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2022.03.31 16:00

中小企業を前進させ、自立的な成長基盤をつくる。中小機構「ハンズオン支援」のメソッド。

日本の全企業数の99.7%を占め、ビジネスパーソンの70%近くが働くといわれる中小企業。日本企業の国際競争力が求められるなか、近年、我が国の経済産業政策においては、とりわけ中小企業の生産性向上や成長力強化が重要な課題として指摘されている。

そんななか、中小企業の自立的成長力を育む政策として注目されているのが、中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)が全国展開する「ハンズオン支援事業(専門家派遣)」だ。九州本部で同支援を統括する三戸宏昭シニア中小企業アドバイザーとともに、その仕組みとメリットを読み解く。


課題解決にとどまらず、ノウハウを残すために伴走する


中小機構は、国の中小企業政策の中核的な実施機関として、創業期から成長期、成熟期に至るまで企業の成長ステージに合わせた幅広い支援事業を展開する。そのなかで企業の成長を強力に支援する主要施策のひとつが「ハンズオン支援事業(専門家派遣)」である。

2000年に専門家継続派遣事業が創設され、経営課題に対する支援を通して専門家の知見やノウハウを蓄積し、12年に「ハンズオン支援グループ」が誕生。以来、多様な経営課題の解決に取り組む中小企業を対象に豊富な経験と実績をもつ専門家を派遣してアドバイスを実施。これまで全国各地で1万件以上の企業をサポートしてきたが、近年、利用企業数の増加スピードが速まるとともに、新たな経営課題に対しての支援の関心も日増しに高まっているという。


中小機構が行うハンズオン支援のスキーム

背景にあるのが、中小企業をとりまく環境のめまぐるしい変化だ。中小企業の占める割合がきわめて高い日本においては、中小企業の躍進が日本経済の回復に大きな役割を果たすといわれ、中小企業には生産性や成長性、発展性や革新性が以前にも増して求められる。また、コロナ禍による事業環境の変化、働き方改革やIT化の推進、さらにはSDGs経営など、人材不足という根本的課題の上に多種多様な課題が山積する。

ハンズオン支援事業では、これらのさまざまな経営課題に対し、中小機構が有する1000人超の専門家のなかから企業のニーズに応じた最適な人材を選出し、「派遣アドバイザー」として一定期間(数カ月〜10カ月程度)派遣する体制を整える。案件ごとに専門家と中小機構職員が支援チームを編成し、支援企業内で結成されたプロジェクトチームと一体となって課題解決に取り組んでいく。

肝要なのが、その事業ミッションである。経営コンサルティングといえば問題点の分析と課題に対する解決策の提示を行うというパターンが多いが、ハンズオン支援の大きな特徴は、その名の通り、伴走型の支援を行う点にある。派遣アドバイザーは改善のノウハウは教えるが、具体的に解決策を考え実践していくのは、企業のプロジェクトメンバー自身である。派遣アドバイザーのノウハウをプロジェクトメンバーに移転することで、支援終了後も、企業が自立的に成長・発展できるようにする。それこそが、ハンズオン支援の目的なのだ。

また、中小機構の支援チームには、3種類の専門家と職員という複合チームが編成される。派遣されるアドバイザー、支援案件ごとの支援計画やスケジュール進捗を管理する管理者と呼ばれる専門家、支援案件全体を総括するシニア中小企業アドバイザーが、複合的な目で企業の支援にあたっている。


中小機構 九州本部ハンズオン支援チーム 中小企業アドバイザー(案件管理者)。左端がシニア中小企業アドバイザー・三戸宏昭

九州本部ハンズオン支援シニア中小企業アドバイザー・三戸宏昭はそのねらいを次のように話す。

「課題の解決法を提示するというのは、一時的には改善につながるかもしれませんが、新たな環境変化が起きたときに、自身の能力で課題解決のためのプロジェクトを遂行するのは難しいままです。プロジェクトメンバーが主体的に取り組むことで、ノウハウを手にすれば、たとえビジネス環境が変化して新たなテーマと向き合うことになったとしても、企業自身が、課題に立ち向かって解決していくことができるようになるのです」

三戸は、現役時代に自動車関連企業と大手電気機器メーカーに勤務経験があり、製造現場で培ったノウハウを地元九州の中小企業強化に役立てたいと、3年前にハンズオン支援アドバイザーとなった。機構に登録する1000人超のアドバイザーのなかには、中小企業診断士や公認会計士のほか、三戸のような大手企業出身者も多い。経営や実務に深く関わったノウハウが、支援を通じて企業の血肉となっていく、それがハンズオン支援の最たる強みだといえるだろう。

社内メンバーが主体で行うキックオフ、中間報告会、終了報告会


支援開始までに十分な準備期間(2〜3カ月)を設けるのもハンズオン支援の特徴だ。なぜなら、最初の企業訪問で挙がった課題と、その後の現場視察やヒアリングから浮き彫りになった真の課題とが異なることが往々にしてあるからだ。「その企業が本当に必要とするサポートは何か、真のニーズを見極めたうえでの課題設定が必要です」と三戸は強調する。

一方、伴走支援であるからには、支援を受ける企業側にもそれ相応の覚悟が求められる。まず、支援を始めるにあたり、前出のように企業内でプロジェクトチームを結成する。支援種別でいちばん多いのが製造業における収益拡大や生産性向上だが、その場合、経営トップもしくは、工場長などの現場を統括する人がプロジェクトリーダーとなり、その下に5〜6人のプロジェクトメンバーが参加するケースが一般的だ。

また、新商品開発などの場合は、マーケティングから生産管理・調達、製造、品質管理、サービスまですべての部署を網羅する必要があることから、必然的に10人ほどの人材がプロジェクトに参加することもある。

プロジェクトメンバーは、月2回合計10時間程度、派遣アドバイザーからのアドバイスを受けながらプロジェクトの遂行に時間を費やし、さらにはキックオフ、中間報告会、終了報告会に向けての資料作成やプレゼンの準備も自分たちの手で行う。多忙な現場のメンバーがこれだけの時間を割くということは、必然的に、現場の負荷が上がるということを意味する。

ただでさえ人手不足の中小企業である。どのように壁を乗り越えていくのか? 三戸が自ら手がけた事例を紹介してくれた。


イケヒコ・コーポレーションでのプロジェクトミーティング

イケヒコ・コーポレーション(福岡県)は2万点近くの商材を取り扱うインテリアメーカーで、10ヶ所の事業部毎で管理する倉庫における物流の効率化が急務となっていた。そこで2年半をかけて支援を行い、一期目に5S活動の徹底、いわゆる「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」という職場環境改善のための活動を実施。二期目に本来の課題である出荷体制・工程の見直しと5Sの定着を行い、三期目にコロナ特需で増加した通販・ネット販売のスピード出荷体制づくりを推進した。

三戸曰く、5Sの真の目的は、会社の生産性と社員のモチベーションを高め、社員自らが改善するという状況を恒常的に保てる仕組みをつくることにあり、そのために、“全員参加”がポイントになる。しかし一般的に5Sを提案すると2割の人は協力を渋るという。

「理由は明白、本業が忙しいうえに仕事が増えることに対する拒否反応です。たいていの会社でその状況は起こります。ところが、プロジェクトが進むにつれ、目に見えて働きやすい環境になり仕事が楽になってくると、これらの人々にも意識変化が起こり、なかには積極的に活動をサポートする人も出てくるんですね。二期目、三期目ともなれば派遣アドバイザーとの関係も「先生と生徒」から「同志」に変化。作業改善に向けて社員の試行錯誤の場面も増え、三期目で実施した通販のスピード出荷体制づくりにおいては、商品1個あたりの作業時間が40%削減するまでに至りました。

キックオフ時には低かった報告会のレベルも上がってきました。プレゼンの仕方が上手くなる。いままでPowerPointも使ったことのない人が、さまざまなアプリケーションを駆使してプレゼン資料をつくる、社長を含め人前で発表するその成功体験がさらに前向きなエネルギーを生み、企業活動全体を活性化させるという好循環を生み出すまでになりました。いまは、次の課題の抽出を行っているところです」

その話を裏付けるように、プロジェクトを完遂したメンバーからは、「考え実行することが大事だ」「変化を感知して積極的に案を出したい」「初めての人でも即戦力になる現場へ。そのために見える化、仕組み化を」といった言葉が自然と出てくるようになっているという。壁を乗り越えた先の社内には、人の成長や組織活性化など想像以上に多くの可能性が広がっているようだ。

経営トップの強い覚悟と発信力、調整力が不可欠


「ハンズオン支援には、経営トップの強い覚悟が欠かせない」と三戸は指摘する。

中小機構の全国10ヶ所の拠点では、地域の将来、日本の将来を牽引する中小企業の価値創造に向けてさまざまなサポートを実施している。しかし、成功事例ばかりがあるわけではない。なかには支援を申し込んでみたものの、やはり目の前の仕事が忙しくて社員に負荷をかける体力がなく、途中で支援を受けることを諦めてしまう企業も少なからずあるという。

支援計画の進行に遅れが出た場合は随時、管理者アドバイザー、シニアアドバイザー、中小機構の職員とが企業に出向き、計画の見直しなどを行うが、前へ進めるかどうかは経営トップの考え方次第だ。

「企業はどこへ向かおうとしているのか、そのために何をなすべきか。トップには、あるべき姿を目指して前進するための強い覚悟とともに、企業の体力を維持するための発信力と調整力も必要である、と私は考えています。コロナ禍によって急激に変化した社会はこれからも変化していくことが予想されます。その外部環境に敏速に対応する能力をたゆまぬ自己変革によって育み、持続可能な成長と発展へとつなげていかなければなりません。その実現のために企業と手を取り伴走し続けていく、それが我々の使命だと考えています」


中小機構 九州本部ハンズオン支援チーム(中小機構職員)

現在、中小機構ではハンズオン支援に関わる専門家のノウハウをさらに高次化することで、標準支援サービスのレベルアップを目指している。九州本部では、中小企業の支援ニーズに幅広く対応できるよう「ノウハウ集約プロジェクト」を立ち上げ、支援チームを編成する専門家内でノウハウ共有をはかり、さまざまな中小企業の課題に対応できるよう品質の向上に努めている。自社の生産性や成長性に課題を感じている経営者は、国の機関が行う支援事業についても情報収集し、最大限に活用することを検討してみてはいかがだろうか。

中小機構 ハンズオン支援
https://www.smrj.go.jp/sme/enhancement/hands-on/index.html

Promoted by 中小機構 | text by Sei Igarashi | edit by Yasumasa Akashi