BtoBでビジネスを奏功するためには、企業と企業が理想的なかたちで結びつく必要がある。しかし現実には、それを成功させるのは難しい。頻発するミスマッチに対してビジネスマッチングエージェント・サービス「レディクル(ReadyCrew)」を展開するのがフロンティアだ。今回は同社広報・マーケティング/部長・取締役 高瀬雅代(以下、高瀬)と、競争戦略の専門家、一橋ビジネススクール教授 楠木建(以下、楠木)が、企業の営業の仕組みを一新し、未来につなげるマッチング戦略について語り合った。
情報の非対称性がミスマッチを生む
―楠木先生は、ビジネスマッチング市場をどのようにとらえていますか。楠木:例えば「卸売り」。これはメーカーは100個以下では手間がかかるから売りたくない、地場商店は少量しか仕入れたくないという需要と供給のバランスを取るビジネスマッチング形態だといえます。
現在はDX推進により、メーカーの直販化も進んでいますが、それは情報が売り手・買い手双方に容易に入手できる環境が前提です。同じように上場している企業同士なら、情報が公開されているので、マッチングの必要性は高くないでしょう。
しかしBtoBで株式非公開企業同士となると、お互いに情報を得るのが一気に難しくなります。昔から行われているようにうわさや評判をリサーチしても、真実かどうかもわからないし、とても効率が悪い。さらにデザインやプロジェクトマネジャーなど、実際に頼んでみないとわかりにくい職種もあります。インターネットが普及した世の中でも、実際はサーチできない情報が少なくないのです。
高瀬:サーチ自体、各人の検索力、言語力や要件定義力に依存するので、正しく活用するのは難しいものです。
そうしたBtoBでの情報の非対称性は近年加速しています。その背景には、終身雇用の崩壊、働き方の多様性も影響していると思います。とにかく情報(人材)の流動性が高い。長く正社員として働くのではなく、転職や業務委託、フリーランスなどキャリアを転じる方が多いので、企業のケイパビリティも常に変化します。かといって、変化する企業情報を担当者が追い続けるのは現実的ではありません。こうした局在化、偏りから生じる課題が根本にあるのです。
ビジネスマッチングというと金融、医療、人材、教育、製造など、直接人を雇用する方法を連想される方も多いのですが、フロンティアの「レディクル」は、「不足や偏りを解消する」ために各状況、要件に合った適切な売り手企業を紹介するサービスです。
私たちが日頃目にする情報は、ターゲティングが行われていることで、縦に深く知ることはできても、横の広がりがありません。数多の情報が視界に入っていないのです。
楠木:通常のビジネスマッチングは、売り手が能力を登録し、買い手企業が条件を指定してサーチすると、AIがデータベースから条件に合う企業をマッチングします。御社の場合はどのように違うのですか?
高瀬:私たちは人材を直接紹介するのではなく、企業同士をマッチングします。さらに売り手企業と買い手企業の要望を、人間が細かくヒアリングするところも大きく違います。もちろん独自のデータベースも活用しますが、担当者の人柄や経歴も含めて把握し、“合う”企業同士を人が組み合わせるのです。
その際、企業の要望が抽象的ではっきりしない段階なら、“壁打ち”というかたちでコンシェルジュと発注企業の担当者が意見交換を行い、発注先候補企業を判別するために要望を詰めていきます。事前に金額面も含めた双方の期待値を調整して商談設定まで寄り添います。この仕組みこそが、商談成立を促しWIN-WINの関係を創出する、レディクルならではの価値だと思っています。
日なたのビジネスと日陰のビジネス
―ビジネスマッチングエージェントという事業を、楠木先生はどう評価しますか?楠木:各企業に対して深いカウンセリングを行うことで理解を深め、一般には公開されていない情報を含めた独自のデータベースでマッチングの最適化を図る。事前の金額面確認と商談設定まで行うのは、マッチングというよりも営業代行ですね。こうした動きの原点はどこにあるのですか。
高瀬:弊社の基準は、企業の悩みをどれだけ解消できるかにあります。また企業の悩みを収集することが、結果として売り手のチャンスにもつながると思っています。発注企業の悩みをマッチングサイトを一例にみてみると、マッチングサイトは要件定義が明確なときには簡単に見積りを集めることができて便利です。しかし一方で、マッチングサイトにも問題はあります。主に以下の4つです。
①情報漏えいのリスク
公表前の事業やサービスの情報を掲載するのは、情報漏えいのリスクがあります。
②1次情報の不足
Web上の情報は限定的。実績や口コミ、運営体制などの1次情報はわかりません。
③専門外領域での選定リスク
コロナ禍を契機に、新たなチャレンジを行う企業が増加。しかし知見のない分野では、そもそも何が要件で、依頼先企業に要件を満たすスキルがあるかさえ、判断できないケースがあります。
④要件の精度や案件規模が限定される
予算規模が大きい、依頼範囲が多岐にわたる、要件を詰め切れていないなど、漠然としたニーズの段階ではWebサイト上で候補先選定が困難です。便利なはずが、余計に時間を要してしまう場合があります。例えば新規事業の立ち上げや大型プロモーションの実施など、案件が他領域にわたる場合は、それぞれ分割して候補企業を見つけなくてはいけません。
楠木:僕は「日なた」と「日陰」という戦略対比が面白いと思っています。19世紀のゴールドラッシュを例にとると、金の採掘が「日なたのビジネス」。一方そこで働く人の作業着としてジーンズを販売して成功したのがリーバイス。皆が注目する日なたの裏をとった「日陰のビジネス」です。
それを現代に当てはめると、ネット検索、SNS、ChatGPTなど洗練されたデジタル手法で課題を解決していく事業が花形です。しかしその光が強いほど、日陰のコントラストが強くなるのです。御社は後者ですね。デジタルの力だけでなく、人の手を介して地道に最適な相手企業を見つけるというところに懸けた。パワーで押し切る営業スタイルが主流の世界で、企業の相性に焦点を当てビジネスをつくり出す。実にユニークな戦略です。御社はこの先、どのような未来を描いているのですか。
高瀬:弊社代表の高橋政裕のモットーは「100のものを120と偽って売るな」です。私たちがレディクルという情報のプラットフォームを通じて実現したいのは、サービス提供者が営業力で押し切る営業スタイルではなく、企業がたくさんの情報のなかから適切なパートナーを、平等に選ぶことのできる社会。企業間の情報格差をなくし、ミスマッチのない企業間取引を実現することで、理想のBtoB環境を生み出していくことが、レディクルの使命だと考えています。
レディクル
https://readycrew.jp
くすのき・けん◎一橋大学大学院修士課程修了。イタリア・ボ ッコーニ大学客員教授などを経て、 2010年より一橋ビジネススクール教授。『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』など著書多数。
たかせ・まさよ◎千葉大学大学院を経て、東京大学大学院進学。広告代理店を経て、LINEにて保険・証券事業立ち上げを経験。その後、 2021年フロンティア入社。執行役員を経て、22年10月より現職。