタマーサービス部を廃止している。顧客の不満を根本的に解決する最善の方法は、責任の所在を明確化したうえで、各部署が「いかにプロダクトやサービスで顧客に貢献できるか」という課題に真剣に向き合うことだ。
情報を中継ぎするだけのお役所的な部署は組織の動きを鈍らせる。組織構造はできるだけシンプルにしておこう。これは、縦割りの社内派閥を無くし、横のコミュニケーションを促進することにもつながる。
有言実行で信頼を築く
組織をチームとして1つにまとめるにあたって、基礎となるのが「信頼」だ。信頼がなければ、社員は疑心暗鬼になり、自分が生き延びることだけに汲々とするようになる。では、ミッションを一丸となって追求するため、組織に信頼を根付かせ、健全なカルチャーをつくりあげるには、具体的にどうすればいいのだろうか?
まずはなによりも、言葉と行動を一致させ、リーダー自身が信頼を勝ち取ることだ。
とくに新しく就任したリーダーに対しては、部下たちは疑念の目を向け、その一挙手一投足を観察している。些細なごまかしも敏感に察知され、それが続けばやがて「あの人の言うことは信用できない」という評価を下されてしまう。リーダーは有言実行を旨とすべきだ。
事実、スルートマンは、スノーフレイク社CEO就任後、初の四半期ミーティングで、きちんと焦点を絞ってやるべきことをやれば、ここから1年ほどで会社の価値は10倍になるだろうと宣言し、期限内にそれを上回る数字で上場を実現させている。
当たり前だが、言葉を行動で裏づけ、結果を出せば、信頼は必ずついてくる。とはいえ人は完璧ではないので、万が一、約束が守れない事態が生じたら、まずは素直に誤りを認めよう。その際、今後の改善策をあわせて提示するのを忘れないように。
また、一度、守るべき規範を示したら、例外を認めてはならない。とくに、同僚や顧客にひどい態度を取るなど、対人関係の面で不適切な行動をとる人間をそのままにしておくのはまずい。
業績を挙げているからといって野放しにしておくと、他の社員も「数字を持っている人は何をやってもいい」と判断してしまう。そうした者に対して断固たる処置をとることで、なによりも信頼を大切にしていること、健全なカルチャーを本気で守る覚悟があることを、みなに示そう。
より大きな市場を想像する
企業を限界を超えて成長させるうえで鍵となるのは、現時点での市場におけるポジションにとらわれることなく、そこから将来的にどのような可能性が開けるかを考えて、戦略上の選択をすることだ。具体的には、自社がいまいる市場をより大きな市場の一部として捉え直すというやり方が有効だと、スルートマンは言う。
たとえば、デスクトップコンピュータの市場は以前と比べてはるかに小さくなってしまったが、ラップトップやタブレットへとうまく進出したデスクトップメーカーは繁盛している。
これと同じように、スノーフレイク社は市場ではもともとデータウェアハウス企業と認識されていたものの、その製品には、より幅広く、クラウドデータオペレーションの基盤となるポテンシャルがあるとスルートマンは考えた。
そして、〝データの保管庫〟であるデータウェアハウスとしての機能にとどまらず、クライアント企業の社内にバラバラに存在しているデータを統合して、共有データを組み合わせたり、手元のデータの足りない部分を補ったりして利用できる「データクラウド」としての機能を提供するよう方針を転換したのだ。
いまではそこからさらに1歩進んで、顧客が、別の提供者による新しいデータを入手・利用できる、「データマーケットプレイス」にまでサービスを拡張している。
これこそまさに、スノーフレイク社がミッションとする「世界のデータのモビライズ」であり、その結果として同社は、データウェアハウス企業の潜在的市場の枠をはるかに超えた、異次元の成長を果たした。
ここまで、『最高を超える』の著者フランク・スルートマンが語る、組織を〝最高を超えた〟成長に導くための要点についてまとめてきた。
本記事では紹介できなかったが、同書にはこのほかにも、「人材採用・人事のポイント」や「創業者や取締役会との付き合い方」、あるいは経営者やリーダーだけでなくすべてのビジネスパーソンにとって有用な「キャリア形成のガイドライン」なども解説されている。ぜひ、手に取ってみてほしい。
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