そうした危機に対して、HERO innovationが提示するDXソリューションとは?
超高齢化社会を迎えた日本。若者人口割合の低下、職の多様化、医療現場の業務過多により、医療従事者が増えにくい状況にある。そうした慢性的な人材不足に反して、医療を必要とする人々は増える一方だ。
その課題は、どのように解決すべきか。「スマートクリニック」を旗印に、医療現場のDXを強力に進めるHERO innovation(ヒーローイノベーション)代表取締役の平野義和に聞いた。
人材不足が深刻化する医療現場でDXが進まない理由
「コロナ禍の影響もあり、病院で働きたい人は減りました。離職率も上昇する一方で、医療現場から人が消えています。若者人口が都市に集中していることもあり、地方の医療機関の問題はさらに深刻です」平野は、医療現場の直面している困難を、そう表現した。彼は人材不足の要因を、労働環境の厳しさにあると考えている。
「医療従事者の負担が、あまりに大きいのです。いまだに紙で患者情報を管理しているクリニックも多く、会計管理も手作業。雑務に追われ残業も多い。にもかかわらず、政策に起因する診療報酬の低下が、待遇面向上の重しになっています。そうした過酷な労働環境に自ら飛び込む人が少なくなるのは当然です」
近年は医療関係の有資格者でも、医療以外の好条件な職場を選ぶ人が少なくない。医療現場の業務多過を改善していくためには、Web予約やWeb問診、セルフレジなどのDXによって利便性を高めなければならないのは明白だが、導入スピードはいっこうに上がっていないと平野は指摘する。このIT化の遅れは患者の医療機関への不満にもつながっており、特に待ち時間に対する不満が最も大きい。
「IT化遅れの大きな原因が、開業医の高齢率の高さ。一般診療所の医師の平均年齢は60歳超なのです」
開業医の高年齢化により、デジタルのリテラシーが高い人が、絶対的に少ないことが問題だと平野は言う。
「15年前から政府が導入を推進している電子カルテでさえ、普及率はいまだ50%程度。現状のアナログで運営しているクリニックを、デジタル運営に切り替えることは簡単ではありません。たとえさまざまなDXツールを導入したとしても、それぞれのサービス提供会社との個別契約では、データの連携やデジタル運営体制づくりが難しいということもあります」
複数社との契約では、当然コストも上昇する。そこで平野は、課題をクリアするワンパッケージの「スマートクリニック」の提供を推し進めることにしたという。
たどり着いた事業ビジョン“医療を便利にわかりやすく”
そうした思いに至るまでに、平野はどのようなキャリアパスを描いてきたのだろうか。「情報工学部でITの可能性に触れ、当時はSEとしての就職も検討したのですが、当時上場したてで勢いがあった完全実力主義のIT系営業会社へ飛び込みました。自分の長所でもある行動力とコミュニケーション力を生かしたいと考えたのです」
入社した会社では、病気により早く母を亡くした経験もあり、医療マーケット事業部への配属を志願した。これが医療業界に深く携わっていくきっかけとなった。
入社早々から営業成果を出し、組織・仕組みをつくり、入社4年目の26歳で上場企業の部長にまで上り詰める。
「しかしその後、会社の業績低下に伴いリストラ業務が中心となり、そこから3年の業務はいつしか株主向けの対応になっていました。一緒に働く仲間やお客さまの笑顔が喜びだったはずなのですが」
平野は心機一転、2013年29歳でHERO innovationを設立した。当時はスマホが急速に普及し、スマホ向け広告も当たり前になろうとしていた時代。そのなかでスマホ向け広告の対応が遅れていた医療業界のWeb広告、ブランディングを手がけ、業界のマーケティングに新しい波を起こした。
「1人で始めた会社は、10年で100人超の組織となり、医療業界に対して自分のやりたいこと、できることが明確になっていきました。“医療を便利にわかりやすく”という社会的責任を考えた事業ビジョンにたどり着いたのもそのころです」
「スマートクリニック」を医療機関経営のスタンダードに
平野が描いた医療現場の理想の実現に向けた挑戦が始まった。それを彼は「スマートクリニック」と呼ぶ。アナログで非効率な医療現場を、デジタルの力でわかりやすく便利にし、人材不足や医療従事者の負担増という課題を解消する構想である。
例えば、従来の工程ではホームページ経由で、予約→問診・カルテ作成→症状聴取を受けたうえで検査にたどり着いていた。スマートクリニックではWeb上で予約とともに問診を行い、受け付け確認を経て、すぐに検査を受けられる。オンライン診療にも対応し、自動で精算、次回予約を行うので、待ち時間も大幅に短縮できる。
「工程を効率化すれば、少ない人員での運営が可能になり、医療従事者の手間も減り、労働環境が改善し医療の質が向上する。これが私たちのソリューションです」
従来医療とスマートクリニックの比較
その構想が格段に現実味を帯びたのが、M&A等によるプロダクト統合だったという。
「ひとつは関東ですでに高い導入実績がある医療専門Web予約システムの『MEDICALPASS』、もうひとつは、1,500件以上の導入実績のある医師が開発した問診票システム『メルプWEB問診』です。2社のケイパビリティが加わったことで、全体像が浮かび上がってきたのです」
HERO innovationのスマートクリニック事業では医療現場のDXを1アカウントで管理し、予約から問診、決済までの現場導入をトータルでサポートする。データ連携も容易で現場導入の手間やコストがかさむこともない。
「機密性の高い医療データを共有・連携する場合、複数社間ではセキュリティの担保が難しいのですが、1社でなら可能です」
マイナ保険証の導入をはじめ、「医療DX」はこれからいよいよ本格化する時期。スマートクリニックで、平野はどのような未来を実現したいのだろうか。
「日本の医療に、持続可能な未来へつなげるスタンダードをつくりたいですね」
HERO innovation
ひらの・よしかず◎福岡県出身。大学(情報メディア学部)卒業後、医療系IT上場ベンチャー企業に就職。医療機関向けITサービス営業職にて最年少で部長になり業務再編を手がける。2013年にHERO innovationを起業し、代表取締役に就任。