1899年の創業以来、数々の日本初または世界初の技術革新やイノベーションの歴史を積み重ねてきたNECは現在、「Orchestrating a brighter world」というメッセージを掲げて社会ソリューション事業を強力に推進している。そのなかでも、NECならではの先進的な技術や知見を活用し、社外の人々とも協奏しながら新たな価値提供を図っている事業のひとつが「観光DX」だ。
2022年9月15日、虎ノ門ヒルズフォーラムで「持続可能で賑わいのある地域づくりを実現する観光DX」と題したフォーラムを開催。ファシリテーターは、Forbes JAPAN執行役員 web編集長の谷本有香が務めた。
いまこそ、業種を超えて地域が一体となったDXの推進を
開会の挨拶に続き、NECのクロスインダストリー事業開発部門で観光DXに従事する山本啓一朗が壇上に立った。彼は、NECが観光DXに取り組んでいる背景から語り始めた。
ひとつのデータがある。国交省による「スマートシティの実現に向けたニーズ提案募集」の結果だ。新技術による解決を目指す都市・地域の課題で、「観光・地域活性化」は「交通・モビリティ」に次いで2位となっている。
出典:「スマートシティの実現に向けたニーズ提案募集結果(2)新技術による解決を目指す都市・地域の課題のテーマ」 国土交通省都市局 を元に作図
観光を起点にする、あるいは観光資源を有効に活用することで成し遂げられる地域活性化は、スマートシティの実現に欠くべからざるものと捉えられているのだ。
「いま、個別事業者によるDXではなく、さまざまな領域や業種を超えて地域が一体となったDXが必要とされています。それが、NECの考える観光DXです。旅行者・住民双方に満足度の高いデジタルサービスを提供していきます。また、データ活用によるマーケティングや観光産業経営の高度化をAI技術などで支援し、地域の好循環モデルを実現していきます」(NEC 山本啓一朗)
NECが推進する観光DXは、領域や業種を超えたオープンイノベーションで進行している。その具体例として挙げられるのが、スマホアプリのLINEを活用したNECのDXサービス「FORESTIS」である。
NECは22年6月、観光DXの推進、持続可能な観光地域づくり、国内外の観光客をはじめとする交流人口の拡大を推進し、「アジアNo.1の国際観光文化都市・大阪」の実現を目指して、公益財団法人大阪観光局と連携協定およびゴールドパートナー契約を締結。同年7月から三重県伊勢市と「まちの活性化に向けた観光DX実証事業」を開始している。タイムアウト東京と共同で開発したLINE公式アカウント「Desika:伊勢でしか」「Desika:大阪でしか」を立ち上げ、タイムアウト東京が制作したガイドコンテンツ「伊勢市駅周辺でしかできない50のこと」「大阪でしかできない101のこと」を展開している。
「Desika」は、地域内の探索と発見をサポートするコミュニティアプリ。チャットボットでの会話機能などを通じ、その時間その場所でしかできない体験の情報を利用者に伝える。
「ほかにも、宇都宮餃子会のLINEアプリ『コレメッケ 宇都宮』と連携してチャットボット形式でユーザーの関心や位置情報を取得し、おすすめ情報を配信する取り組みなども行っています。これから先の日本においては、スマートシティや観光に関わるさまざまなプレイヤーが共創し、『社会実装を加速するエコシステム』を形成していくことが重要です。21年1月に産官公学の連携に向けた『NEXTOURISM(日本地域国際化推進機構)』を共同で立ち上げるなど、新たな観光戦略やソリューションを生み出す取り組みを、その環境づくりから行っています」(NEC 山本啓一朗)
課題を洗い出し、観光DXを通して、かつてないレベルの地域経営へ
続いて行われたのは、有識者による講演とパネルセッション。講演は、以下の内容にて行われた。
講演1
「万博後を見据えた大阪経済発展について」
公益財団法人大阪観光局理事長 溝畑宏
講演2
「観光DXで手にする地域の成長と未来」
ORIGINAL Inc.代表取締役 タイムアウト東京代表 伏谷博之
講演3
「日本の観光業界を取り巻く課題とDXの可能性」
TOKI代表取締役 稲増佑子
元観光庁長官でもあった溝畑は、「観光とは地域の総合的な戦略産業。観光とは地域の成長産業の司令塔なのです。常に明るい未来像を語ることが大事。リスクを恐れず、常に時代の先を行く精神が大阪にはあります。大阪では『住んで良し、働いて良し、学んで良し、訪れて良し。世界最高水準・アジアNo.1を目指す』というスローガンを掲げて、2030年までのロードマップを描いています。アジアの玄関口としての都市機能を強化していきます」と述べ、「観光を通して、ともに日本を変えていきましょう」と聴衆を鼓舞した。
観光庁アドバイザリーボード委員なども務めた伏谷は、「いま、観光資源の磨き上げ・高付加価値化が叫ばれていますが、『地域での滞在体験』が大事だと私は思います。滞在体験が貧弱であれば、観光消費は伸びませんし、リピーターも増えません。豊かで満足度の高い滞在体験を実現することが大事なのです。従来の観光産業の成長だけでなく、地域産業と観光の掛け合わせによって『観光新時代』を実現しなくてはなりません。例えば、農業×観光、漁業×観光など、豊かな地域社会を実現していく過程において観光DXの活躍の場があります。観光DXをベースに置いた地域経営の実現が求められています」と説いた。
インバウンド文化体験サービス、旅行手配業務SaaS Travesensを展開する TOKIの稲増は、「これからは海外の富裕層に向けたハイクオリティなエクスクルーシブツアーやイベント、文化体験の企画・提供を行うことが必要。海外の富裕層は普通のホテルやレストランではなく、知る人ぞ知る場所での特別な体験を求めています。そのようなハイエンドな顧客がいるのに対し、まだまだ日本には旅のキュレーター、現場のガイドが足りていない状況なのです。そのような人材をリクルーティングし、育成していかなければなりません。この10月からインバウンドが復活する見通しがありますが、人材不足という大きな課題があるなか、DXの可能性に頼らざるを得ません」と先行きを示した。
左から、NECクロスインダストリー事業開発部門長の水口喜博、大阪観光局理事長の溝畑宏
この溝畑、伏谷、稲増にNECクロスインダストリー事業開発部門長の水口喜博を加えた4名で行われたパネルセッションのテーマは3つ。ひとつめのテーマ「観光における地域の課題とは」からトークラリーが始まった。
元観光庁長官としての経験や知見を随所に織り交ぜながら、「横串が大事。それにはいろいろな産業が連携し住民も参加するフレーム、都市政策と交通政策に理解のあるプラットフォームが必要なのです」と熱弁したのは溝畑。
伏谷は、「いま、観光の定義が変わってきているなか、自治体においては観光課に任せるのではなくて首長が熱意をもって取り組んでいく必要があります。グランドデザインの必要性です。ニーズの多様化が進み、ビジネスオポチュニティはあっても、それに対応するためのリソースが人材も含めて足りていない現状をどうするのか。DXを活用しながら、こうしたミスマッチへの対応をしていかなければならないのです」という課題感を共有してくれた。
溝畑は公益財団法人大阪観光局との連携協定で、伏谷と稲増は日本地域国際化推進機構のメンバーとして、NECとは共創関係にある。和やかなムードを基調としながらの熱い意見交換は、ふたつめのテーマ「いま必要な観光DXとは」へと進展していった。
「これからインバウンドが日本に戻ってくると、オーバーツーリズムの問題も同時に戻ってくるでしょう。コロナ禍で弱ってしまったコンテンツを元の状態に戻すのも大変です。優良なコンテンツで勝負していく必要がありますが、そもそも優良なコンテンツとは何かという定義も難しい。これからはDXというツールを人材育成だったり、優良なコンテンツの評価にも使っていきたいですね。情報の集約と展開、クオリティコントロールにおいてDXは欠かせないでしょう」と稲増は提唱した。
「外国から訪れる人たちの目的や旅のスタイルが多様化していくなかで、どうやって接客していったらいいのか。そうした問題に対しては、メタバースの空間を使って接客の訓練をしていくといったことも考えられます。すべてにおいてリアルなOJTでやっていかなくてもいいのではないか。いま、『DX』という言葉があまりにもバズってしまっているがゆえに、世間一般で考えられている『DX』のイメージがステレオタイプ化しているところもあります。観光客の体験においても、それを受け入れる側の教育においても、いまのデジタルの技術を使うともっと刷新していける部分があると考えてます」という希望を伏谷が語った。
最後のテーマは「観光を軸とした地域経営とは」。
「地域の住民たちが自分たちの資源を掘り起こしてブランディングをする。イマジネーションが働く人材、遊び心がある人材を取り入れながらマーケティング、ブランディングをしていく。経営者を定めて責任の所在をはっきりとさせる必要があります。富裕層の顧客リストをもち、しっかりと受け入れ環境をつくる。そのための高度な専門人材をいかに確保するか。経営という視点をしっかりと有しながら、高度な専門人材を投入していく。感性、アート、デザインの高度人材に対してサラリーを上げて組織をつくり、そういう経営モデルを生み出すことが大事なのです」と溝畑は指摘する。
最後にNECの水口がパネルディスカッションを受けて想いを語った。
「いま、NECが伊勢市などで提供しているLINEを使ったサービスには宿泊、交通、飲食といった観光資源の要素が分断されがちだったところを一貫して見ることができるという有益性があります。そして、事業者の皆さんは観光客の行動データを今後のマーケティングに活かすことができます。行動の可視化は人材育成にも活かせる部分があり、業種をまたいで連携していくという部分にも貢献できるのです。今日のパネリストの皆さんのお話をうかがっていると、ICTと観光が密接になることによって観光DXが成し遂げられると強く感じました」
左から、ORIGINAL Inc.代表取締役の伏谷博之、TOKI代表取締役の稲増佑子
壇上と聴衆席も共鳴し、これから観光DXが加速することを予感させた
本フォーラム「持続可能で賑わいのある地域づくりを実現する観光DX」には、スマートシティ/観光DX/観光を軸とした地域経営の領域におけるリアルプレイヤーが聴衆として参加していた。しかし、単に聴いて終わるだけではなかった。
有識者による講演とパネルセッションの後には、聴衆席のテーブルごとにグループディスカッションが行われた。NECの社員がテーブルファシリテーターとして各テーブルに混ざり、ホワイトボードには「講演およびパネルディスカッションの感想」や「自身の会社で取り組んでいること」が書き込まれていった。
そのグループディスカッションで意見が交わされている様子は、溝畑がパネルセッションで語った「いろんな産業による連携」を想起させるものだった。有識者による講演とパネルセッションだけでなく、このグループディスカッションも熱かったのだ。ディスカッションによってもたらされた気づきも各組織の普段の事業にフィードバックされていくのだろう。
グループディスカッションにはパネリストへの質問をテーブルごとに考える時間もあった。白熱のグループディスカッションが終了すると、再び有識者(パネリスト)が登壇。ここからは質疑応答が開始された。溝畑がパネルセッションで語った「都市政策、交通政策に理解のあるプラットフォーム」について、さらに真意を尋ねる質問がなされるなど最後まで会場は熱気に包まれていた。
その熱気とはつまり、「観光DX事業」や「観光を軸とした地域経営」への期待や決意の総和だ。今回のフォーラム「持続可能で賑わいのある地域づくりを実現する観光DX」が起点となり、また新たな取り組みが日本全国で始動するに違いない。まさに「Orchestrating a brighter world」。そう思わせてくれるフォーラムだった。
NEC Visionary Week 2022
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