後編では、天城未来デザイン会議を主催した狙いについて、 IBM Future Design Lab. 藤森 慶太に話を聞いた。
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なぜIBMは未来を語るのか
IBMが各界のさまざまな人を集めて未来を語るというのは、今回の天城未来デザイン会議が初の試みではない。IBM Future Design Lab.では「テクノロジーがもたらす新しい社会のあり方をともに考え、共創し、発信する」を理念に、各界で活躍中のオピニオンリーダーたちとの交流や対話をいろいろなかたちで進めている。そこにはどのような理由があるのだろうか。
テクノロジー企業であるIBMは多くの社会変革をしてきた。しかし、その一方で、テクノロジーを進化させる裏側には歪みも出てくる。つくったテクノロジーが必ずしも人類にとっていい方向に持っていくとも限らない。
そこで、テクノロジーの本当に正しい使い方や、未来に求められるテクノロジーについて考える責任があり、その活動の一環としてさまざまな分野の専門家と、未来はどうあるべきかを意見交換し、発信し続けているのだ。
そのひとつとして、オンライン座談会形式のYouTubeライブ配信企画がある。“オニが笑うほど”未来を語り合い、考え、行動に起こす場、『オニワラ!「鬼と笑おう」未来をつくる座談会』だ。
2020年12月から行われており、これまで、商業施設パルコ×浜松市×IBMによる「お手元商圏/エンゲージメント商圏」や、日本テレビ×スタートアップShiftall × IBMによる「ニューノーマル時代のファンエンゲージメント」など、さまざまな切り口で展開。このオニワラ!に参加したことのあるメンバーを中心に、はじめて対面で行われたのが今回の天城デザイン会議だ。藤森慶太は、次のように語る。
「あらゆる産官学の人間が集まり考えるだけではなく、本当に行動を起こしていくためのスタートにしたいと考えていました。世の中に影響力をもった人たちの力が組み合わされることで大きな力へと変えるキッカケをつくっていける。今回だけではなく、これからもいろいろなかたちでやり方を変えて、行動し続けていけば、いずれ点が線でつながっていくと考えています」
Well-beingを議論するための3テーマ
今回のテーマは「暮らし方」「働く」「消費」。今回の試みは、2035年の時点において、自分たちのWell-beingを議論することでもあったが、ダイレクトに「幸福」とした場合、議論が分散すると考え、Well-beingを構成する要素を整理。
幸福を実感する体験への直結性と将来的にテクノロジーの関与が高まる領域という観点から、人々の「暮らし方」の視点、個人と企業の契約の基盤となる「働く」の視点、そして、コロナ禍で経済的にも社会的に大きなインパクトを生み出し続けている「消費」の視点、この3つから未来を展望することを決めたという。
「命を守るために経済を止めるか、それとも命を顧みず経済を進めるか。もし、このテーマで5年前に話し合ったら、おそらく誰もが命を守る、を選んだでしょう。しかしコロナ禍でどうだったのか。経済に毒されているいまの社会には消費がその根底にある。『働く』と『暮らし方』はWellbeingに寄っていくものなので、あえて『消費』も入れて考えるべきと考えました」
藤森が参加した「働く」をテーマとした分科会では、働く単位、報酬の基準、やりがい、休むの定義など、参加者からさまざまなキーワードが出されて語り合うなか、「働くということは喜ばせ合戦である。人を喜ばせることで対価をもらうのが働くこと」という言葉が出てくる。
それに続いて出てきたのが「利他的自己中心」。さらには、日本で浸透している「サービスはタダという感覚」について話が及ぶ。喜ばせ合戦なのに、受け取る側が過剰なサービスを当然ととらえる結果、提供する側はつらくなる、という点を問題点としてあげる。
「いままでの1人が供与し1人が受けるのではなく一緒につくっていく。供給側のある種のロマンティシズムに共感できる人が、そのサービスを受けるかたちで一緒につくっていくことができれば」と、新たなサービスの概念の提案も飛び出した。
また、現代は「お金」がもつ価値だけが重すぎることに論点が移行。将来はスキルや時間などもお金と同等に評価されるような新しい価値観が必要ではないか、地域との絆やグループの帰属意識、自身の健康、自然に対してなど、自分たちを示す価値観を可視化していくことが必要だという話も盛り上がった。
何かコミュニティに参加したとき、資本家が偉いという風潮をなくしていきたい。「私、お金しか出せなくてごめんなさいね、という感覚まで振り切れたら、もう少し世の中バランス取れるのかなと」としみじみ納得するシーンも見られた。
未来に向けて新たな提案として上がったのが、その名も「ベーシックキャピタル」。国から1人10万円支給されたら、それをすべて投資に使うという国民全員参加型循環経済を提案し終了となった。
最終発表を聞いて藤森が思ったのは、テクノロジーありきの未来ではなく、人としての在り方が主となったこと。「本当の意味での幸せに、テクノロジーはあまり関係ない。テクノロジーにより労働者不足など物理的な問題は解消されますが、それよりも、暮らしやすい、働きやすい社会の価値観をリビルドしていくことが、これからは重要ではないかと思っています」
若い人たちも巻き込み大きなうねりに
天城未来デザイン会議を終え、藤森に今後の展望を聞くと、ここを出発点とし、大きなうねりを作り出していくことが課題だという。「強い危機感と、変えようとする未来に共通点がたくさんあるのに、参加者がバラバラで活動するのはもったいない感覚。皆さんのエネルギーをどのように大きなうねり、転換できるかということは、いま一生懸命考えています」
今後も、天城未来デザイン会議は継続して開催される予定だ。よりよき未来をつくるためのムーブメントを起こすため動き始める天城未来デザイン会議、そしてIBM Future Design Lab.。
彼らが生み出すアイデアや提案、選択肢に今後も注目していきたい。
サポートスタッフも含めた参加者全員での集合写真。この時間だけ富士山が顔を出し、未来デザイン会議がこれから生み出していく力を感じた瞬間でもあった。
新たなビジネス創出を推進するIBM Future Design Lab.
IBM Future Design Lab.では、これまで蓄積してきた見識や洞察を業界の第一人者との対話や事例を交えて発信。また、テクノロジーの活用支援やオープンイノベーションなどを通じて、スタートアップと共に新たなビジネスを創出している。
取り組みのひとつである「オニワラ」は、鬼を笑わす勢いで思いっきり未来を語る座談会だ。
IBM Thought Leadersが発信するテーマから注目のトピックを毎回抽出し、トピックに関わる第一人者、自治体の方などを交えて座談会を実施している。
そして、2022年9月より始動した「TaMaRiBa」。今後の日本を担うスタートアップや大企業の新規事業をつなぎ、加速させる。そして社会課題を解決していく、そんなビジネスコミュニティの創出を目指している。
技術を、課題を、夢を、悩みを、野心を持ったビジネスマンたちが創造のために集う。そんなワクワクするコミュニティが始まろうとしている。
藤森 慶太◎日本アイ・ビー・エムIBMコンサルティング事業本部戦略コンサルティング&デザイン事業担当執行役員・シニアパートナー。2008年、日本IBM入社。企業における経営管理、ファイナンス戦略、事業戦略、モバイル・デジタル戦略の策定から実装まで、幅広い経験をもつ。米IBM本社ファイナンスにおいてグローバル事業計画策定を経験。国内ではファイナンス・ストラテジー・リーダー、通信・メディア・公益サービス事業部長、モバイル事業部長、インタラクティブ・エクスペリエンス事業部長を経て、現職。さまざまな業界・業種にてファイナンス、テクノロジー、UXを起点とした事業・業務変革を支援
IBM Future Design Lab.
https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/ibm-future-design-lab/
オニが笑うほどの未来の社会を語る「オニワラ」
https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/oniwara/
日本IBM
https://www.ibm.com
▶ 前編|ウェルネスな未来を迎えにいく「天城未来デザイン会議」 次世代有識者の輪が広がり、うねりを生み出していく