「IT人材を育成することで、日本を元気にする」という同社が描く未来と、日本のIT人材の現状に迫る。
日本のデジタル化に立ちはだかる2つの問題
「GDPに占める国の能力開発費の割合の比較があるのですが、日本は0.1%、米は2%。つまり、米は日本の20倍も人材の能力開発にお金をかけています。また、シンガポールやマレーシアでは国が企業の人材育成を支援しています。これらの国々と比べると日本は人材育成にお金をかけていませんでした。また、2019年の経済産業省のIT人材需給に関する調査では、30年には日本のIT人材が最大で79万人も不足すると予測されているなど、まさにIT人材育成は緊急に取り組まなければならない課題です」そうIT人材育成における日本の現状を説明するのは、トレノケートホールディングスの代表取締役社長である杉島泰斗だ。
同社は、世界的なITベンダーのトレーニングパートナーとしてGoogleからアジアで1社だけ選ばれる賞に選ばれるとともに、21年にはMicrosoft、22年にはAWSから世界で1社のみ選出されるアワードを受賞したITトレーニング企業として知られる。アワードを獲得する講師や熱いファンがいる講師など、講師の層も厚い。
人材育成の専門企業として、ITベンダーから数々のアワードを受賞している
そんな世界的なIT人材トレーニングのプロフェッショナルを率いる杉島だが、前述以外にも日本のIT産業が抱えるふたつの問題を指摘する。それはレガシーシステムと事業会社の外注依存という問題だ。
「日本は早くからITインフラを整備してきましたが、それが老朽化してしまいレガシーシステムとして残っています。その運用と改修に人手を割いており、DXへのシフトを図るための人材が足りないという問題があります。そしてもうひとつ、多くの事業会社が外部のシステムインテグレーターに自社の情報システム構築を依頼してきたため、自社内にエンジニアはもちろん、デジタルに強い人材が少ないという問題が挙げられます。
米などは、社内にコンピュータサイエンスを専攻した経営陣も多く、システム構築も内製化しています。ですから社内の課題をよく把握しているうえにDXなどデジタル化への対応がスピーディです。これらが、米に比べて日本が大きく後れを取っている原因だと考えています」
しかも、そのことに無自覚な企業や人が多いという。同社でアンケートを取ったところ、日本はITスキルが高いと思っている人が多いという結果が出た。
しかし、回答者自身はITに強くないという回答が多く、自分はスキルがないが、まわりの人たちはデジタルに強いと考えている人が多いのだ。こうした矛盾した認識と状況を変えない限り、日本のデジタルによる変革は進まないと、杉島は危機感を募らせる。
企業ニーズに沿った研修で年間5万人以上のIT人材を育てる
しかし、明るい兆候がないわけではない。最近、政府も力を注ぐリスキリングである。デジタル変革の突破口となるのは、必要なスキルを学び直すことで新しい職種へ転換を図ることだ。「海外からの人材流入という方法も考えられますが、残念なことに相対的に日本の魅力は地盤沈下しています。例えば、東南アジアの優秀な人材は、米を目指し日本には来たがらない。言葉の壁や円安などの原因も考えられますが、やはり働く場としての魅力が低下しているのでしょう。そんな状況下では国内で新しいIT人材を育成していかなければならないわけで、その最善策がリスキリングです。すでに危機感をもつ企業は本格的にリスキリングを実践しています」
例えば、大手飲料メーカーのサッポロホールディングスは全社を挙げたリスキリングを開始。流通やエネルギー業界でも全社を挙げたDX戦略が立ち上がっているという。
こうした状況のなか、トレノケートホールディングスでは、以前からの顧客であるIT企業はもちろん、リスキリングやDXに取り組む事業会社、デジタル化が急がれる官公庁など、さまざまな組織のニーズに対応。
「1,500を超える研修コースや学習教材を取り揃え、新卒から経営層といった階層別研修をはじめ、DXの基本的な考え方、データ分析、AIの活用、クラウド構築などお客様のニーズに合わせて研修を提供しています」
こうした専門的な知識・技術を提供するとともに、同社ではIT以外のさまざまな研修も実施している。
というのも同社に相談してくる企業のなかには「DXを推進したいが、どこから手を付けていけばいいのかわからない」というケースも少なくない。そんなときには、まず、現在のDXやデジタル推進が必要な社会状況の理解が図れる研修を提供したり、変化し続ける時代のなかで自身のキャリアを自律的に考えるための研修を提供したりするという。
ほかにも、世界で勝負したいという人材にはグローバルコミュニケーション力も必要になるので、それらを身につける研修も提供する。さらにOJTを実践する人や、OJTを受ける人に向けたプログラムも用意し、OJTの成果を最大限に引き出す。このようにIT研修をコアにしながらも幅広い領域の研修を用意しているのだ。
「ヒアリングを通してお客様の課題や現状を把握し、最善の研修をご提案しています。その際にいちばん大切なのは、企業や受講する方の『なぜ受講するのか?』という前提の理解、受講する研修が何に役立つのかといった『Why?』を明確にすることです。この答えを導き出すことで、受講者のモチベーションは格段に上がり、スキルが身につく早さも大きく変わっていきます。研修を進めるなかで、メニューを広げながらお客様の課題解決を図っていくことも少なくありません」
実はこうした研修を用意できるのは、同社の歴史によるところが大きい。1995年にミニコンピュータメーカーのDECの教育部門が独立して生まれた会社のため、当時からコンピュータの使い方だけでなく、ビジネススキルを修得するプログラムも開発してきた。
講師陣のなかにはキャリアコンサルタントの有資格者も在籍するなど、柔軟に研修プログラムを開発できる体制が築かれている。
小さな達成感を覚えることがリスキリング成功の秘訣
トレノケートホールディングス独自の各種ビジネススキル研修とIT研修を受講して成果を上げる企業は、枚挙にいとまがない。例えば、大手百貨店の系列会社の売り場の販売員が同社の研修を受講後にIT部門で活躍するなど、リスキリングに成功した事例も多いという。その秘訣について、杉島は次のように解説する。
「プログラミングを経験したことのない人は、はじめはITと聞くだけで難しいと感じるのですが、実はキャリアチェンジの障壁は想像するほどは高くありません。手順に沿って作業すればデータベースなどもつくることができるのですが、その際に小さな成功体験を積み上げていくことが大切です。そんな達成感を覚えられるように当社では研修プログラムを組んでいますので、リスキリングを考える企業には自信をもっておすすめできます」
また、経産省が推進する一般のビジネスパーソンがもつデジタルリテラシーとして「Di-Lite」があるが、そのなかの「ITパスポート試験」「データサイエンティスト検定」「G検定」を取得する企業の経営者が増えている。
杉島はこうした風潮を「その技術で何ができるかがわかり、必ずビジネス戦略に生かすことができる」と歓迎する。
そんな傾向をさらに加速させるためにも同社では、顧客ニーズに合わせて臨機応変に幅広い研修プログラムを今後も提供していくという。“IT人材育成で世界を変える”というビジョンの実現に向けて着実に前進し続けるトレノケートホールディングスから目が離せない。
トレノケートホールディングス
すぎしま・たいと◎トレノケートホールディングス代表取締役社長。SCSデロイトテクノロジーでITコンサルタント、不動産ポータルサイトLIFULL HOME'SでWebエンジニア、マーケティングに従事。クリスクで代表取締役を10年務め、日本と東南アジア4カ国で事業を展開。2021年より現職。