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2022.05.23

南壮一郎×綱場一成|企業規模を問わず人材の流動性が高まるなかで──人生100年時代を生き抜くため、社会に求められるもの<FUTURE meets FUTURE #2>

神奈川県藤沢市に位置する日本最大級のサイエンスパーク、「湘南ヘルスイノベーションパーク(略称:湘南アイパーク)」。2018年4月に設立されたこのサイエンスパークには、次世代医療、AI、ベンチャーキャピタルから行政まで、各業界の専門家たちが集い、新たなエコシステムが形成されている。ここに集まるイノベーターたちは、どのような未来を目指しているのか。また、異分野のトップランナーたちと語ることで生まれる化学反応とは。異分野同士の対談により新たな未来像とそこへ向かうヒントを見出す対談連載、「FUTURE meets FUTURE」をお届けする。

2回目となる今回は、湘南アイパークに入居するバイオ企業「アキュリスファーマ」共同創業者で代表取締役社長の綱場一成氏と、転職サイト「ビズリーチ」などを展開する「Visional」代表取締役社長の南壮一郎氏が語り合った。


アキュリスファーマは、2021年1月に創業したばかりのベンチャーだが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資した国内初の企業として注目を浴びている。そんな同社が取り組んでいる分野のひとつが、睡眠に関わる病気だ。日本では睡眠不足による経済損失が諸外国よりも極端に大きく、損失額が15兆円を超えるという試算もある。同社はその社会課題を解決すべく、欧米で承認済みの治療薬の日本での販売を目指している。

一方、ビズリーチとして創業されたVisionalは、転職サイト「ビズリーチ」をはじめ、人材活用事業をメインに据えながら、他領域での事業も展開してきた。2020年2月よりグループ経営体制に移行したことを契機に新たにVisionalグループが誕生。創業から10余年、南氏はあらゆる場で「課題の設定こそが事業の根幹」と言い続け、社会課題の解決こそが事業発展のカギだと考えている。

ふたりの創業の動機となった「社会課題の解決」への思いを皮切りに、「人生100年時代」の働き方やウェルビーイングまで語り合った本対談では、どのような化学反応が起きたのか。

睡眠不足による経済損失と人材活用──二人が見据える社会課題


綱場一成(以下、綱場)私は製薬業界に20年以上携わっており、起業前はノバルティス日本法人の社長をしていました。2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが起きると、ワクチン製造をはじめとして、日本の医薬品業界が世界の先進国から遅れているという事実をあらためて認識しました。それを見て、日本人として、日本が抱えている課題に真っ向から取り組みたいと考えるようになり、21年の年初に立ち上げたのが「アキュリスファーマ」です。日本が抱える課題に対するソリューションとして海外に承認薬があるのならそれを日本に導入し、創薬の時間やコストを節約する「タイムマシンストラテジー」という手法をとっています。


アキュリスファーマ代表取締役社長の綱場一成

南壮一郎(以下、南):私にとって事業づくりの考え方に大きな影響を与えたのは、前職であるプロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスの球団立ち上げの経験です。スポーツビジネスは公共性が高く、事業としてのバランスのとり方が難しい部分がありました。しかし、私の退社後に起こった東日本大震災と復興の過程で、イーグルスの存在が地域のみなさんを勇気づけている姿を目の当たりにした。事業は人々の生活や社会の柱になれると実感したことが事業づくりの考え方に影響を与えています。

綱場:なぜ人材業界に目を付けたのですか。

:海外で育ち、さまざまな業種でキャリアを積み重ねたこともあり、“どこで働くか”よりも、“自分をどう表現するのか”が大事だと考えていました。以前から、なぜみんなもっと自由に働かないのか、自分の選択肢や可能性を知ってより主体的にキャリアを形成するべきではないのか、と。それがビズリーチを立ち上げた動機で、ビズリーチの「リーチ」は主体性を表しています。自分の行動に責任をもったうえで主体的にキャリアをつくることができれば、社会が少し良くなるということを、自分自身のキャリア形成を通じて感じたのです。

綱場:なるほど。私もアメリカの滞在歴が長いので、文化の違いはよくわかりますが、たしかに日本では主体性あるキャリア形成をかなえられる人は少数派ですね。ちなみに、私たちの社名にある「ACULYS(アキュリス)」は、「catalyst(=触媒、刺激を与える人) to access」からとってといます。優れた医薬品や医療サービスにアクセスする、触媒になることを目指しています。

:やはり社名にはその会社の意志が込められていますね。catalystは日本人にはなじみの薄い言葉ですが、どういった意味合いで使われていますか?

綱場:ふたつの意味合いがあります。ひとつは我々がいろいろな非ステークホルダーの間に立って、化学反応を起こすこと。もうひとつは、海外の優れた医薬品を日本に導入するための橋渡しです。

前者に関していうと、エコシステムの中に入っていくことが重要だと考え、創業時から湘南アイパークにベースを置いています。私自身、人と人とが交わることで、予期せぬイノベーションやソリューションが生まれると思っています。また、前職のノバルティスファーマ社のときから湘南アイパーク主導のベンチャーキャピタルコンソーシアムに参加していたご縁もあり、我々が創業する際にはベンチャーキャピタルから資金調達するきっかけもできました。そうした“想定外”を望むのであれば、アイパークのような施設というのは最適な場だと考えています。

また、後者に関しては、まず睡眠関連疾患の治療薬など、欧米で承認されている治療薬を日本で販売することを目指しています。アメリカのシンクタンク・ランド研究所の統計によると、日本の睡眠不足による損失は約15兆円と試算されています。その一部でも解消すれば、日本の社会に大きく貢献できるはずです。

:15兆円。大きな経済効果ですね。業界の固定概念などに縛られないアプローチをとられていて、素晴らしいです。

我々も、“社会の課題解決によりインパクトを与え続けること”をパーパスとしています。それにはまず、社会の課題が何であり、それをどう解決するのか、今までのアプローチや枠組みが正しいのかを問い続けることこそが事業の根幹にあり、その入り口が働き方の変革を支えることでした。そこから派生し、さまざまな産業の生産性を上げるための人財活用プラットフォームや事業承継M&Aプラットフォーム、物流DXプラットフォームなどを次々と立ち上げてきました。個別の事業を開発するのではなく、点と点を線でつなぐことによって、新しいムーブメントを興し、社会全体をアップデートすることを意識しています。


Visional代表取締役社長の南壮一郎

重要視される「パーパス」その根底にあるもの


綱場:おっしゃる通り、社会課題の解決と事業発展は深く関わりあっていると思うのですが、その視点で日本の製薬業界を見ると、憂いを感じることが多いです。日本の大手製薬会社の世界でのプレゼンスがどんどん下がっている。その大きな要因は、バイオベンチャーが勃興していないことです。日本では、自社で創薬から上市までを実現しているバイオベンチャーがほとんどありません。

それは構造的な問題が大きいと考えています。日本の製薬業界では人材の流動がほとんどありません。私がパーパスを重視しているのも、人材流動の突破口がパーパスだと考えているからです。大手で研鑽を積む一方、もっと社会貢献をしたいという思いを持っている人は少なくない。大手ほど福利厚生が充実していなくても、スタープレイヤー級の人材が私の会社に来てくれている。我々が成功することによって、新興企業で働くのも悪くないという例を提示できればと考えています。

そういった意味でも、「ビズリーチ」のように人材の流動化を促すような事業を興味深く見ています。先日も「大企業からスタートアップへの転職者が7倍増」という記事を見て、他の業界ではこれほど人材の流動化が進んでいるだと驚きました。

:ありがとうございます。社会課題やパーパスを重視しない働き方も、ひとつの在り方だとは思っていますが、なぜいまパーパスが重視されているのかという、その背景にある社会構造こそが重要です。

日本の高度成長を支えてきたのは確実に終身雇用制度でした。ただ、高齢社会に拍車がかかり、労働寿命が長くなるなかで、1社に働き続けるということは構造上難しくなってきています。人材の流動化が高まり、自分のキャリアを主体的に決める時代になってきたからこそ、企業のパーパスやビジョンが重要視されるようになった。それが近年パーパスという言葉が広まってきた背景であり、海外では20年近く前から言われていることです。

綱場:おっしゃる通りです。海外の製薬業界では、大企業である程度の役職に就いた後は、多くの人がベンチャーの世界に飛び込んでいきます。それがひとつの潮流になっていて、最終的には自分でバイオベンチャーを立ち上げるのが“成功の道”にもなっている。

アキュリスファーマが創業後まもなく、ソフトバンク・ビジョン・ファンドに投資いただいたことが大きく報じられました。同社からは海外の優れた薬を日本に導入しているというビジネスモデルだけではなく、私たちのチームを評価したと言っていただきました。我々はもちろんプロですし、外資製薬会社の第一線で働いてきた、薬の“目利き”が集まっています。そこに対して高い評価をしてもらえたことに、ものすごく勇気づけられました。

働く人に求められるUnlearnとRelearn


:さきほど綱場さんから「大企業からベンチャーへ飛び込む人がいる」というお話がありましたが、働き方の構造に関していうと、医療技術の発達で「人生100年時代」になり、労働寿命が延びざるを得ないことについても、もっと真摯に考えないといけないと感じています。100歳まで生きるということは、きっと80~85歳くらいまで働かないと暮らしていけません。現時点の社会保障では、対応しきれないからです。

それにもかかわらず、テクノロジーの進化によって、企業やビジネスモデルの寿命は短くなっている。目立ったベンチャーが出てこないという問題にしても、働き方に関する問題にしても、こうした変化と矛盾がすべての根幹にあります。明らかにこの10〜20年の間に、働くことに対する要件定義が変わっています。

もはや「安泰」はどこにも存在しません。「人生100年時代」という社会構造の大変革が起こり、産業自体が厳しいグローバル競争にさらされるなか、どうサバイバルしていくのか。ビジネスモデルの賞味期限が短くなっているのだから、「Unlearn(学んだことを忘れる、捨て去る)」と「Relearn(忘れた後に学び直す)」を繰り返すことが大事であり、それはまさに綱場さんが実践されていることだと思います。そう考えれば、綱場さんがもう1度、大企業に戻ることもアリですよね(笑)。

綱場:本当にその通りで、型にハマらずに柔軟に考えたいとは思っています。

労働寿命の長期化に、医薬品業界ができること


綱場:また一方で、働く側の健康も重要な要素です。肉体は120歳くらいまでなんとか維持できそうだということがわかってきましたが、問題は精神です。90歳を超えると、アルツハイマー病などの認知症の発症率も高くなります。我々の事業が、神経・精神疾患に特化しているのも、日本の社会課題を解決しようと思ったら、70代から80代の方々の精神状態の健康維持を図っていくことが重要だからなのです。

医薬品業界は知識集約型の産業です。本来は日本人が得意とする部分であり、日本が世界をリードしていかなければならない産業でもあります。そこから目ぼしい新興企業が生まれていないことを、私は危惧しています。我々は、大手企業の研究者が憧れをもてる先駆的なベンチャーとなることで、製薬業界において大手からベンチャーに人材流動が活性化する一助になれば、と願っています。

──「労働寿命は延びるが、ビジネスモデルは短命になる」。南氏の指摘は、日本のみならず、多くの先進国が抱えている構造的な問題だ。だからこそ、海外の製薬事情に明るい綱場氏がいち早くそれを感じ取り、“自分でつくることができる確かな未来”としてアキュリスファーマを創業したのだろう。これまでのキャリアを手放し、新たな環境で学び直す。人生100年時代、そして多様性ある時代に求められるのは、柔軟に変化し続けられる人材であり企業なのだ。さまざまな人材が集まる湘南アイパークでは、こうした発見を通して学び直し、変化し続けられる機会があふれているに違いない。


湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)とは

2018年4月に開所した、日本初の製薬企業発サイエンスパーク。現在は、製薬企業のみならず、次世代医療、AI、ベンチャーキャピタル、行政など、大小さまざまな約150の産官学が集まっている。今回の綱場氏をはじめ、社会課題の解決を目指す多くの研究者や経営者が、日々ヘルスイノベーションの創出を目指す場となっている。


綱場一成(つなば・かずなり)◎アキュリスファーマ共同創業者・代表取締役社長。1994年東京大経済学部卒業。総合商社勤務を経て米製薬会社イーライリリーに入社。2017年にノバルティス日本法人の代表取締役社長に就任。20年10月に退任し、21年1月に湘南アイパークに入居する独立系ベンチャーキャピタル・キャタリスパシフィックとともにアキュリスファーマを設立し現職。アイパークでは他の入居企業との協業や連携の機会を期待している。

南壮一郎(みなみ・そういちろう)◎Visional代表取締役社長。1999年、米・タフツ大学を卒業後、モルガン・スタンレーに入社。楽天イーグルスで新プロ野球球団設立に携わった後、09年にビズリーチを創業。20年2月、グループ経営体制への移行にともない現職。





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Promoted by 湘南アイパーク / text by 大橋史彦 / photograph by 有高唯之 / edit by 佐伯香織

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