BMWが掲げる新しい時代のラグジュアリーにおけるキーワード「FORWARDISM」。Forward=前進する、Ism=主義をかけあわせた造語に、新時代に向かって挑戦し続ける姿勢や、誰も見たことのない新しい時代と向き合おうとする態度を持つ、そんな未来を切り拓く人々と共鳴していきたいという思いが込められている。11月15日に東京・六本木 国立新美術館で開催された2台のフラッグシップモデルのジャパンプレミア。そこではTHE i7とTHE X7がお披露目され、“WELCOME TO FORWARDISM”というメッセージが来場者を迎えた。このFORWARDISMというコピーを冠せられたBMWの新型7シリーズのコミュニケーションを通じて、BMWはどのように時代の扉を開いていこうとしているのか。遠藤克之輔BMWジャパン ブランドマネジメント本部 本部長に聞いた。
──新しい時代のラグジュアリーを切り拓く。特に若い富裕層との共創を意識されているということでしたが、まず若い富裕層とはどのような方を指すのでしょうか?遠藤克之輔(以下「遠藤」):若い、とは決して年齢のことだけを言っているわけではなく、30代のスタートアップの方や40代の経営層の方などにとどまらず、先進的に前を見る姿勢をお持ちの方々を考えています。FORWARDISMというコピーが代表するように、常に未来を見ているとか、自分に対して挑戦をし続けるとか、新しいことに対して取り組もうとするマインドを持っている方々、という意味で“若い”という言葉を使っています。
ですから、BMWの既存のお客様のなかでも、こういう価値観で未来や誰もやったことのないことに挑戦するという心を共有している方は、今後われわれが取り組んでいく新しいラグジュアリーマーケティングのメインのターゲットと言って差し支えないと思います。
──ミレニアル、そしてZ世代の成長がラグジュアリーマーケットの変容を促すなかで、BMWさんが新しいラグジュアリーを創造しようとされていることは非常に興味深いトピックです。その全体像を順をおってお伺いしていきたいのですが、BMWではどういった車種がラグジュアリーマーケットに該当すると定義されていますか?遠藤:車のセグメントというところで言えば、やはりフラッグシップの7シリーズ、そして先日、11月15日に国立新美術館でも発表した i7、X7、そして来年にかけてはXMという新しいラグジュアリーSUV、それにMですね。こういったところが一つの塊になります。
そして車寄りではなく新しいラグジュアリーということでお話しすると、冒頭でご説明させていただいた若いマインドセットを持っている方が指向するところでもあると思いますが、例えばサスティナブルへの意識、関心の高い方がそれに該当します。また、ただ車を入手して満足することよりも、より精神的な充足や周りの人や社会のために車を選ぶ方。お金で得られない価値に重きをおき、かつ自分自身で価値を見出していくことや、挑戦すること。そういう考えを一緒に共有できるような価値観を持っている方と取り組んでいくのが、今後のBMWのラグジュアリーマーケティングです。
遠藤克之輔BMWジャパン ブランドマネジメント本部 本部長──なぜ、新しいラグジュアリーを定義する必要があったのか。BMWさんのお考えをあらためてお伺いできないでしょうか。遠藤:BMWが持っている内部的な価値観と、世の中で起きている外部環境への意識の2つの側面があります。まずBMW自身の部分で言えば、ドイツの本社および全世界的にもサスティナブルということに取り組んでおり、この価値観をラグジュアリーの定義に取り入れていくことは避けて通れないことだと考えています。
また外部環境の面では、富裕層のお客様自身も消費をするということだけではなく、自分たちが世の中にどんな貢献ができるのかを探していらっしゃいます。かつ、自分たちで何かを生み出して体験していくということに価値を感じる方が増えてきたと感じています。それは日本だけでなく世界的な傾向として言えることで、未来に向かってどう取り組んだらよいのかという社会の変化に対してBMWではFORWARDISMという概念を打ち出し、ブランド自身も本来持っているこの価値観を中心にラグジュアリコミュニケーションを行っています。
──遡れば1980年代のノイエ・クラッセなる、当時マーケットになかった中型セダンの開発や、電気自動車へのいち早い取り組み、自動運転車の積極的な開発など、BMWさんは新しい価値を創造することに積極的だったように思います。さて、11月15日の国立新美術館でのジャパンプレミアでは、遠藤さんからこのFORWARDISMというキーワードのご説明がありましたが、そのなかで新しいラグジュアリーはお客様との「共創」であるという言葉が印象的でした。Forbes JAPANでもしばしば新たなビジネス、新たな価値の創造における「共創」の取り組みを紹介してきましたが、この「共創」という発想はどこから生まれたのでしょうか?遠藤:BMWが持つ本質的な価値観を最もよく感じていただくためには、ただブランドが提供する何かにご参加いただくだけではなく、お客様と共通する価値観を発見し、そしてそれらを一緒に体験していくというアプローチが最適だと考えたからです。
我々は今年、“JOY MOVES ME”というキャンペーンを年間を通じて行っております。そこで5千人以上の方にBMWの価値やBMWの好きな所をインタビューして教えていただきました。すると、我々のスローガンである“駆けぬける歓び”ということのほかに、BMWで家族や友人とドライブした記憶やBMWで移動した先で過ごした時間といった、車の周辺にあるライフスタイルや人生の思い出に残る歓びを挙げていただくお客様がたくさんいらっしゃったのです。
つまり、BMWというブランドを運転したり所有することだけではなく、お客様がBMWと一緒に人生を楽しむ歓びこそを本質的な価値と捉えていただいていることがわかりました。私たちに必要なのはお客様が志向される価値観とBMWが提供できる価値が出会うポイントをしっかり把握し、それを一緒に体験し、ともに創り出していく、そうすることがお客様にBMWの価値を本質的にわかっていただけるアプローチなのではないかと考え、共創というクリエーションの考え方にたどり着きました。
──共創の具体的なアイデアはもうお持ちなのでしょうか?遠藤:はい、お客様と価値観を共有するための、エクスクルーシブなメンバーシップを立ち上げました。まだ名前は決まっていないものの、未来的なことに一緒に取り組み挑戦していく、そんな体験に興味をお持ちいただいたメンバーを募っており、現在Webサイトからお申込みいただけるようにしています。
このメンバーシップクラブでは、例えばこのような取り組みをすることを考えています。メンバーがBMWに乗って遠方へ行き、有機野菜の野菜を育て、収穫し、それをミシュランシェフにレシピを教えていただき自分たちで調理してみる。国内外の特別なアートやファッション、音楽の特別なイベントへ一緒に参加し、そこで得た体験を皆で語り合ったりネットワーキングを行う。ただクルマに乗るだけでなく、そこで自らの手でも何かを生み出し、そして体験する。こうした体験を食やアートなどさまざまなライフスタイルの分野において創造するクラブコミュニティーを準備しています。
新しいラグジュアリーの共創におけるキーワードは5つ。インディビジュアライゼーション(個人への最適化)、サスティナビリティ、デジタル化 VS オフライン、カジュアル化とストリート化そして、ウェルネス、マインドフルネス。また彼らが集うことができる場所も作ります。来年の春には東京にこのコミュニティーを体験できるオフラインのタッチポイントができる予定です。名称は検討中のため仮にブランドストアと呼びますが、このブランドストアでは車の販売は行わず、ファッションやアートや音楽といったカルチャーに関連して、BMWと一緒にメンバーの皆さまがさまざまなイベントやコンテンツを共に創造するのです。このクリエイションを通じてFORWARDISMとはどういうことかを模索し、未来に対して多様な挑戦を行う、そんな過程を体験していただける場所となります。ブランドとお客様がどんなことを世の中に発信していけるのかということを見つけていく場所なのです。
──歴史を遡れば1800年代の後半には、パリのカフェに画家や音楽家が集い、そのコミュニティーのなかから新しい才能が生まれてくるということもありました。そんな文化の胎動と呼ばれるようなことを、新しいラグジュアリーの共創という観点から、現代らしい姿で生み出そうとしているのでしょうか。遠藤:私の個人的な考えでは、現代におけるサロンになると良いと思っています。若い音楽家が集まってコンサートを開いたり、ストリートでアートを展開している方が個展を開いたり、インパクト投資に積極的な経営者がピッチをしてファンドを募ったり。活躍するフィールドを問わず、未来に対して挑戦する方が集まるコミュニティーにするべく、検討を重ねています。そしてこのコミュニティーにおいてさまざまな体験をメンバーの方が重ねた先に、これも私の個人的な夢ですが、いつか車を一緒に作ってみたいという思いがあります。
過去にBMWでも日本の伝統工芸職人の方と一緒に車を作った例がありますが、さらにこれからの未来、どのような車が生まれてくるのか予測もできないなかで、FORWARDISMというキーワードをお客様とともに探求した先に、どんなモビリティが考えられるのだろう。想像を巡らせては楽しみにしています。
誰も見たことのないこと、したことのないものを体験する。その歓びを感じていただきながら、一緒にクリエイションを行う。BMWが継続的かつ本質的にやってきたことをお客様にも感じていただきながら、将来的にはこの新しいラグジュアリーを創造するという挑戦を通じ、多くの日本の方々にBMWとは新しい価値を想像していくブランドなのだということを知っていただきたいと考えています。