そのお披露目として、5月27日には一般公開に先駆け、東京・六本木ヒルズのヒルズカフェ/スペースにて完全招待制のレセプションを開催。森美術館特別顧問・南條史生とGMOインターネット代表取締役グループ代表の熊谷正寿によるトークショーでは、「街を走るアート」が現代において果たす役割について語られた。
ジェフ・クーンズの作品もディスプレイされた、華やかでラグジュアリーなムードに彩られた会場は、数多くのセレブリティや経営者で賑わい、ビジネス界におけるアートへの関心の高まり、BMWが作り出したアートカーへの興味の高さを感じさせる場となった。
TOKYOを代表するファッションアイコンとして、モデル、DJ、クリエイティブ・ディレクターとしてマルチな才能を発揮しながら世界を飛び回るツインズユニット「AMIAYA」のふたりも来場。
ジェフ・クーンズの代表作も展示され、文字通り会場を鮮やかに彩った。
シャンパングラスを手に、来場者は華やかなVipレセプションを楽しむ。
満員の会場では、華々しく「THE 8 × JEFF KOONS」アンヴェイルのセレモニーが行わる。車体を包む白いヴェイルが引き払われたそのアグレッシブなデザインに感嘆の声が湧き上がる。
アンヴェイルの瞬間。期待に満ちたまなざしが「The 8 X JEFF KOONS」に降り注ぐ。
ジェフ・クーンズが込めた思い
ジェフ・クーンズはこのクルマを制作するにあたってこのように述べている。少し長くなるがアーティスト本人による貴重な言葉なので、引用したい。
「BMW 8シリーズは、私の夢がつまったクルマです。本当に特別な経験でした。BMWの特別仕様車をデザインすることは、長年の夢だったのです。スポーティで華やかでありながら、ミニマリストでコンセプチュアルでもあります。
このクルマに乗って運転するのが待ちきれません。私と同じように、このグラン クーペで歓びを感じてもらえたら嬉しいです。クルマのラインは、ボンネットからトランクに伸びるにつれて大きくなっており、『POP!』や蒸気推進力のデザイン・エレメントと同様、前進運動の感覚を生み出しています。ブルーは果てしない大宇宙を想像させますが、グローバル・カーであるという、このクルマのアイデアが私は気に入っています。
躍動感を強調し、ポップアートの言語で彩られたアートカーの全貌が明らかに。ベースとなっているのは、BMW M850i xDrive グラン クーペ。
大切なのは、人と人との関係性や、自分を取り巻くすべてのものへの意識です。ドライバーと同乗者全員の歓びが高まっていくようなクルマを目指しました。」
クーンズの言葉のなかで興味深いのは「このクルマに乗って運転するのが待ちきれません」という一節だ。「THE 8 X JEFF KOONS」はコレクターのガレージに収まるのでなく、ミュージアムに陳列されるのでもない。このクルマは街を走り、運転者や同乗者に歓びを与える存在だとクーンズはいう。
センターコンソールには、ジェフ・クーンズ本人のサインが記されている。
さらに彼の言葉を解釈するなら、ポップでエネルギッシュにデザインされたこのクルマが街を走る姿を見やる人々にも、そのパワーを訴えかける存在でもある。
アートに造形の深いふたりが語る
そんな「THE 8 × JEFF KOONS」を前に、レセプション会場ではトークショーも開催された。登壇するのはアートに造形の深いふたり。森美術館特別顧問・南條史生とGMOインターネット代表取締役グループ代表の熊谷正寿。引用したジェフ・クーンズの言葉を踏まえながら、ふたりが語る言葉をたどってみたい。
左が森美術館特別顧問の南條史生、右がGMOインターネット代表取締役グループ代表の熊谷正寿。
アートコレクターとしても知られ、自らのオフィスにも多くのアート作品を飾っている熊谷は、ジェフ・クーンズに強い関心があったという。
「ニューヨーク証券取引所の周辺で仕事をしていたり、絵画を学んだ子供の頃には著作権が切れた絵をコピーして、それを販売してお小遣いにしていたという逸話もあります。マーケットのことや経済のことを非常によく理解しているアーティストである。彼の人生を知るにつれて、ジェフ・クーンズというひとは本当にすごいビジネスマンだと思います」
そんなクーンズと、あるコレクターの別荘で一週間ほどともに過ごしたことがあると語る南條は、彼を評してこう語る。
「ジェフ・クーンズはいまアメリカを代表するポップアートの旗手。私の個人的な体験からは、非常にナイーブな人で、変に戦略を巡らすこともなく、嘘もないストレートな人物であると思っています。今回のこのアートカーでも、ものすごくストレートにアメリカのポップアートの典型的なボキャブラリーを使っている。ジェフ・クーンズらしい作品ですね」
最高峰のアートを目の前にしたふたり。話題はやがてビジネスとアートとの関係へ。アートが社会のなかで求められ始めていること、アートとビジネスの関係が見直されていることの背景を、南條と熊谷が語る。例えば、アートの力がどうビジネスに影響するか。
アートへの造詣をベースにした深い洞察で、アートとビジネスの関係を語る南條。
「私が思うに、いま日本の経済が落ち込んでいる。そのなかで、新しいアイデアや自由な発想というものが生まれにくくなっている。そんな中でアートをどう使っていくかが重要です」(南條)
アートがビジネスにもたらす力
さらに、アートの力が見直されるようになったのは、時代背景とテクノロジーも追い風となっていると熊谷はいう。
「インターネットがアートに影響を及ぼしていると考えています。なぜなら、ネットの時代というのはイコール共感の時代。共感はテキストじゃなくて、ビジュアルで得るもの。そんないまアートが重要視されているのはインターネットと強い相関関係があると思います」
そんな熊谷の言葉にうなづく南條。インターネットが生み出したあらたなカテゴリーであるNFTもまた、新しいアートを生み出すかもしれないと期待感を語った。また、熊谷はいまインターネット業界で求められるSTEAM人材の「A」が「Art」のAであり、実際にGMOでもアート志向の人材を積極的に雇用しようとしていると話す。それにより、GMOもまたアーティストともに共感を作っていくグループにしたいのだという。
アートコレクターとして知られる熊谷も、インターネットという自らの主戦場におけるアートへの示唆に富んだ言葉を紡いだ。
南條は、アートのひとつの側面が問題提起であることから、アーティストがスペキュラティブデザインに繋がる道筋を示す。
「スペキュラティブというのは先に問題提起することから始めますよね。デザインは通常問題解決のためのツールとして使われますが、ここではデザインすら問題提起になる。すると解決のための暗黙のルールさえ疑ってかかる、またはルールからはみ出す態度を形にするようなアーティストが活躍し始める。そういう人たちが新しい技術を可能にしていくわけです」
そのために必要なことは、教育のなかにアートを組み込むこと。さらに、もっと人々がアートに触れ、アートについて語る機会を増やすことだと南條は続ける。多様性の時代のなかで、違うものを受け入れるフレキシビリティは、そういうアート志向の態度から培われるものだと主張する。
そして、アートに人々が触れるきっかけを増やすにはどういうかたちがあり得るのか。南條はいう。
「私の知り合いの美術館の館長がね、もし、アートがみんなに楽しまれるという理想を追求したら、という話をしていたんです。そんな理想の形とは、アートがみんなの家の中にあり、みんなの社会の中にある。すると、美術館はやがてなくなる。それが理想だと。その話から考えると、例えばアートが“THE 8 X JEFF KOONS”のようにクルマになって走り回っている社会というのは、街じゅうが美術館ですよね。いまの日本にはこういう発想が必要なんじゃないかという気がしています」
そしてこのようなクルマを世に送り出したBMWの取り組みに、熊谷は称賛を惜しまない。
「BMWさんがアートカーを作っていることは、過去のウォーホルの作品で知っていました。車とアートを繋げる取り組みを、そのずっと前から続けてきた企業姿勢は素晴らしいと思います。というのも、やっぱりいつの時代でもアーティストには初期の段階では後援する存在が必要なので。BMWのアートカープロジェクトは、企業がアーティストを支援する最高の事例です。GMOでも頑張ってアーティストの応援をしていきたいと思います」
世界に99台存在するこの「THE 8 × JEFF KOONS」。街を走るアートが社会にどのように力を及ぼしていくのか。新たな時代へと駆け抜けるアートカーをこの目で見る日を心待ちにしたい。