2021年に数あるプロダクトの名称に自社の名を冠し、ブランドを刷新した。同時に、社員が実現するビジネスパーパス、企業の存在意義を示すコーポレートパーパスを策定。同社の成長を形作る、独自のアプローチや原動力とは。パーパスを軸にジーニーが創り出す世界に迫るべく、代表取締役の工藤智昭に聞いた。
“世界的なテクノロジー企業”に挑戦する
ITの急速な進化がマーケティングやネット上での消費行動に大きな変化をもたらしているのは誰の目にも明らかだろう。個人はもちろん、サービスや商品を提供する企業側でさえも、日々変わりゆくそのテクノロジーやルールに追随する格好になっていることが否めない現在。そのような混沌を極める領域において、最先端のDXへの知見をベースに、アドテクノロジー、マーケティングテクノロジーの開発および提供を通して、クライアントの収益拡大・生産性向上を支える企業がある。
ジーニーという、誰もが聞き馴染みのある魔人の名前を冠したテクノロジーカンパニーだ。
特定のSNSやHP施策に特化したマーケティングツールは数あれど、企業は複数のツールを使い分けねばならず、データも分断されることから有効な施策に繋げることができない。
そんな課題に着目し、ジーニーでは集客から販売までのプロセスを「GENIEE」ブランドのプラットフォームで一元化。リード獲得から顧客管理、データ統合分析までの最適なソリューション提案を可能にしている。
「“世界的なテクノロジー企業”に挑戦することは、もはや自分自身の人生のテーマだと思っています」
そう話す工藤は、大学在学中にネットベンチャーを起業。大学院ではAIや検索エンジンの研究に携わり、近い将来、急速な成長を遂げることになるGoogleの論文にも触れていた。そんななかで、日本にも優秀な技術者や研究者はいるのに、なぜGoogleのような企業が生まれないのかと常々疑問を抱いていたという。
「院卒後に入社したリクルートの経営層をはじめ視座の高い方々と触れ合ううちに、私たち世代が為すべきことは、再び世界で勝てるようなグローバル企業をつくることなのではないかと考えるようになりました。それを実現するべく、アドテクノロジーをメイン事業とした会社を設立しました。テクノロジーという名の魔法のような技術を用いて、新たな価値を創造する会社。世界を変えるという想いを込めて、genius(天才)の響きと、おとぎ話の魔人の名を掛け合わせ社名としました」
2010年、独自開発のSSP・DSPでアドテクノロジー業界を席巻するジーニーが誕生した。
急成長の鍵は、熱量・視座・意識の高い人材
創業から2年後、ジーニーは事業の黒字化を機にSSPを携えシンガポールへ進出する。自社プロダクトが根付く土壌はあるのか、粘り強く現地顧客の声を聞き、改善に向けPDCAを回し続けた。日本の知見が受け入れられることを確信すると、ベトナム、インドネシア、タイに次々と現地法人を設立。国内外から広く顧客の声を聞くうちに広告だけでなく「マーケティング全体を支えてほしい」という真のニーズが見えてきたという。
包括的なマーケティング支援を展開するべく、16年にマーケティングオートメーション「MAJIN」(現GENIEE MA)の提供を開始。その後も営業管理ツール、チャット型Web接客プラットフォーム、サイト内検索ASP、データ連携機能など、積極的なM&Aによって多数のプロダクトを送り出していく。
通常1つのプロダクトの顧客数が爆発的に増えると、他のプロダクトのクロスセルが自動的に始まることから、そこで得たすべてのデータを連携させ、GENIEE全体でAIが働く仕組みを構築した。国内で唯一の国産セールス&マーケティングプラットフォーム「GENIEE Marketing Cloud」の誕生である。
こうしてジーニーはその高い技術力によって国内SaaSで一歩抜きん出る存在となる。2021年3月期から2023年3月期第2四半期決算の売上総利益は40%以上の成長を継続、23年3月期第2四半期の営業利益は4億4,000万円と過去最高益を更新した。
成長を支える原動力とは一体何なのだろうか。
「原動力、それは『人』です。当社は企業規模が拡大するなかにおいても、高い成長率を維持し続けていますが、それはグローバル企業をベンチマークとし、高い目標に挑み続けているメンバーの力によるものが大きいと思っています。当社には健全に常識を疑い、どんなに無謀と思われる目標でも、理論上矛盾がなければ達成可能だと考えるエンジニアたちがいます。良識のある大人が『無理』と言うことでも、限界を知らぬ若者が前人未到のチャレンジをしながら成功し続けているのが、ジーニーという組織です。
挑戦できる土壌があるから、そうした熱量の高い人材が当社に集まる。持論ですが、『育成とは挑戦させること』だと私は考えており、社員から出てくるアイデアで筋の良いものはどんどん挑戦させ、失敗も許容します。権限委譲による意思決定のスピード感も他社にはない特長です。ジーニーにはさまざまなフェーズの事業やプロダクトがあるので、いろんなアイデアを試すことができる。業務ごとにストレッチした目標が掲げられているので、向上心のある人にとっては非常におもしろい環境だと思いますね」
実際に、若手エンジニアの発案から生まれ、驚異的なスピードで成長したツールがある。一度は混乱状態に陥ったプロジェクトだったが、議論を重ねるうちに目立たないが確実に顧客の支持を集めている機能があることに気づいた。すぐにプロジェクトの軌道修正を試み、そのニーズに特化した開発を進めることに。同時に営業も戦略を変更し動き出す。業界のキーパーソンと関係性を築きながら、わずか1年でその分野のトップシェアとなるツールに育て上げた。
「壁にぶつかると、すぐにプロダクトとビジネス両部門の幹部が集まり、どちらで突破口を開くべきか議論を交わします。そして状況に応じて最善のフォーメーションを柔軟に組み、見えた勝ち筋に徹底的にフォーカスする。この組織文化と熱量の高い『人』が、当社の成長の原動力なのです」
誰もがマーケティングで成功できる世界に
創業以来、経営計画を実現させてきた工藤率いるジーニー。今後3年間で組織規模と利益が現在の倍以上になると予想し、長期ではさらなる事業領域と提供地域の拡大を視野に入れる。「私たちは何がしたいのか、今の事業でどんな世界を創りたいのかを、今回改めて自問自答しました。その過程で、本来テクノロジーの力で幸せにするべき人たちが、テクノロジーの進化の早さに取り残されているのではないかと感じたのです。高いリテラシーがなくとも、良いプロダクトを作ればたくさんの人に届けることができる、人に優しい仕組みをつくりたい。その想いを込め、『誰もがマーケティングで成功できる世界を創る』というビジネスパーパスを定めました」
人に優しい仕組みの視線は、ツールの使いやすさのみならず、顧客データ活用とプライバシー保護の両立に関しても向けられている。企業マーケティング支援の一大プラットフォーマーを目指すにあたり、市場や業界団体、顧客の声に耳を傾けながら、ルールづくりの検討を進めていくという。そして、誰もがマーケティングで成功できる世界を今後10年で一層広げるため、コーポレートパーパスを「日本発の世界的なテクノロジー企業となり、日本とアジアに貢献する」と定義した。
「日本とアジアのモノの行き交いをジーニーのプラットフォームで活性化し、汗を流してものづくりをしている本当に付加価値を生み出している人たちにこそ、利益が生まれる世界を実現したいです。その足がかりとして、まずは世界の広い範囲で受け入れられる、グローバルニッチトップを獲れるプロダクト開発に注力していきたいと思っています」
工藤には険しくも到達可能な世界的テクノロジー企業への道筋が、鮮明に見えている。
工藤智昭◎ジーニー 代表取締役社長。早稲田大学大学院(理工学研究科)卒業後、リクルート(現 リクルートホールディングス)に入社。事業開発室にてアドネットワーク事業推進を担い、リクルートの広告を起点として、日本最大のエリアアドネットワークの構築を手掛ける。2010年4月にジーニーを設立し、現職。