組織の多様性をビジネスに生かす
3月8日、日本コカ・コーラの渋谷本社。赤を基調とした広々としたカフェテリアのスクリーンには「International Women’s Days and Networking Session」の文字が掲げられていた。本イベントは、国際女性デーに合わせ、これからのインクルーシブな社会について考えるセッションがメインとなる。
最初に登壇したのは、日本コカ・コーラのホルヘ・ガルドゥニョ社長。国際女性デーを祝福し、「女性のエンパワーメントを進めることは、男性を排除するためのものではありません。むしろ男性寄りだった社会の変化が求められているのです」と、その意義を説明。「私たちのマーケット(=実社会)が多様であるように、コカ・コーラもそれを反映し、多様な従業員と包括的な組織を目指します」と宣言。コカ・コーラのブランドや強みを発揮しながら、社会の模範になろうと呼びかけた。
実はコカ・コーラのグローバル目標は、2030年に女性管理職比率50%を達成すること。しかし、日本コカ・コーラは5年の前倒し、つまり25年までの達成を独自に設定している。これについても、「決して容易な道ではありません。そのためには男性にも多様性の重要度を理解してもらうことが必要です。全員にとってメリットがあることですから。我々は誰にでも平等な機会を与えていきます」と、目標達成への強い決意を滲ませた。
続いて、人事本部長であるパトリック・ジョーダンからのビデオメッセージが流れた。「多様性、公平性そして包括性は、コカ・コーラの戦略の重要なポイントです。また、私たちが差別化を図るうえでも、重要な要素でもあります」と話し、日本コカ・コーラの従業員の多様性がブランドに結びついた成功例として、缶コーヒー「ジョージア」のリニューアルが挙げられた。
「これまで中年男性をターゲットしていたジョージアが、若い世代や女性にどうアプローチすればいいのか。従業員が多様であればこそ、幅広い層へ向けたアイデアが出てきたのです」
そして、今回イベントについて、多様性をもった環境をビジネスに生かすためになにをすべきかを考える機会にしてほしい、と結んだ。
高い女性管理職比率を支える、日本コカ・コーラの柔軟性
そしてパネルディスカッションがスタート。今回ファシリテーターを務めたのは、広報・渉外&サスティナビリティー推進本部 副社長の田中美代子。登壇者は、カスタマー&コマーシャル本部 ショッパー&チャネルディレクター、また社内の有志団体「Women’s Leadership Council」のメンバーでもある柴田桂、マーケティング本部ニュートリション事業本部長の向江一将、Forbes JAPAN Web編集長・谷本有香だ。本題である「今、なぜ女性活躍が重要か?」について、それぞれが社内外での経験を交えて、意見を述べた。
日本政府は20年までの女性管理職比率30%を目標に掲げていたものの、22年ではわずか9.4%という低水準に留まっている。目標の30%を超えている企業は全体のわずか9.5%の企業のみ(帝国データバンク調べ)。一方で韓国は2021年には21.3%に到達。はっきりと明暗が分かれる結果となっている。
そんな中、日本コカ・コーラの女性管理職比率は約40%まで上がってきているといい、谷本は「女性活躍の推進において日本を牽引していると言えます」と称賛を送った。
その女性管理職の一人である柴田は新卒入社で、二児の母でもある。「1996年の入社当時から多様性のある会社で、“女だから”を感じたことはなかった。恵まれた環境で働けました」と振り返る。
しかし、やはり出産・育児と仕事の両立は一筋縄ではいかない。特に出産後は、入社して初めて「自分の思うように時間を使えないというハードル」を感じたと話す。そのハードルを乗り越えた3つのポイントが、①パートナーの理解、②職場の上司の理解、③時間管理の工夫。特に「就業時間を8時~16時にしてほしい」という柴田の要求に対し、職場が柔軟に対応してくれたことは大きかったと振り返る。
さらに話は柴田が参加する社内の有志グループWLC(Women’s Leadership Council)について。これは韓国コカ・コーラで女性活躍の実現に貢献した実績を元に日本でも立ち上がったグループで、女性社員へのアンケートから抽出された3つのインサイト――①キャリアアップに対して積極的になれない、②自分に近しいロールモデルがない、③キャリアパスが思い描けない――これらの悩みに女性リーダーたちが直接答えていくことを目的に設立された。
WLCでは多様な経験をもつリーダーを招いてトークイベントを開いたり、子育てやライフワークバランスなど悩み別にグループを作ってネットワーキングをしたりと女性たちが自発的に動き、それを会社がバックアップしている。現在は社の壁を越え、「External Networking with our key partners」という方針で、さまざまな企業とも交流を深めている。本イベントにもキーパートナーの一社である日本マクドナルドの社員の姿があった。
「ありのままの自分」が、パフォーマンスの最大化につながる
本セッション唯一の男性パネリストである向江は2019年入社。2歳と6歳の子を持ち、パートナーは定期的に海外出張をこなすワーキングマザーである。
「これまではとても男性の比率が高い企業で働いてきたので、コカ・コーラに来て多くの女性が活躍している姿を目の当たりにし、本当に素晴らしいなと感じました」
向江が所属するニュートリションチームは多種多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっている。そういったチーム編成だからこそインクルーシブな職場環境を心がけていると、向江は言う。
「夜にグローバルチームとのオンラインミーティングをした時のこと。ちょうどお風呂から上がってきた子どもがそのまま画面に侵入してきたことがあったんです。私はすごく慌てたんですけど、そこで参加メンバーに、『子どもの面倒を見てあげて。子どもにとって、パパはあなたしかいないんだから』と言われ、すごく気持ちが楽になりました。私はビジネスパーソンであり夫であり父親でもある。子供が乱入してきた様子を隠すのではなく、ありのままの自分=父親として子の面倒を見ながらミーティングに参加することがとても自然体だと感じました。自分を隠すことなく、それを受け入れて仕事に専念することこそ、パフォーマンスを最大限に発揮できると気づいたんです。チームメンバーにも同様の環境を提供することでパフォーマンス最大化できると気づいた瞬間でした」
そして、すべてのメンバーが「オーセンティックでいる=自分らしくいる」ことが「マーケットで勝つ」ことへとつながると語る。
「究極的にインクルーシブな組織とはなにかを考えてみると、同じ目標に対して同じ価値基準を持つワンチーム感を持っていることだと思うのです」
そのためニュートリションチームでは「United in our Difference」という価値基準を作成しているという。さまざまなバックグラウンドを持つ個人が一つの目標、一つの価値基準を持つことでワンチームになる。それはまさに「多様性を武器にする」ということだろう。
二人の話を踏まえ、谷本から「女性活用をどうやって企業価値につなげていくのか」という質問が寄せられた。向江は、「以前、新商品のブレストで、気づいたら中年男性ばかりのメンバーになってしまったことがありました。多様性はマーケティングにおける必須事項。それがヒット商品につながり、企業価値につながる」と、過去の“失敗体験”を振り返りつつ説明。柴田も「例えばスーパーマーケットで我々の製品を購入する購入者の半分以上は女性。さまざまな消費者を理解することが本当に重要」と頷く。
「変われない日本を企業から変えてみせる」を掲げているForbs JAPAN WOMEN AWARDも今年で8年目。女性活躍を推進する日本コカ・コーラもその一環として同アワードへの応募を決めている。「我々も、表彰するだけでなく、一緒にムーブメントを作って行きたい。そしてアジア、世界を元気にしていければ」と谷本が力強く宣言して、イベントは幕を下ろした。
社のカルチャーが社員の自律的な行動を促す
本イベントに参加した日本コカ・コーラの社員は、イベントを通じて自社の施策やカルチャーをどのように感じたのだろうか。
「私は中途採用で当社が3社目ですが、ここまでフレキシブルな働き方ができる会社は初めてでした。イベントでも挙がっていたWLCのリーダーズトークに参加した時は、スーパーウーマンではなく、自分に近しいキャリアをもつ方の経験談を聞いて、リーダー像の幅が広がりました」(女性社員)
「育児との両立というと、小さい子を持つメンバーへのサポートをイメージする人も多いと思いますが、この会社ではそこにとどまりません。私も娘が受験の時に送り迎えをしなければならず、チームメンバーに申し出ていいものか、少し悩んだのです。出産のような母子の健康にかかわるようなものではないけど、家族にとってはすごく大きなライフイベント。迷いながらも相談したら、『行っておいで!』と背中を押してもらえました。すごくありがたかったですし、今度は私が誰かにやってあげようと思った瞬間でもありました」(女性社員)
「私は以前育休を取得し、昨年、同じ経験を持つ男性社員のパネルディスカッションを開催しました。育休を取って初めてわかったことをテーマに社員に発信し、男性からはもちろん、女性からも『自分のパートナーにも育休を取ってほしいので、こういったリアルな体験談が聞きたかった』といったコメントをもらいました」(男性社員)
社として制度などの環境を整える一方で、そのカルチャーを社員自身が受け取り、自律的に行動を起こしていく。その好循環が、女性管理職比率の上昇につながっているのかもしれない。