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2023.08.30 11:00

SF思考を用いた「未来の意志表明」が握る、事業成長の可能性

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IBM Consulting において、テクノロジーがもたらす新しい社会のあり方をともに考え、共創し、発信する「IBM Future Design Lab.」。ラボ所長を務める髙荷 力が発表したレポート「不安多層化社会、到来。意志共鳴が拓く未来」が示す2030年の姿とは。そしてSF思考が描く「これからの顧客体験」のあるべき方向とは。髙荷による寄稿論文。


IBM Future Design Lab.では、2020年から3年間、コロナ禍に見舞われて以降、さまざまな社会変化と向き合うなかで生じた生活者と経済市場の変容を捉える定点調査を行ってきた。そして、2022年10月末に実施した直近の調査では、これまで測定してきた指標の約9割が平均して3-4ポイント降下している実態を明らかにした。

この現象は、緊急事態宣言下で行動制限を余儀なくされたコロナ禍にあっても新たなサービスや技術への期待を維持していた生活者が、コロナ禍に加え、紛争による世界の分断や異常気象、そして物価高騰など多層化する不安のなかで生活欲を全般的に押し下げたことを意味する。3年目の調査で明らかになったこうした生活欲の縮小均衡は、我々経済人に、これから先の事業戦略をコロナ禍での2年間の延長上におくべきでないことを明示している。そう我々は、まだまだ激しい変化の渦中にあることを自覚すべきなのだ。

ではこうした想定しがたい変化に、我々はどう対処すべきだろうか。その第一歩は現時点を正しく把握することであり、次に状況改善を促すレバレッジポイントを見出すことであろう。我々も前述した調査結果を洞察し現状把握、そこから独自のレバレッジポイントを発見できたので、以下にて概要を紹介する。

この先「何とかなる」と信じられる力

IBM Future Design Lab.では、最新の調査結果から特徴的な6つの生活者心理とテクノロジーへの期待を抽出。現在の社会環境を「不安多層化社会」と名付け、そのなかで生活者に「自助的な楽観性」を育んでもらうことがこれからの経済成長の鍵を握ると結論づけた。「自助的な楽観性」とは、どんな社会状況下においても、自分が信じられるもの(友人や地域との縁、お金や支援制度など)を背景に、この先「何とかなる」と信じられる力を指す。2022年に到来した不安多層化社会のなかでも、自助的な信頼基盤を確立できている人たちは悲観に暮れずに積極性を維持していたことに、私たちは希望を見出した。この希望こそが、社会や事業運営など全ての活動に成長をもたらすと考えたのだ。

よって多くの(公的な事業も、私的な事業も含めて)事業推進者にとって、2023年以降は、自らの事業を通じて一人でも多くの生活者に「自助的な楽観性」を実感してもらうことがチャンスとなる。またそうしたチャンスを生かすうえでは、「未来についての意志表明」を通じて事業に主体的に共感してくれる仲間を得る努力や工夫が必須となる。

このように「未来についての意志表明」の必要性が増すなか、SF思考を用いたナラティブ開発に注目が集まっている。SFとはサイエンス・フィクションの略称で、これまでも小説や映画などにおいて未来を舞台に科学や社会システムが更新された情景を描き出す手法として用いられてきた。それをビジネスに転用し、社会や事業の未来を描き出す際に採用する発想法を「SF思考」と呼ぶ。また、「ナラティブ」とは読み手を主人公とし多様な解釈を許容する物語を指し、読み手の主体的な関与を引き出す手法として期待されている。

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来たる2030年のシナリオ

私たちIBM Future Design Lab.でも、この3年間、戦略ペルソナであるエニシ君(2002年生まれのZ世代)を主人公に、SF的思考を用いたナラティブ(物語)を開発してきた。特に最新のレポートでは2030年12月を舞台に、28歳を迎え社会人6年目となった彼の働き方をベースに、IBM Future Design Lab.独自の目線で2030年に利用が拡がるだろう未来のサービス環境を描き出すことに挑戦した。 

SF思考と聞くと「クリエイティブな感性が必要」「卓越した妄想力がないと難しい」などと考える人が多いが、実態はそうではない。実は、SF思考を用いたナラティブ開発においては、ファクト起点のアイデア発想が重視される。主要な素養と誤解されがちな想像力や妄想力の発揮は最後のスパイスのようなもので、主要な論点はデータなど客観的な視点を用いて、シナリオとして文脈的に発想することが重視される。我々もさまざまな調査結果やレポートなどを積極的に用いた。具体的には、日本市場に特有な自助意識や利他意識の萌芽などの生活者インサイトや、今後成長の鍵となる「自助的な楽観性」の提供に着目し2030年のシナリオを検討した。いうなれば事実に基づき編纂された実現可能性の高い筋道を舞台に、仮説に基づいた脚色が一部含まれているのがSF思考を用いたナラティブ開発の実像なのだ。

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そして、シナリオ構築のプロセスも体系化が進んでいる。IBM Future Design Lab.では、今回の調査からエニシ君に相当する世代の特徴分析を実施。その世代的な特徴を基盤に、市場周辺の未来予測などのデータを活用し、未来の動向をワークショッププログラム「Future Design Camp」で規定した。更にそこでの対話をもとに「UX-map」と呼ぶユーザーの体験価値を描くフレームワークで体系化することで、未来に出現するであろうサービス群を導き出した。このように感性ではなく、手順を工夫することで充分に戦略的なシナリオ開発が可能となっているのだ。

そんなプロセスを経て、我々が2020年に発表したのが、2030年時点で主役級として注目されているサービス「パーソナルAI」だった。その背景には、データ流通インフラの高度化に加えてAIの進化や音声インターフェースの普及などの技術トレンドがあった。またそれに加え社員の高齢化により、多くの組織的知見を喪失したことを悔やむ経営者心理にも着想を得た。それらのファクトを起点に、大企業やテック企業を中心に次世代の社員育成の観点で「パーソナルAI」が拡がるという潮流を予測。そしてその潮流が「パーソナルAI」システムの企業間連携という形で加速し、徐々に事業以外のサービスとも連携が進んでいく未来を描きだした。

SF思考は人々の創発を最大化する

こうした視点からすると、2023年に入り本格的に話題となったChatGTPの登場すら、ある種想定内のイノベーションとも言えたのは驚きだった。というのは、最新の我々のナラティブではその先の争点として、「パーソナルAI」が社員育成の観点で、前述した「自助的な楽観性」に配慮する進化像を描いていたからだ。つまりSF思考を用いたナラティブとは、目先のトピックに左右されずに自社独自の視点から戦略上のオルタナティブを見出すのに有効なツールでもあったのだ。

事実、我々が開発したナラティブでは、前述した「パーソナルAI」サービスの他にも、生活周りのサービスの再編、ビジネスサポートを主とするサービスの変化などを紹介している。また最新のナラティブでは、現在はスケジュール、リモート会議、文書作成など目的で分離している各種サービスが、ユーザー体験に添って高度に統合していく姿を描き出すことにも挑戦した。このように未来の可能性を可視化することで、我々自身が現在市場を席捲しているデジタルやテクノロジー・サービスにすら、まだまだ工夫や進化の余地があることを確信できたことは貴重な体験だった。

よって我々が考えるSF思考を用いたナラティブ開発の利点とは、時代を先んじた発想によりサービス開発や事業変革のスピードを競うことではない。SF思考には多様な人たちを巻き込む力があり、ナラティブはそのなかでの人々の創発を最大化する可能性がある。それらの特性を最大に生かすことで、私たちは眼前の変化のスピードに左右されずに、正しくユーザーニーズを捉え、お客様の体験価値を高めるために過去や競合の縛りを越えた事業の可能性を構想できるようになる。それこそが最大の利点なのである。

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昨今の報道などをみていると、残念ながら不安多層化社会はしばらく継続すると思われる。そしてそのなかで、生活者たちは着実に生活欲を下げていくだろう。そんな人たちに対して、事業推進者が率先して自らの存在意義を理解して貰うためには、生活者も巻き込みながら共に未来の可能性を創造し、その希望を表明し続けることが欠かせない。

だからこそ、SF思考を用いたナラティブにより自社の未来を発信することは有益だ。なぜなら、どんなに専門性が高い事業でも、すべての参加者が等しく主人公の視点からナラティブへの共感や疑念について対話するだけで、容易に未来創造の議論に参加できるからだ。そしてこうした活動こそ自社の事業を、旧来の“Give and Take型”のモデルから、相互成長型モデルへと変える入り口に他ならない。事業推進者と顧客が、相互の創意工夫により共有する価値基盤を育成し、成長を共に分かち合う未来。そんな事業の進化により不安多層化社会が振り払らわれる明日の到来こそ、我々IBM Future Design Lab.の願いなのである。

*レポート「不安多層化社会、到来。意志共鳴が拓く未来」はこちらからダウンロード可能

たかに・ちから◎大学卒業後、広告会社において、生活者の消費行動調査や心理を20年にわたり研究。2020年4月にIBM入社。インタラクティブ・エクスペリエンス事業部にて多様な業種の顧客体験デザインを通じた事業戦略構想を支援しながら、2020年8月の第1回生活者調査の指揮をとる。2023年2月にIBM Future Design Lab.の所長に就任。生活者調査の実施や社内外に向けた提言を行っている。

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