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2023.08.25 16:00

スタートアップと大企業のオープンイノベーション。その理想的なあり方とは

23年5月、ものづくりを根本から変える可能性があると言われている技術を持つエレファンテックと三菱電機の共創がはじまった。三菱電機が設立したCVCであるMEイノベーションファンドがエレファンテックに出資を決めたのだ。

エレファンテックは、金属インクジェット印刷技術と銅メッキ技術を活用したフレキシブルプリント回路基板「P-flex®」の製造販売を手がけており、その技術はものづくりを根本から変える可能性があると言われている。その技術とはどのようなものなのか。また、これからどのような共創イノベーションを起こしていくのか。3人のキーパーソンたちに話を聞いた。


ものづくりを変える技術だと確信し、出資を決断


エレファンテックへの出資は一度、頓挫したという。研究開発型スタートアップという、十分な成功事例が生まれていない企業のなかでも、電子回路基板という難しい領域に挑戦していたため、社内経営幹部での理解が得られなかったのだ。同社への投資を推進したのはMEイノベーションファンドの峯藤健司。粘り強く説得を続けたことで2023年5月に念願の出資が実現した。

「元研究職として、エレファンテックの技術は以前から注目していました。というのも、エレファンテックが開発してきたピュアアディティブ®法は、もともと50年も昔からあった技術ですが、長く実現不可能と考えられていました。それを量産体制にまで漕ぎつけた。また、エレファンテック清水さんのベンチャースピリットと情熱あふれる言動にも触れて出資を決意しました。難しい技術だけになかなか社内の同意を得られずに一度は頓挫しましたが、ようやく出資することができました」(峯藤)

ピュアアディティブ®法とは、電子回路基板に金属をナノ化してインク状態にし、インクジェットで基材に印刷した後、無電解銅メッキで金属を成長させて回路を形成するという工法。清水信哉が率いるエレファンテックは、この製法に挑戦し続け、量産化に世界で初めて成功。これまで100年近く続いてきたプリント基板の製法を革新しようとしているのだ。

一方、従来の製法は、銅箔を製造しフィルムとラミネートして、感光材料をラミネートした後に、露光、現像、エッチングによって不要な部分の銅箔を溶解・破棄することで銅パターンをつくるという非常に長い工程を要する。当然、不要な金属を削るという工程は資源の無駄や工程数が多く、製造リードタイムも長い。当然コストも増大するというデメリットがあった。

「当社は、『新しいものづくりの力で、持続可能な世界を作る』というミッションを掲げています。ピュアアディティブ®法は、金属などの材料を無駄にすることがないため持続可能な社会に貢献できる技術。14年に起業してから、基礎研究と実証試験を繰り返し、ようやく20年にメーカーへの供給という量産化までたどり着きました。通常、スタートアップは起業から数年で製品化しますが、弊社は6年かかったことになります。というのも、ピュアアディティブ®法はインクジェットによる安定した金属印刷技術、高速の無電解銅メッキ技術、密着・高屈曲技術など複数の技術を融合したもので、ハードルが非常に高い技術領域だからです。

それでも各技術の精度を上げて既存の製品と同等の耐久性を得ることができ、いまは既存製品以上の精度と生産スピードにすることを目標に、さらに研究開発を続けています。このタイミングでのMEイノベーションファンドの出資は、当社にとっては次の段階に向かうための大きな力を得たと感じています」(清水)

エレファンテック 代表取締役社長 清水信哉

エレファンテック 代表取締役社長 清水信哉

スタートアップの独創性と、大企業のアセットを融合させる


ピュアアディティブ®法は、最低限の資源で電子回路基板を製造できる技術であり、ものづくりを根底から変える可能性が高い。しかし、広く普及させるには、乗り越えなければいけないハードルがある。量産スピードと耐久性という課題である。この課題克服に力強いパートナーとなるのが三菱電機名古屋製作所オープンイノベーション推進プロジェクトグループだ。

「ピュアアディティブ®法は、破壊的なイノベーションだと感じています。しかし、まだ精度の面で課題が残っており、その部分で当社が保有する技術が役に立つと考えています。例えば、金属インクを塗布するスピード。効率よく金属インクを塗布するには、吐出精度や詰まりを少なくすることが重要です。加えて金属インクの液滴量、位置精度も大きく影響します。実はこうしたFA(ファクトリーオートメーション)技術は三菱電機が得意とするところ。例えば、三菱電機のサーボモータは高速かつ精密な制御を行うことができ、エレファンテックが手がける印刷装置の性能を飛躍的に向上させることができます。つまり、両社の強みをかけ合わせることでピュアアディティブ®法の性能向上が可能になります。そういう意味で今回の出資は大きな一歩を踏み出したと思っています」(田中)

共創のあり方をこのように説明するのは、オープンイノベーション推進プロジェクトグループマネージャーの田中哲夫だ。田中も峯藤とともにエレファンテックの優れた技術力に注目し社内で出資を働きかけたひとりで、今後、共創の中心的な役割を担うことになるキーパーソンである。

そしてもうひとつ、田中が大きな期待をかける理由がある。それは三菱電機の知見がピュアアディティブ®法の製品づくりに活かされると考えているからだ。それは清水にとっても同じだという。

「スタートアップは既存事業とのしがらみがないため、難しい領域に果敢に攻めることができます。また、物事を決めていく判断は早いという自負もあります。しかし、その一方で歴史が浅いことから大企業のようなアセットがありません。過去にどんなことが起こり、それについてどのように対処したのかという経験や製品評価に対する豊富なレシピはスタートアップでは持ちえない。開発していく上でそれを共有できれば、よりスピーディで確実な精度の向上が可能になると考えています」(清水)

日本発の新しいものづくりで、世界を変える


エレファンテックと三菱電機の共創のあり方をみると、スタートアップと大企業によるオープンイノベーションは日本の未来を大きく変えていく可能性を秘めているといえるだろう。アメリカが次々とイノベーションを起こした要因には、大企業がスタートアップを上手に活用してきたという背景もある。イノベーティブな技術開発をするスタートアップに対して技術や資金面で支援し、新しいプロダクトやサービスを創出したケースは多い。つまり大企業とスタートアップの共創が成長エンジンとして機能してきたわけだが、ここ数年で日本の大企業の考え方も変化しているという。

三菱電機 名古屋製作所 オープンイノベーション推進プロジェクトグループマネージャー 田中哲夫(左)・三菱電機 ビジネスイノベーション本部/MEイノベーションファンド 峯藤健司(右)

三菱電機 名古屋製作所 オープンイノベーション推進プロジェクトグループマネージャー 田中哲夫(左)・三菱電機 ビジネスイノベーション本部/MEイノベーションファンド 峯藤健司(右)


「日本の大企業はものづくりにおいて自前主義を貫いて、高品質の製品を効率よく生産してきました。確かに既存製品を生産するにはそれでいいのですが、イノベーションを起こすことは難しい。新しい技術や製品にチャレンジする際は、フットワークが軽くスピーディなスタートアップとの共創が望ましいと思います。そういう観点でいえば日本の大企業の姿勢も変化しつつありますし、今回のエレファンテックとの共創は当社にとって大きなターニングポイントとなることは間違いありません。共創による技術的なシナジー効果だけでなく、発想力やフロンティア精神などマインド的な部分も大いに刺激を受け、社内のイノベーション風土醸成にも効果が出ると期待しています」(田中)

とくに日本の強みは、ものづくり大国として長年に渡って蓄積された技術があること。これを最大限に活用する手段として、独創的な発想で新領域に挑むスタートアップの息吹を吹き込むことでイノベーションが生まれる可能性は高い。

「新しいものづくりの力で、日本発のイノベーションを起こす。そして、持続可能な世界を作る。それが当社のミッションですからぜひ実現したい」と清水が抱負を語れば、峯藤はMEイノベーションファンドとしてのスタンスを、「スタートアップとの共創のあり方として、変革を起こすためにリスクをとるスタートアップが中心にあるべきだと考えています。スタートアップファーストの姿勢を貫いて、エレファンテックを支援していきたい」という。

技術連携を担う田中の言葉にも期待が膨らむ。

「まずはピュアアディティブ®法の確立を支援することです。そして確立後には、当社が長年にわたって積み上げてきた顧客とのネットワークや技術的アセットを活かしてプリント基板以外のアプリケーションに使うことも提案していきたい。異業種や新市場の様々な製品に利用されることで、エレファンテックのビジネスをさらに広げる。そんな貢献のあり方を思い描いています」(田中)

リンク確認中

三菱電機
https://www.mitsubishielectric.co.jp/

エレファンテック
https://www.elephantech.co.jp/

みねふじ・けんじ◎三菱電機 ビジネスイノベーション本部。2011年に三菱電機に入社、研究職として光通信技術の研究開発に従事。その後、研究開発戦略策定や資源配分を担当、オープンイノベーションを起点とした新規事業開発の推進を担い、スタートアップのハンズオン支援を数多く経験。MEイノベーションファンドの立ち上げを主導。

たなか・てつお◎三菱電機 名古屋製作所 オープンイノベーション推進プロジェクトグループマネージャー。2000年に三菱電機に入社、汎用インバータの製品開発に従事。21年よりFA領域における新規事業創出を担当。22年には農業系スタートアップとの共創活動により、大阪・京都の公園でIoT緑化シェードの実証実験(PoC)を実施した。

しみず・しんや◎エレファンテック代表取締役社長。東京大学工学部電子情報工学科卒業、同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻修士課程修了。2012年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社、主に国内メーカーのコンサルティングに従事した後、14年1月にエレファンテックの前身となるAgICを創業。

Promoted by 三菱電機 | text by Tetsuji Hirosawa | photographs by Yuta Fukitsuka | edited by Hirotaka Imai